戦う事しか知らない女ですが、幸せにしてくれますか?
仲仁へび(旧:離久)
第1話
――私は戦う事しか知りません。
――剣をふるう事しか知りません。
――何も面白い事など語れません。
――それでも結婚したいというのですか?
私がそう問いかけたら、貴方は答えました。
にっこりと笑いながら、まっすぐにこちらを見て頷きます。
「ええ、もちろん」
返ってきたたそれは、肯定の言葉です。
聞き間違えようのない言葉です。
けれども。
私はその言葉を、信じられない思いで聞いていました。
だって、今までの人生が人生でしたから。
簡単に今起こった事を信じろと言う方が無理です。
私の人生は、そんな風に求婚されるようなものではなかったから。
私の歩いてきた道は、誰かに「人生を共にしてほしい」と言われるようなものではなかったから。
私が生きている世界には、明確に決められている事がいくつかあります。
それは。
聖女は一般的には女性。
勇者は一般的には男性。
そして剣聖は一般的には男性がなる。
という事です。
魔物からの脅威にされされている人間達は、自分達で力のある存在を決めて、聖女や勇者、剣聖などをまつりあげてきました。
けれど必ず。
聖女は女性。
勇者は男性。
剣聖は男性。
が、なったのです。
この話をはじめにしたという事は、つまりそういう事です。
私は剣を扱う者。
だから、私は剣聖で、男性がなるはずの剣聖に女性がなっているのです。
聖女を決める基準は、人を癒す力が強い人です。
勇者を決める基準は、多くの敵を葬る事が出来る人です。
そして剣聖を決める基準は、誰よりも剣の扱いにたけている人、です。
数年に一度行わる剣術の大会。
そこで、優勝した人が剣聖になります。
剣聖はすべての剣士の上にいる存在です。
国王に認められた存在。
正式な剣士の中の一番。
多くの人が羨み、尊敬する存在ですが、剣術大会で優勝した私は女性でした。
だから剣聖になった後は、誰もが戸惑い、扱いかねる事になりました。
親しみをもって接してくださる方は少なく、いつも人から遠巻きにされるばかり。
剣聖になった瞬間から、私の人生は孤独になりました。
けれど、それでも良かったのです。
私の剣の腕で、大切な家族や友人を守る事ができるのなら。
喜んで残りの人生を孤独の中におこうと思いました。
そんな剣聖の仕事は、過酷なものばかりになります。
人類の敵であるやっかいな魔物を退治したり、犯罪者や重罪人と戦ったりします。
状況によっては、戦場に赴き、千人以上・一万人以上の敵の中にほうりこまれたりもしますね。
だから、剣聖は短命なんです。
先代も、先々代も若くして亡くなりました。
私もきっと、すぐに死んでしまうのでしょう。
しかし、すぐにまた新たな剣聖が選ばれるので、問題はありません。
私の大切な人達はきっと、次代の剣聖が守り通してくれるでしょう。
この境遇に、文句などはありません。
剣聖だけでなく勇者や聖女なども同じです。
騎士や兵士達だって同じなのですから。
私達は、その方達より少し危険な場所に身を置く事が多いだけ。
だから、そんな剣聖である私は、恋をしようなどとは思いませんでした。
「恋をしないのか?」
などと、そんな事をたまに聞かれますが、私はいつもあいまいに笑ってごまかします。
優秀な遺伝子を残すべきだと、そう考える人達が声をかけて下さるのですが、私は頷けません。
そんな事の為に相手と一緒になるのは、その人に失礼ですし、剣聖は短命ですから。
本気で好きになったら、辛いだけでしょう?
それに。
私と一緒にいても面白くないですし。
昔はともかく、仕事をこなすようになってからは、戦いの事しか、お話できません。
だから、恋はいいんです。
私はずっと一人で剣を振っている方がいいんですから。
けれど。
「僕と結婚してほしい!!」
私に求婚する方がいらっしゃいました。
驚きのあまり、「今、なんとおっしゃったのでしょうか」とそのセリフをもう一度聞いてしまったほどです。
今思えば、とても失礼な事をしてしまったと思います。相手の人は、笑って許してくださいましたが。
求婚した彼の気持ちは、固いようでした。
遺伝子目当てでも、剣聖という名誉目当てでもなく、本気で私の事が好きなように見えました。
そんな人があられるなんて思いもみませんでした。
とても物好きな方です。
その人は、それからも何度か私に告白してくださいました。
私はそのたびにお断りの言葉を伝えるのですけれど、彼はまったく諦めません。
たいして面白くもない私と結婚するために、顔を合わせるたびに求婚してくださるなんて。
どうしてそんな事ができるのでしょうか?
ひょっとして変わり者、という方なのでしょうか?。
けれど一つ分かるのは、悪い人ではないという事です。
何か困った事があれば、相談にのってくれますし。
相手の方は私の気が変わるのを、ずっと待ってくれていますから。
しかしそれは、相手の時間を無駄にするばかりなので、いつも早く諦めてくださいと言っています。
「私を気にかけるよりも。その時間を使って、他の女性の事を考えてあげてください」
こうやって断りの言葉を続けていれば、いつか諦めるとかなと思っていました。
けれどその人は諦めませんでした。
なぜか次第にその方は、剣をふるうようになりました。
私と同じ立場になれば、結婚の願いを受け入れてくれると思ったらしいです。
その人は、少し考え方がずれているのかもしれませんね。
剣聖は一人しかなれないのですから、同じ立場にはどうやってもなれないというのに。
それでも、歴史を紐解けば、剣聖に匹敵する人間が数名いた時代もあったので、それを目指していたのかもしれません。
しかし、その努力が実らない事は明らかでした。
才能があればまた違う話になっていましたが、彼に剣の腕はありませんでした。
振った剣が手からすっぽぬけて、どこかへ飛んでいくくらいですから。
だから、彼のしている事は無駄なのです
私は、なんども「諦めて」と声をかけました。
けれど、「君が好きなんだ」と彼は諦めません。
ずっと、ずっと諦めないままです。
雨の日も、晴れの日も、忙しい日も、そうでない日も。
いつも地道に上がるはずのない剣の腕を鍛えていました。
その光景を見ているうちに私は分かってしまいました。
彼は私がいくら諦めてといっても止まらないのだと。
それほどまでに彼の愛は真っすぐで純粋で強いものだったから、きっといつまでたっても止まらないだろうと。
ならば、彼にやめてほしいなら、私が折れるしかないじゃないですか。
計算してやっているわけではないのが、質の悪い所ですね。
真っすぐで良い人なのに、なんて卑怯な方のでしょう。
「分かりました。あなたの求婚をお受けいたしましょう」
「本当かい!?」
「だからもう剣を握る必要はないのですよ」
私は彼と婚約を結びました。
剣聖だから、明日死ぬかもしれませんし、明後日死ぬかもしれません。
世界の様子が変われば、子供を授かる暇もないほどの激務がまっているかもしれません。
温かい家庭など、つくる事もできないかもしれません。
それでも、彼はずっと変わらないままなのだろう。
私を思い続けてくれるのだろう。
永遠に好きでい続けてくれる。
愛してくれるのだろう。
そう思ったから、私は彼と一緒に生きる事を選びました。
「いつまで一緒にいられるか分かりませんがよろしくお願いします」
短い命で生きるこの人生の中、後悔しないようにと。
戦う事しか知らない女ですが、幸せにしてくれますか? 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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