第23話 後始末

「めちゃくちゃ帰り道に幽霊とすれ違うんだが!?」

「頭がおかしくなるかと思った…」

「結界を壊したらすぐにダンジョンに戻って来るとは、ホームシックかのぅ」


このダンジョンに貼られていた結界を破壊すると、町にいた幽霊が一気にダンジョンに押しかけて来た。


「半透明の奴がこっちに向かってくる恐怖感って半端ないよな」

「怖かった…」

「お主ら、まだそんな事を言っておるのか…」

ポヨンッ…。


幽霊とすれ違いながらもダンジョンから脱出した。


「外は、まだ夜か」

「言っても1時間くらいだったしね」

「お主ら、今日の宿はどうするのじゃ?」

「…」

「…」

「…お主ら」

「いや、この時間って宿空いてんの!?」

「知らないわよ!!というか、大声出さないの!!」

「お主ら2人ともうるさいぞい」


時間は、午後の10時くらいだろう。

まだ深夜というわけではないが、幽霊騒動があったため町は静まり返っていた。


「これは、あれか。初の車中泊か」

「あの車ってセダンだけど3人と1匹で寝るには狭いよね…」

「…頑張って起きて、アルヴァンまで帰るか」

「…そうだね」

「妾は、寝ても良いかのぅ」

「「駄目」」

「何じゃと…?」

「ソフィアも起きていなさい」

「そうだよ。起きてないと許さないから」

「お主ら、妾は今回頑張ったと思うのじゃが…」

「「駄目」」

「な、何じゃと~」


こうして楓たちは、不眠でアルヴァンまで帰るのであった。










「「「ただいま(なのじゃ)~」」」

ポヨンッ…。

「もう無理、眠い」

「お風呂…」

「妾は、もう寝るのじゃ…」

ポヨンッ…。


3人と1匹は、それぞれの寝床に倒れ、そのまま眠りについた。










ソフィアは、夢を見ていた。


『お主ら、いつも通り冒険者に思い知らせるのじゃ!!』


ソフィアは、部下である魔物たちにダンジョンを攻略しにやって来た冒険者の迎撃を指示した。

普段の冒険者であれば、大した戦力も無く迎撃など容易いものだった。

しかし、この日は違った。


ザシュッ!!

ズドンッ!!

スパッ!!


『お主が妾の部下を…家族を殺したのか?』


ソフィアの前には、彼女の部下でもあり、家族でもあるダンジョンの魔物を殺した人間がいた。


『お主が妾の家族を!!』


ソフィアは怒りに任せ、魔法を放つも返り討ちに遭った。

挙句の果てに、徐々に命が削られていく呪いをかけられてしまった。

その呪いをかけ、ソフィアの家族を殺した人間、それは勇者という存在だった。



ポヨンッ…。

「レ、レイナ…」

ポヨンッ…。

「お主は無事じゃったか…」

ポヨンッ…。

「よ、良かったのじゃ…」

ポヨンッ…。

「本当に良かった…」



勇者によるダンジョン攻略の中で、レイナだけが生き残っていた。

ソフィアに呪いをかけた勇者が、このダンジョンを立ち去りどのくらいの時間が経ったかは分からない。

だが、この弱っている状態のソフィアを何者かが、いつ殺しに来るか分からない。

だからレイナはソフィアを守るためにダンジョン全体に幻術を施していた。




ズドンッ!!


「どう?壊れた?」

「煙でよく見えん」

「どうかな~」


何者かがレイナの幻術を突破した。

ソフィアは、死を覚悟した。

しかし、その覚悟は無駄に終わった。

なぜなら…


「あんたを治す」

『何を言っておるのじゃ…?』

「俺の奥様があんたを治療したいって」


その日、ソフィアとレイナは、とある夫婦によって救われた。









「むぅ…」

「起きたか?」

「ソフィアさん、おはよう」

「うむ、おはようなのじゃ」

「朝ごはんは出来てるぞ。まあもうすぐ昼になるが」

「仕方ないよ。昨日は大変だったし。それに私たちもさっき起きたばかりだしね」

「そうじゃったか」

ポヨンッ…。

「レイナも起きておったのか」

ポヨンッ…。

「うむ、そうじゃったか」

「レイナさんは何て?」

「レイナも今起きたようじゃ」

「ふふっ、可愛いね」

「ほら、冷めるぞー」


楓、有咲、ソフィア、レイナの3人と1匹は、食卓につく。

朝食と呼ぶには、少し遅い食事をとる一同だった。


「それで楓、今日はどうしよっか」

「昨日の報告を冒険者ギルドにしに行くぞ」

「ああ、そういえばそうだね」

「妾とレイナは、留守番するかのぅ」

「おう」

「分かった」

ポヨンッ…。


食事を済ませ、楓と有咲は外出の準備をする。


「今日は、これかな」

「有咲もここの服を気に入ってるな」

「まあね」


今日の服装は、楓がタキシードで有咲はウエディングドレスだ。








「それで調査の方はいかがでしたか?」

「まあ幽霊は本当だったな」

「そうだね」

「原因とかは分かったのでしょうか?」

「まあ一応な」

「ねぇメリッサ、勇者ってどんな人?」


ヴェレヌのダンジョンの話をする前に、勇者の事をメリッサに尋ねる。


「勇者ですか…?。私もあんまり知らないんですよね。冒険者の中でも英雄的存在としか私は…」

「そうか」

「あんまりこの街には来ないのかな?」

「まあそうですね。もし居たら大騒ぎになってますよ」

「なるほど」

「それもそうだね」

「それで、その調査結果の方は…?」

「ああ、そうだったな」

「調査の結果、あの町のダンジョンに結界が張ってあって、その結界のせいで幽霊がヴェレヌの町に流れ出ちゃったって感じ」

「そうなのですね…」


楓と有咲は、勇者がその結界を張った事は話さなかった。


「とりあえず、その結界は破壊したから。あの町が観光地に戻るのも時間の問題だろ」

「そうだね」

「そうですか。お2人やソフィアさんには感謝を申し上げます」

「良いよ」

「うん。それにそういう報酬の出ないお願いも冒険者っぽいしね」


こうして幽霊騒動の真相を突き止め、事件は終息した。









「あっ」

「楓?どうしたの?」


2人が冒険者ギルドから帰る途中、楓は何かを思い出した様子だった。


「ヴェレヌの穴埋めてないよな…?」

「あっ…」


ダンジョンを見つけた際に、ソフィアの魔法で開けた穴をみんなそのままにしていた。


「まっ良いか。バレないだろ」

「依頼として来たりするかもね」

「ははっ、かもな」

「ふふっ」











「はぁ…。ショベルカーとかないのか…?」

「鉄筋コンクリートとか無いの…?」

「こればっかりは妾にも責任があるのぅ」


3人は、(レイナはソフィアの持つ鞄の中)ヴェレヌで開けた穴を埋めていた。


「魔法でどうにかしろよ…」

「本当だよね」


具体的には、穴を埋めるようにマンホールのようなものを作っていた。


「道路をつくる魔法なんて、農民や商人が持つわけないじゃろ」

「冒険者にだってねぇよ」

「工事現場の職人とかこの世界には居ないの?」

「いることにはいるが、高くつくからのぅ」

「冒険者にだって人件費はしっかり払うべきだろ」

「労働基準法をこの世界にも必要よ」

「お主ら、口だけでは無く手も動かすがよい」

「「はーい」」


その後、黙々と穴を埋める3人だった。







「…なぁ」

「…うん」

「どうして俺たちは一緒にお風呂に入っているんだ?」

「分かんない」


楓たちは、ヴェレヌにある温泉に浸かっていた。

それも楓と有咲の二人で。


「家族風呂があるなんてなぁ」

「そうだね」

「というか、2人で一緒にお風呂っていつぶりだ?」

「いつだろう…。昔は、一緒に入ったことあるよね。…ホテルで」

「まあそのホテルは、そういうテンションだったからなぁ」

「ふふっ、そうだね」

「だろ?」

「でも、そういうのを抜きにしたらあれじゃない?2人で行った卒業旅行とか」

「ああ、あれかぁ」

「あの時も楓がほとんど運転してくれたよね」

「有咲も免許があるのに、頑なに運転しなかったよな」

「私は助手席に居たいからね」

「怖いだけだったじゃん」

「もちろん」

「否定くらいしなさい」


楓と有咲が一緒にお風呂に入っている中、ソフィアとレイナは…。


「レイナ、お主も綺麗にするのじゃ」

ポヨンッ…。


彼女らは、ホテルのお風呂に居た。


「流石に妾たちは、温泉に入るとなると目立つからのぅ。ホテルのお風呂で我慢じゃ」

ポヨンッ…。

「にしてもレイナは、肌が綺麗じゃのぅ」

ポヨンッ…。

「ツヤツヤじゃ」

ポヨンッ…。

「ほほぅ、お主も乙女じゃな」

ポヨンッ…。







かくして、本当の意味でこのヴェレヌでの幽霊騒動事件は、幕を閉じた。

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