シューショク難!
スペアまりも
第1話 始まり始まり
季節は冬の寒い時期。12月のはじめ。
待ち行く人々が、クリスマスを意識する頃だ。
「章く〜ん、あそこのコンビニ、今、チキン20円引きなんやて〜。」
「へえ、そうなんすね。」
と、僕は、何の気無しに、梶谷さんのお得情報に、相槌を打つ。
「今度、キャンペーンで、ドリンクも付くらしいで〜。」
「いや、お得ですね。」
中々、上手い返しができないな。と思いつつも、返事を返し会話をつなげようとする。
僕は、統合失調症という、病気だ。
幻覚が見えたり、幻聴が聞こえたり、はたまた、俺はすごいやつだ!と確信してしまう、妄想という症状などがあると、一般的には言われている。
僕の場合は、悪口を言われているように感じたりする、幻聴が主な症状だ。
僕は今、就労移行支援事業所という所に通っている。
「鈴谷スキルアップスクール」 という名前だ。
ここは、生活訓練の場で、一般就労に繋げようというのが、主な目的だ。
一般的に言うと、障害者の職業訓練みたいなものだろう。
今、お得情報をくれた、梶谷さんは、併設された、就労継続支援事業所に通っている。
継続支援事業所は、工賃が出て、職業訓練というよりも、「就労の場」というのが違いなのだ。
梶谷さんとは、いつも最寄り駅で一緒になり、スクールへの通学中、こうして世間話をしながら、通っている。
「ほな、また〜。」
「はい、頑張ってください!」
最寄り駅から、15分ほど歩くと、スクールが入っている、「ニコニコサンビレッジ」にたどり着く。
築何十年も経っているが、鉄骨で立派なマンションだ。
そこの、「205号室」(に〜こにっこと覚えている)の扉を開けると、
「おはようございます!章さん!!」
「おはよう、章くん」
という支援員さんの声が、すぐに響くので、
僕も慌てて、返事を返し、訓練の準備をする。
「さあッ!今日もよろしくおねがいしますね!いつも来てくれてありがとう!早速、清掃訓練お願いします!!」
気合い充分なのは、支援員の高橋さんだ。
女性の方で、年齢は、だいぶ上の方な、はずなのだが、しっかりと伸びた背筋、よく通る声に、清潔感のある身だしなみ。等により、だいぶ若く見える。就労移行支援の職員さんの中で、リーダー的存在だ。
「そんなに焦らなくてもいいけど、テキパキ動くのも訓練のうちだから。でも無理のないようにね。」
そう言ってくれるのは支援員の岩田さんだ。
常に笑顔を崩さず、人の話を聞くのが、とても得意な、良識人だ。
二人共、昔は、誰もが知る大企業の、部長職をしていたことがあるらしい。傍から見ると、わからないものだなと思う。
「健二君は、掃除機と、モップがけ!恵みさんは、洗面台!章くんは雑巾がけをお願いね!!」
了解しました、と答えている、健二くんは、僕より3つ上の、職人タイプだ。
ここに来る前は、車の部品をつくる工場で働いており、過労により、手帳を取得し、通っているらしい。
分かりましたと答えている、恵さんは、料理上手な、水泳選手だ。なんでも、何回も、全国大会に出場し、結果を残したことがあるらしい。なぜここに通っているのだろう?
こうして、慌ただしく、朝の時間が始まる。
僕のちょっとした日常の物語も、ここから始まる。
皆様、どうぞ、よろしくおねがいします。
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