キスだけで充分

十夢は、私の髪を優しく撫でる。


「みんな、キスしたら先にいきたくなるって言うけどね。俺は、違う!キスだけで、止めれるんだ。確かに、下半身は膨らむよ。だけど、愛してるから止めれる。好きな人のタイミングや様子を見て、止められるんだ。だって、愛してる人を性の捌け口にしたくないじゃない!」


十夢が、髪を撫でるだけで優しさが降り積もってくる。


「愛ちゃんが、あの人に抱かれていても構わない。ただ、俺は愛ちゃんにあの日みたいに泣いて欲しくないだけだから…」


十夢は、そう言って私から離れた。


「あの人からだ」


「窓閉めるね」


私は、窓を閉めに行く。


「もしもし。うん、マスコミはいたよ!大丈夫だよ!ちゃんと送り届けた。わかった!じゃあ、おやすみ」


十夢は、そう言って電話を切った。


「何て?」


「手出すなよ!無事送ったかとか、そんな感じかな」


「十夢は、私と付き合いたいの?」


私は、窓を開けに行った。


カチッと煙草に火をつけた。


純の煙草は、バニラの香りがするけれど、十夢の煙草はチョコレートの香りがする。


「愛ちゃんが望むなら影武者じゃない方がいいよ。でも、あの人がいいって言うなら俺にはどうすることも出来ないよ」


そう言って、十夢は悲しそうに目を伏せた。


ビールを二本飲み終わって、十夢は「寝ようか」って笑った。


「うん」


私は、洗面所に十夢を連れてきて替えの歯ブラシを渡した。


十夢を選べば、愛に満たされて幸せでいれるのがわかってる。


並んで、歯を磨く。


男の人は、膨らんだら処理しないといけないと思っていた。


でも、十夢は違うと言った。


十夢がうがいするのを見て小さなタオルを差し出した。


「ありがとう」


私も、うがいをした。


戻ると、十夢はテーブルの上を片付けていた。


きっと、この人は女の人を幸せにする人


私には、わかる。


押し付けなくて、寄り添って、無理をさせない人。


物足りないって、思われちゃう人


流しに、十夢はグラスを下げてる。


「布団ないの」


「いいよ、ソファーで寝ていいかな?」


私は、きっと世界一ズルい。

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