第5話 何を注文しようか

 二人は一番奥の席に座った。

「何を注文しようかな。やはりこの国にいると言ったらカフェオレとクロワッサンがいいですね」

「はいこれがメニュー」

「ありがとうございます。カフェ・エクスプレス、カフェ・ノワゼット、カフェ・クレム……あれ、おかしいな」

「どうしたの」

「カフェオレがないですね」

「それはカフェ・クレムのこと。メニューにはカフェオレとは書いてないよ」

「そうなのですか。ではこのカフェ・クレムにします」

「では私もおなじものを。それとクロワッサンね」

「はい私もクロワッサンを。ここで本場のカフェオレとクロワッサンがいただけるとはとても楽しみです」

「日本でもカフェオレとクロワッサンをすることが多いの?」

「いえ実はそうではありません。コーヒーはブラックです」

「ではどうしてここではカフェオレなの?」

「やはりパリにいるからです。パリというとどうしてもカフェオレのイメージがあるもので」

「そういうことか、では普段はブラックを飲んでいるわけね」

「そうです」

「ブラックのどういうところが好きなの?」

「やはりあの苦みです。あの苦みがおいしくて好きなのです」

「確かにあの苦みはおいしいね」

「そうでしょう。だからミルクや砂糖を入れて甘くしてしまうとなんだかもったいなくて」

「あの苦みが台無しになってしまうからね」

「そうです。しかし今はここパリにいます。だから今は特別です」

「日本人ってフランスはカフェオレの国というイメージを持っているの?」

「言葉が持つイメージかもしれません。カフェオレという言葉がです」

「フランス語だもんね、カフェオレという言葉は」

「はい。ミルクコーヒーではないからです」

「しかしミルクコーヒーもカフェオレもどっちも同じだよ」

「そうでしょうけれど、なにかイメージ的なものといいますか、そういう微妙なものがあるみたいで。それでカフェオレと聞くとどうしてもパリをイメージしてしまうからです」

「ではクロワッサンはどうして」

「実はこれもです。カフェオレとクロワッサンを注文したのは今日が初めてです」

「ではクロワッサンも日本ではあまり食べないわけ」

「そうではありません。もちろん好きで食べます。カフェオレと一緒に注文をしたということです」

「では普段はコーヒーのお相手はなに」

「チョコレートです」

「ああ、そういうことね。これでコーヒーはいつもブラックというわけがわかったよ。つまり甘いチョコレート食べながら苦いブラックコーヒーを飲むということね」

「そうです。こういう組み合わせが実においしいのです。しかし今はそういう気分ではないからです」

「パリにいるから」

「そうです」   つづく




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