第12話 予言
学園が休みに入り、王宮に出向く日がやってきた。
シアと友人達は制服を着て王宮に出向くことになり迎えの馬車を学園の入口で待っていた。小太郎もすっかり皆に慣れ、気持ちよさそうにエマとルーナに撫でられていた。
「小太郎、ここか、ここなのか」
「くっ、エマ……やるな~、うん。気持ちいいね~」
「ここも好きだよね」
「おお、そこは……ルーナ、さいこおぉ~」
美少女二人に撫でられてご満悦の小太郎を横目に、男子達は若干緊張をしていた。
「なぁノイマン、ガチガチになってるぞ」
「そんなこと言っても、王様に会うんだぞ」
「でも、いつも王子のアーサーとはじゃれ合うだろ?」
「それとこれとは別なんだよ。アラガンを見てみろ」
「………………」
「無言だね。起きろアラガン、飯だぞ」
「アラガンはそれじゃ起きないよ」
「じゃぁ、アーサーはどうやって起こすんだよ」
「ふふ。アラガン、ミスリルがあるぞ」
「……ミスリル? どこだ、ミスリル見せろよ」
「ほらな」
「負けたよ」
そんな会話をしているうちに王宮の正門が見えてきた。シアにとっては初めての王宮である。壮麗にそびえる煉瓦作りの外壁を滔々と水をたたえた堀が囲み込む。大きな吊橋を渡り、幾つもの門をくぐりぬけると広大な庭が見えてきた。中央付近には大きな噴水が吹き出し、芝生の庭の中を小川が流れ涼やかさを演出する。よく手入れのされた花壇には花が咲き乱れ色を添えていた。シアも思わず感動してうっとりしていると、馬車が止まった。
執事らしき人が馬車の扉を開けてシアたちを先導する。
馬車が通れそうなほど広い廊下を歩いて行く。大勢の人がアーサーを見て立ち止まると廊下の端に寄り会釈をする。人々の会釈の中をふわふわの絨毯の感触を楽しみながらシアと友人達は歩いて行った。
徐々に調度品が豪奢になり、壮麗な扉が見えてきた。するとアーサーが、
「あれが謁見の間になるんだ。だけど今日は非公式だからこちらに来てもらうよ」
そう言いながら角を曲がり先に進む。執事らしき人がこの先は王族達のプライベートスペースだと教えてくれた。いくつかの扉を過ぎて奥に行くと大きな扉が開け放たれていた。その中に入ると、大きなソファーが一人ずつ用意されていて、小太郎のために柔らかいクッションが敷き詰められた台まで作ってあった。シアはアーサーの心遣いに感謝をし、案内されたとおりに腰かけた。
紅茶を勧められて味わいながら待っていると、一見して王様だとわかる貫禄のある男性が女性と子供を連れて入ってきた。慌ててシアたちが立ち上がろうとすると、王様は手でそれを押しとどめて座らせた。
「よく来てくれたな。アーサーの友人達。予はフライブルク王国の王にしてアーサーの父、アレクサンドロス・フライブルクという」
「私は王妃のオリビア、アーサーの母です」
「私はシャロン、お兄ちゃんの妹なの」
と、親しみを込めて挨拶をしてくれた。すると、シャロンが、
「えーと、あのワンちゃんが小太郎だね、可愛い」
と言ってシアたちが自己紹介をする前に小太郎に抱きついてしまった。すると、王妃も、シアの方を見て、
「私も触らせて頂いてよろしいかしら」
と聞くと、小太郎のところに行くと撫で始めてしまった。
流石に王様も苦笑交じりにならざるを得なかったが、撫でられていた小太郎が全員に念話でわかるように、
「おお~、気持ちいい~」
と間の抜けた声を出したため、全員が笑ってしまい、一気に場の空気が和らいだ。
おかげで皆は緊張せずに自己紹介を終えることができたのであった。
皆の自己紹介が終わると、アレクサンドロスは全員の顔を眺めながら話し出した。
「まずそなたたちに礼を言わねばならん。アーサーはご覧の通り一人息子だ。本来国政を安泰にするためには複数の妃を娶り、世継ぎも複数作らねばならない。だが、私はオリビア一人しか娶らなかった。アーサーはこの先王太子となり、やがては王となるであろう。不慮の事故を防ぐために王宮の奥から出さずにいたのだ。そのためにアーサーは友人を作ることが出来なかった。アーサーの友になってくれたそなたたちに最大限の感謝をする」
それを聞いたシア達は、
「アーサーとは友達になろうとしてなったのではなく、学園に入学してからすぐに気がつけばみんな仲良くなっていました。俺もアーサーといると楽しいし色々なことを学べます。友達になってもらってお礼を言うのは俺たちです」
「そうですね。誰も友達になろうと努力していません。気がつけば仲良くなりましたし、互いに色々と教えあって楽しく過ごしています。
「うん。アーサーと友達になったおかげで王宮にも来られました」
「王様に会えるなんて……」
そんなことをアーサーの友人達が口にしたのを聞いてアレクサンドロスとオリビアは涙を堪えながら喜んでくれた。
「アーサーよ。友は一生大事にせよ。そして人が国を作るのだ。それをシア・ペルサスがこれから教えてくれるであろう」
「シアが教えてくれるのですか?」
「うむ。皆にこれから話しておくことがある」
そう言うと、シアの目を見てから話をはじめた。
「そなたたちの友人であるシア・ペルサスがカール・ガイウス・ペルサスの息子であることは知っているな?」
「はい。父上。全員が知っております」
「ロシアン帝国が既に滅んだペルサス王国の王族達を目の敵にしているのも知っておるな?」
「はい。そのことも全員が知っております」
そこで全員の顔を見回してからゆっくりと言う。
「そこにいるシア・ペルサスはこれから国を起こすだろう。そして、その友であるそなたたちはシア・ペルサスが起こす国を支えるだけではなく、歴史の証人となるのだ」
「えっ、俺が国を起こすのですか?」
「うむ。ロシアン帝国が恐れているのは西の大陸をシア・ペルサスが制圧し覇者となることだ」
「俺が覇者に……」
「シアよ。そなたにはおそらく人を超えた武力が宿っているはずだ」
「確かにそうかもしれませんが……」
「そして、それは必然なのだと、予は思っている」
「必然……?」
「ロシアン帝国だけではない。悪鬼たちもシア・ペルサスを排除しようとしていた」
「……でも、悪鬼たちが出てきたのは生まれる前では?」
「生まれる前にペルサスの王族達を全て抹殺すれば子孫はできないだろう」
「……子が生まれる前に、前もって親を殺すということですね」
「50年程前に、このフライブルク王国だけではなく、全国家に主神ルナテラス様が神託を下したことがあった」
「神託……」
「その予言は不思議なことに全ての国で一語一句同じであった。もちろんロシアン帝国でも同じであったのだ」
アレクサンドロスによればその神託は、
雷鳴轟く陰鬱な日、
天より子が降る。
かつて魔を下した勇者は、
子を受け止め命を与える。
心優しき龍は子に力を与え、
神狼は家族とならん。
子の武力は人を越え、
やがて覇者へと至る。
子は友と共に、
友は民と共に、
民は希望と共に、
新たな覇者が行う覇道を祝うべし。
黒髪の子はペルサスを名乗る。
西の王となり、
東の王は友に、
南の王は敬い
北の王は従い、
魔を誅して覇者となる。
覇者の誕生を待ち、
出会いを祝うがよい。
その子は神の子。
人々に安寧をもたらすであろう。
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