第11話 学園
この学園の制服は入学式が終了してから作ることになっていた。というのもクラス別に着用する制服の色が違い、意匠も異なっているためクラス分けが確定してからしか作れないからである。また、合格発表の翌日に入学式が行われるために、採寸は初日に行われることが通例であった。
この学園の合格率は異常に低く、文字通り少数精鋭の教育が行なわれていた。その少数に対してフライブルク王国は人材育成をするために潤沢な資金を投入していた。そのためか成長期の子供たちが窮屈な思いをしないように、制服も二ヶ月に一度業者が採寸に来て作り直す徹底ぶりだった。
修行年限は5年間。12歳~13歳で入学して17歳~18歳で卒業することが一般的である。但し、全てが成績順であり、成績が落ちると次の年はクラス替えがある。最低基準の成績を下回ると問答無用で退学処分となり、留年はない。例え入学時にSクラスになったとしても油断はできなかった。
だが、この学園をBクラス以上で卒業すると騎士爵が与えられる。Sクラスで卒業するとそれだけでまずは準男爵位が与えられる。主席なら男爵位が与えられる。騎士爵と準男爵は一代限りであるが、男爵位は世襲できる。恵まれた環境で学ぶことで貴族の地位を得られるため、特に裕福な平民の子弟には過酷な受験勉強を行う者も多く、貴族の子弟でも名誉のために入学前はかなり高度な教育を施してから受験することが通常であった。
その話を聞いて、幼い頃から一緒に勉強を教えてくれたカールとマリアナにシアは心の底から感謝を捧げたのであった。
さて、シアはアーサー、ノイマン、アラガンといった男性のクラスメイトと一緒に採寸を行い、文字通り裸の付き合いをすることで距離が一気に縮まると急速に仲良くなっていた。フリージア学園は全寮制であり男女別に寮があった。その最上階にある最も大きな個室がSクラスにあてがわれていたため、全員の部屋が隣か向かい側にあり、彼らは食堂で夕食を取った後、アーサーの部屋で一晩中語り明かしたのであった。
そこでシアはカール・ガイウス・ペルサスという人間がこの国で英雄としてどれだけ大事にされていたのかを聞かされたのである。
カールは3つ年上の兄が15歳で王太子になると、王権争いに巻き込まれることを防ぐために国を出て12歳でフライブルク王国にやって来た。その後フリージア学園に入学してクレインと切磋琢磨し主席で卒業した。もっとも王族だったためフライブルク王国の爵位は辞退したそうだ。その後卓越した剣技でクレインと共に各地を転戦し勇名を馳せ、やがてイルマも加わると無敵のパーティーとなり、彼らを恐れて周辺諸国はこの国に攻め入ることをしなかったほどであった。
そのカールが最も大きな功績を残したのが悪鬼たちとの戦いであった。悪鬼は単体でも強力な存在で、一体で国すら滅ぼすとも言われている。その悪鬼が数十体の群れを作りこのフライブルク王国の各地に攻め込んできたのだ。その時の王はアーサーの祖父であったらしい。アーサーの祖父はカールたちに協力を要請しながら国民を守り、粘り強く戦って、各地の悪鬼たちを徐々に攻め滅ぼしていった。だが、最後に王都に現れた一体の悪鬼は悪鬼王を名乗ると圧倒的な力を見せてクレインを弾き飛ばし、イルマを戦闘不能にした。その悪鬼王とカールは三日三晩にわたる死闘を繰り広げ、王都郊外の平原で相打ちに近い形になりながらもカールはアストロンで悪鬼王の首を跳ねて倒し、その体を燃やし尽くして消滅させて、フライブルク王国を守り抜いたのだという。
その功績でカール、クレイン、イルマの三人はSSS級冒険者となった。特にカールの功績は大きく、悪鬼王を倒した平原にカール平原と名付け、さらにカールにフライブルク王国の名誉大公の地位を授け、王に次ぐ地位を保証して称えた。また、その時の光景はいまだに街のいたるところで吟遊詩人が歌い、演劇も作られ一番人気の演目なのだという。
だが、30年前にカールは殺されそうになった。詳細はアーサーも知らないそうであるが、それ以降は数年に一度クレインに連絡がある程度となっていたところに、カールの息子のシアが現れたのだという。
シアも知る限りのカールのことを教えた。自分を育ててくれた事。剣技を教えてくれたこと。マリアナとの森での生活。遺言に至るまで話をしたが、何故カールが殺されそうになったのかがわからなかった。
だが、謎はあってもシアは育ての父であるカールがこの国で愛されていたことを知り誇らしく思ったのであった。
次の日、情けないことに男子四人は目の下に隈をつくり、真っ赤に充血した目で授業に出ていた。話を聞いたエマとルーナが呆れた顔をしているのを横目に、何度も授業中に居眠りをしそうになった。すると担任のマルクスは電撃魔法が得意なようで、眠りそうになると、微量の電撃を飛ばして目を覚まさせる。その日の授業が終わると男子全員が次の日の朝まで泥のように眠ったことは言うまでもない。
森の奥で育ったシアにとって学校での生活は刺激的であった。学園の教師たちは献身的にシアたちに様々な知識を授けた。友人と同じ制服を着て共に学び、共に遊び、共に語らい、彼らは深い絆を作っていく。
数か月が過ぎたある日、いつものように一緒に昼食をとっていると、アーサーがクラスメイト全員に声を掛ける。
「父上がみんなに会いたいって言っているらしいのだが、みんな会ってもらうことはできるか?」
「アーサーのお父さんはフライブルク王国の王様だよね」
「そうだ。だから入学式にも来ることができなかった。来月から3か月ほど学園が休みになるだろ。その時にみんなを紹介したいんだ」
その申し出に全員が頷くと、アーサーは目に涙を溜めて喜んだ。
「ありがとう。では日程を調整してもらうよ。いつになるのかはまた連絡があると思う」
その後は休みに何をするのかという話になった。
アーサーは王宮で父の執務の手伝いをして王族として修行をし、ノイマンは小太郎の念話に興味があるため、その原理を研究して論文にまとめるそうだ。エマとルーナは一旦領地に帰り家族と過ごすらしい。するとアラガンが、
「シアの剣を打たせてくれないか」
と言ってきた。
アラガンがシアにアストロンを見せてもらった話を手紙で父に送ったところ、機会があれば是非とも来てもらうように言われたそうだ。アラガンの父の工房は王都から半日ほど西に行った山脈沿いにある鉱山の街カルグスにあるらしく、特にすることもないシアは二つ返事で了承した。
休みの日の予定を確認して皆の顔を思い浮かべながらシアもマリアナのことを思っていた。
(母さんが転移魔法を覚えて来いって言っていたな。すぐに覚えるだろうって。でも、どうすればいいのかわからないんだよな……。覚えたら母さんと色々と話もできるしみんなも紹介できるかもしれない。誰か教えてくれる人……いないかな)
そうこうするうちに昼食が終わる時間になり、全員教室に移動したのである。だが、その日以降、転移魔法を覚えるということがシアにとって一つの課題となった。
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