第3話 可愛いギャルには旅をさせよ
「あ! ミロミロだ。おつかれ~」
二人は軍事基地の演習場に訪れるようミロスから指示をうけていた。回りには武装した兵がずらり。そこに不釣り合いな笑顔をしている男、ミロス。
ユリウスは気味の悪いものを見たような気分になった。
「おお! よくぞお越しに! 魔お……姫!」
「ミロミロが来いっていったんじゃーん!」
冴子はけらけらと笑っている。
「そう! 我らの勇姿がいかなるものかご覧ください!」
そう言うと野太い声で号令をかける。兵たちは掛け声と共に武器を構える。そして演舞の型を披露する。
一糸乱れぬその姿に冴子は携帯を取り出した。
「やばー、体育祭みたーい!」
「体育祭?」
パシャパシャと電子音が続く。
ミロスは「たしかに戦は祭りのようなものですな!」と豪快に笑う。
散々写真を取り終わると冴子はミロスに訊ねた。
「でもこの人たち戦争行っちゃうんだよね?」
「ええ、もちろん。屈強な兵士ですからな」
ミロスは生き生きとした様子でこの国の兵士が素晴らしいか演説する。その間の兵士たちも勇猛な表情で聞き入っている。どこか嬉しさのようなものも感じた。
「その間家族はどうなるの?」
冴子はもの悲しげに訊ねる。
「軍事補助の資金が与えられます。殉職したらば名誉褒章並の追加資金も与えられますぞ」
冴子はそれを聴いて黙り混んでしまった。ミロスは愚かユリウスまでもどうしたものかと困惑した。それは兵にも伝播し動揺となる。
「なんかあ、お金じゃなくてさ……アタシさ、お父さんが単身赴任でいなかった時期があってさ、普通に寂しかったワケ。でさ、兵隊さんてことは死ぬわけじゃん? 二度と家族に会えないとさ、寂しいのがずっと続くわけでしょ?」
とどのつまり、冴子が言いたいことは心は金で埋まらないと言うことだった。
命は尊い誰しもが言う。しかしその本質は他人の命で食いつないでいることにほかならないのだ。明日は我が身。ならばそうならない仕組みを作れば良いと。
「兵士の矜持を捨てろと仰るか」
ミロスは激怒寸前だった。兵士たちは様々でミロスと同様に憤るもの、冴子の言葉に心討たれ困惑するもの、物事がどちらに転ぶか見物しているもの。ともかく鋼の心と言われる統一された精神は小娘の一言で脆く崩れ去ったわけだ。ユリウスは心のなかでほくそえんだ。
「キョージとか良くわかんないけど命もだいじでしょ? それに家族を大事にできないでそのキョージ? っていうの? を大事にしてもカッコ悪いじゃん」
「魔……姫は兵士ではない。それが故にわからんのだ。我らの心が」
「そう、わかんないよ。でも逆に皆も待ってる家族の心とかわかんなくない?」
ミロスが閉口したのを見てユリウスは確かになと心のなかで独り言ちる。
勇猛果敢な姿を見せようと躍起になった結果、予想外のところに着地した。ミロスは湯気の上がる頭で「ならば、いかようにすればよろしいか!」となんとか自我を保っている。
「ちゃんと話し合おうよ!」
冴子は気持ちを切り替え、意気揚々と城に向かった。
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