ギャル、異国の姫になりまして。
鳳濫觴
第1話 ギャルも歩けば棒にあたる
「え、ごめん店長。とりま夕方のシフト間に合えば良い感じで大丈夫そ? ……て電話切れてるし……は?」
冴子が驚愕して足を止める。
いくぶんかくたびれた三人の男たちが膝まずき冴子を見上げている。まず目に入ったのはそれだった。
「で……出た」
「成功した……」
男たちも驚愕した顔で冴子を見上げている。口々に感嘆の言葉を並べたり祈ったり百面相をしたり忙しない。
部屋でくつろいでいた冴子はワンコールで電話に応答した。ギャルが故の特技であった。
その内容といえば店舗応援の要請で、どうも今日はアイドルグループのライブがあるらしく近隣店舗は厳戒態勢を敷いているらしい。二つ返事で了承した冴子は──金欠なので嬉しい知らせだった──充電ケーブルを携帯から抜くとベッドから立ち上がった。
そして床に足が付いた瞬間パチリと静電気を全身に浴びたかと思うとあたりが一変していた。
「もしかして映画の撮影してる感じです?」
冴子は三人に尋ねた。
※
なるほどね~と腕組みしながら頷いた冴子は腕を組みうんうんと頷いた。
「じゃあおじさんたちは魔王を召還したかったわけだ」
「したかったというかしたわけなんですが……」
「え、じゃあまじでアタシが魔王なわけ? うける」
ぱちぱちと両手を叩いて笑う冴子。
「で? なにしたら良いの?」
「敵国を滅ぼして欲しいのですじゃ」
髭を蓄えた老年の男が間を置かずに言った。
帝国ハルコンネン。広大な領土を有し、それに伴う生産力を持つ。技術、治世共に優れ強大な国力を持つ巨大国家だった。
そんな帝国を隣国に持つこちらはミルビス国。のどかな遊牧地帯がある小さな国だった。唯一優れているものといえば作物や資源の品質が良く、健康水準が極めて高いことだった。
そんなミルビスの参謀クロノス、国家将軍ミロス、総裁ユリウスの三人はハルコンネンに対抗すべく魔王の召還を試みた。
……と、いうのがクロノスが説明した国家の全貌だった。
「国ってことは王様いるってことだよね? その人に頼めば良いじゃん」
冴子がそう言うと三人はそれぞれ視線を反らした。
そして次に口を開いたのは総裁ユリウスだった。
「国王ですが……今は危篤で」
「キトク? なにそれ」
「病に倒れました」
さすがの冴子もその意味はわかった。気の毒に思い口をまごつかせていると将軍ミロスが雄壮に声をあげた。
「今こそハルコンネンを討つときだと思いまするぞ!全領土は無理でも一部の領土を掠めとるのです!」
「……どゆこと?」
冴子が他二人に訊ねる。そしておおよその内容を把握すると少し考えて口を開いた。
「それまずくない?」
「弱気になれと?」
血の気の多い目で噛みつかんばかりにミロスが訊ねた。言葉を違えれば魔王とも斬りかからんばかりだった。
「何て言うか、店長不在のピークタイムはヤバいっていうか。皆のメンタル的な問題だよ」
「店長?」
ミロスが首を捻る。なぜここで店長が出てくるのか。そもそも何の店長なのかは不明だった。
「士気が削がれるという意味では」
クロノスがそう口添えするとミロスも納得したのかなるほどと頷いた。
「魔王は先見の明がおありになる」
「センケンとか良くわかんないけど……魔王はやだ」
「ですが我々は魔王召還を行いまして……」
「魔王じゃなくてさ、さえぴって呼んでよ。皆にもそう呼ばれてるし」
あっけらかんとして言うと三人は恐れおののいた。頭を垂れ誓願する。
「おそれ多くも魔王のお名前を口にするなど言語道断。どうか魔王とお呼びすることをお許しくださいまし」
「えー……それじゃあ姫」
「は?」
「姫がいい」
冴子の快進撃が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます