エゴイストの世界から脱す
苦贅幸成
第1話
「私は。自分のことしか考えられない。聖人みたいなあなたとは違うの」
母は父に言った。その日、父は出て行った。当時のまだ幼かった私は、なんてひどいんだろうと思った。私のことを一番に考えてくれない母も、家を出て行った父も。でも、今は違う。あれから時が経ち、私は色々なことを学び、世の中のことを知った。そう、この世の中は…
人類全員エゴイスト
「…だから、私って母親似なんですよね。て言っても、先輩は私の母親を知らないし、興味ないか」
「うん…」
二人の間に沈黙が流れる。私は心地悪いとは思わない。でも、先輩が気まずく思っているかは知らない。
「ふと思ったんだけど、エゴイストの反対語って何なんだろうか」
先に沈黙を辞めたのは先輩だった。
「利己主義者の反対だから、利他主義者。でも、それは日本語か」
少しの間考えてみたが、二人とも答えは出なかった。
家に帰ってすぐにパソコンを立ち上げた。検索エンジンで今日気になったことを調べる。
エゴイスト 反対語
…アルトゥリスト?利他主義者を英語にしたらそうなるらしい。でも、日常生活でエゴイストはよく聞くのにアルトゥリストは全く聞いたことがない。考えてみれば、なんとなく理由は分かるけど。
電車で妊婦に座席を譲ろうとして断られているおっさんもエゴイスト。
面倒な仕事を率先して引き受けている人もエゴイスト。
学校で、放課後に一人で教室の机の位置を綺麗に揃えている奴もエゴイスト。
母も私もエゴイスト。父もそう。
自分がエゴイストだと気付いていない人もいるだけで、人類は皆エゴイストなのだ。でも、あくまで私がそう思っているだけだ。世間一般にアルトゥリストという言葉があまり使われていなくても、利他主義という概念として認知されている以上は、こんな寂しい考えをしている奴はきっと稀だろう。
同類を探していたら、ネット掲示板でこんなスレッドを見つけた。
“利他主義も結局は利己主義じゃん”
0001:「他人を助けて快楽感じてんだから利己主義じゃん」
0002:「アスペかよ」
0003:「ガキくさ笑」
「お疲れ様です。先輩、そういえば昨日エゴイストの反対語は何だろうって話しましたよね。調べましたよ私」
「うん。わたしも調べたよ。アルトゥリストだっけ」
「そうなんですか。同じことも考えてるもんですね」
エゴイストの世界から脱す 苦贅幸成 @kuzeikousei4
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
物語の外/苦贅幸成
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
コミュしょうエッセイ/苦贅幸成
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
泡沫の夢/苦贅幸成
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
眠眠打破飲んで寝る/苦贅幸成
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます