オフィスビルの屋上から肯定
苦贅幸成
第1話
このオフィスビルの屋上は、誰も使わず掃除せずで埃っぽいから、昼休憩でも居るのはいつも私一人だ。
今日も屋上で一人でお昼を食べていると、あんたがやって来た。あんたは私と私の飯を一瞥してから、フェンスの方を見た。転落防止用みたいだが、頑張ればよじ登れないことはない。あんたは私に視線を戻して言った。
「今日でさよならですね。最後なので一つ、あなたは何も間違っていない。あなたなら、自分自身の価値の創造を続けられると信じています」
そう言って、あんたはフェンスの方に向かって歩き出した。私はその背中に向かって言った。
「自分で自分を肯定することすら出来ないあんたに言われたって、嘘っぱちにしか聞こえないね」
あんたは止まった。振り向いて言った。
「…けっこうひどいこと言うんですね。あなた」
言い終えて、再び歩き出す。フェンスに手をかけ、力を込めて軋む音がする。右脚を上げ、靴の先をフェンスの隙間に突っ込む。そのまま動かない。しばらくして、フェンスから足を下ろし手を離した。俯きながら早足で戻ってくる。あんたはドアを開けて出て行った。いや、入って行ったと言うべきなのか。オフィスに戻ったんだろう。携帯で時間を見ると、休憩時間はあと五分もなかった。私もそろそろ戻らなければ。
オフィスビルの屋上から肯定 苦贅幸成 @kuzeikousei4
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