第15話【死体発見さる!】

 その危惧は心の中のどこかには、あった。〝危惧〟とは、あの二人のならず者の

 きんの在処に辿り着き、そのほとんど全部を各員が背負子で背に背負った状態ではこの自分が必ずしもルートを先導する必要は無くなってしまったようだ。

 ダリーという男はよほど地理的センスがあるのか、帰り道は平然と皆の先導を始めた。こんな状態で『こちらを通って下さい』とばかりに先導してしまったら逆に不自然というものだ。

 それに元々森の中、どこもかしこも木々が茂っていて現場になにか目印のようなものも存在しない。そういったもろもろの理由から素知らぬ顔をしているしかなかった。〝この広い森の中、〟〝どうかどうか、〟と念じながら。

 だが〝悪い事〟というのは得てして起こるもの。


 よりにもよってそれらを見つけたのはダリーだった。気のせいであって欲しいが帰り道自ら先導したのは〝これら死体〟を探す目的があったように思えてしまう。その死体が見つかってしまった。よもやこの広い森の中で見つかるなんて。もしや何かの能力者なのか?


 自分の場合の能力は対象に顔があった場合〝顔〟を的にする。顔面を打ち抜かれると誰だか顔の判別がつかない。改めてそれを見ると実に凄惨なものだ。しかしこの〝凄惨さ〟を自分がためらっていたら、今ごろ自分がこうなっていたんだろう。それは揺るぎない確信だ。


 それより、いったいこのダリーという男はどういう人間なのだろう。〝能力〟ではなく〝性格〟のことだ。二体の死体の側にしゃがみ込みまじまじと観察しているだけで、感情がまったく表面に出てこない。

 そのダリーが突然立ち上がり「旦那様、旦那様の女奴隷に訊きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」と訊いてきた。

「う、うん」と情けない同意の返事をしてしまう。

 ダリーはその視線をラムネさんに向ける。表情が固くなるラムネさん。いよいよ来る!


「一つ訊くが、この男が前のご主人様か?」ダリーは訊いた。

「は、はい」とラムネさん。

「顔面がこの通りだが間違いないか?」とさらにダリー。

「間違いありません」とまたもラムネさん。


 〝誰がやったのか?〟、それを訊かれるのを覚悟した。犯人はこの自分なのだ。しかしダリーの発した次のことばに自分の耳を疑った。


「死んでいてくれたら問題ないな」

「ど、どういうことでしょう?」と思わず尋ね返していた。

「ああ、〝二重売買〟の問題ですよ。旦那様の女奴隷については支払いの残金が残っている、というお話しはしましたね?」

「はい」

「この連中からは『取り敢えず前金で』ということで全額の六分の一くらいしか当商会は受け取ってはいないのです」

「なんでまたそんな杜撰な売り方を?」

「ここに倒れている連中をステータス・オープンしてみたらレベル的にかなりの手練れでしてね、加えて脅迫まがいの商談でした。『商談を断ればギルドとの信頼関係に後々悪影響を及ぼすぞ、俺たちのギルド内での地位を見くびるな』といった調子で。調べてみると一応それは真実ときている」

「そうだったんですね」

 この二人、あっさり倒してしまったがそんなに凄かったのか……


「しかしこの連中が死んでいてくれなくても、もう支払い期限は過ぎているんです。全額お支払い頂いた旦那様の方が絶対優位であるのは間違いないんですが、いろいろ紛争解決の手続きが面倒で」


 もはや何と言って返してよいのやら見当がつかない。この男は徹頭徹尾〝代金〟のことしか頭に無く、犯人捜しなどどうでもよいといった体だ。死んでいることを確認できさえすれば。


 〝異世界〟とはよく言ったもので、ある意味恐ろしい。そしてその〝異世界な感覚〟に救われてしまったような————

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