実況!!4割打者の新井さん 5
ぎん
打率4割への挑戦
「2番、レフト、新井」
水道橋ドームにて、東京スカイスターズとの3連戦。その最初の打席。
ここまでの打率を4割0分8厘としている俺だけではなく、プロ野球マン全員があと30試合となったシーズンの正念場を迎えている。
最下位ビクトリーズは、5位横浜に10ゲーム差をつけられている状態だが、去年日本一になったスカイスターズがその横浜とわずか1、5ゲーム差の4位と苦戦したままこの時期に突入していた。
春先から、日本代表センターの佐藤さんだったり、ローテーションピッチャー2人の離脱もあったりするなど、絶えず故障者が続出し、平柳君をはじめとしたレギュラー選手も不調も痛かった。
それでもスカイスターズは、3位東北にあと3、5ゲーム差まで詰めてきており、優勝はちょっと厳しいが、うちとの3連戦でまずはAクラスキープを狙っていたのだが………。
「新井が打ちました、流し打ち!! 1、2塁間に転がった! セカンドが回り込む!深いところ追い付いた、1塁へ送球!
あーっと送球が逸れてしまった! 2塁へ向かった柴崎は3塁へ向かう! 打った新井は2塁へ!スカイスターズに守備の乱れ!ノーアウト2、3塁というチャンスを迎えましたビクトリーズ! 記録は1ヒット1エラーという形になりました!」
「いやー、先頭打者の柴崎にストレートのフォアボールを出してしまった後にセカンドの送球がエラーが記録されました。悪送球になったボールも、ファーストのグラブを弾いて、カバーがいないファウルグラウンドに転がってしまったのがスカイスターズとしては不運でした」
「まあ、セカンドのプレーはね。バッターランナーの足を考えても、決して慌てる必要がないところでしたよ。正確に送球すればアウトでしたから。記録はヒットになりましたけどね。
とにかくここの1点、2点というのはまだ序盤ですし、仕方ないですから、大量失点というのはまず避けなければいけませんね」
スカイスターズさんの先発ピッチャーは、約2ヶ月ぶりの先発マウンド。セカンドもまだ20歳で1軍経験が浅い選手。
俺はいきなり2塁に到達することになり、ニタニタした平柳君からおケツを守らなければと身構えていたのだが……。
「吉場、吉場! 1点はいいよ、1点は! しっかり低めにコントロールしていこう!」
「ヘイ、ヒロアキ!今ので縮こまんなよ!いつも通りやればいいよ、いつも通り! 足動かせよ!」
などと、ピッチャーとセカンドに声かけするのに忙しく、俺になど構っている暇はないという感じだ。
胸にキャプテンを表すCマークが付いている人は大変だ。
「低め、変化球だ! バットは………回りました!! スイングを取りました!3番阿久津は三振で1アウトです!」
どんな形でもいいからまずは1点。という気持ちが出過ぎてしまったのがうちのキャプテン。ストレート2つを振り遅れてファウルにし、最後は2ボール2ストライクから外に逃げるスライダーに手が出てしまった。
阿久津さん本人は、ギリのところでバットを止めたつもり。審判によってスイングを取るか取らないか別れるところ。
だが、阿久津さんの奥さんは元アイドルですから。それを妬まれて1塁審判おじさんに拳を握られてしまった。
バットを両手で強く握り締めるようにしながら阿久津さんはベンチに帰る。
4番の赤ちゃんはその変化球をしっかり見極め2ボールからの3球目を強振した結果、1塁線への痛烈なファウルボール。
インコースはやばいと外に投げたストレートがボール判定されたこともあり、結局はフォアボールで1アウト満塁となった。
「5番、ファースト、川田」
ああ。
5番、ファーストときたらやっぱりシェパードだったからなあ。などと、みのりん飯を美味しそうに食べる彼の高い鼻を思い出していると、川田ちゃんがナイス流し打ち。
打球はライナーでレフトへ。懸命に前進するその前に落ちたのを見て俺は3塁に向かって走り出した。
「レフトが前に出て来ますが、その…………前に落ちました!2塁ランナーは3塁ストップです!先制点はビクトリーズ!5番川田のレフト前タイムリー、上手いバッティングを見せました!!」
川田ちゃん、ナイス、ナイス。シェパードの後釜という立場ではあるけど、最初の打席で逆方向に先制タイムリーとはなかなかやりますわね。
力任せに引っ張って凡退しそうなイメージだったからびっくりしましたわ。
再び満塁という場面でバッターは桃ちゃん。川田ちゃんのバッティングを見習いつつな感じで続いていって欲しかったのだが、結果が欲しくて引っ張り込んで引っ掛けた内野ゴロを打ってしまったのは彼の方だった。
打球はセカンドの守備範囲。しかし、やや1、2塁間よりに打球が転がり、打球を掴んだセカンドのタッチをギリギリ交わした川田ちゃんの走塁のおかげでアウトはセカンドだけ。
ゲッツー崩れという形でビクトリーズに2点目が入った。
続く鶴石さんは、最近当たりが出ていなかったが、真ん中高めのストレートをしっかり叩いた。
打球はショート平柳のジャンプ上を抜けて3点目のタイムリーでまた1、3塁。
今日の8番は並木君。初回に早くも回ってきた第1打席。乱調模様の相手先発。3点を奪い尚も押せ押せムード。
初球をフルスイングするのに一切の迷いはなかった。
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