第24話「ボクは、ぼうけんに行く」





 第二四話『ボクは、ぼうけんに行く』





 神々には人間が試行錯誤して創出した法則や考え方について、一部理解し難いモノが有る。


 コレは駄目、アレは良い、その単位はコレ、あの単位はコレ、コレをするとソレになる等々、人間は様々な概念にルールを定める。


 無論、それは神々にも多々有る。


 しかし、例えば通貨単位など神々には不要。他神が持つ何かが欲しければ、神気で創造した物品での物々交換や、【神格】の上下関係を用いた強奪、単純に力任せの奪取もある。


 神界や自領である神域限定ではあるが、長さ・体積・重さの基準、いわゆる度量衡どりょうこうなども不要とする神は多い。


 イズアルナーギに関して言えば、度量衡など不要の代名詞。神界でも下界でも場所問わず正確にモノを測る事が出来る。


 空間を支配する幼い不可触神に、思考の速度と把握の遅延を招く度量衡を理解させるのは難しい。


 テナーギが日本で収集した知識は全て脳に叩き込んだが、イズアルナーギはそのほとんどを記憶のゴミ箱にポイした。自分では押し入れにナイナイしているつもりだが、十中八九取り出す事は無い。


 歴代の不可触神は偏執である。

 興味が無い事物には本当に見向きもしない。


 その逆に、興味を覚えたモノや好きなモノに狂気じみた執着を見せる。


 初代から第八代までの不可触神は、溺愛する伴侶の為に数々の惑星や神域を滅ぼしてきた。どう考えてもアブナイ存在だ。



 話が逸れたが、とにかく、神々には不要な『人間のルール』が少なくない、と言う事だ。


 神域にわに創られた青空教室で、テナーギが収集した『算数ドリル』の複製品を机に乗せ、ワイワイ楽しく勉学を励む子供達。その中にイズアルナーギは居ない。


『数』の増減など『知ろう』と思えば判るじゃないか、計算する必要も無い、イズアルナーギはそう思っている。


 学びで友を得る、学友と共に学ぶ、協調性を学ぶ、思い出を作る等々、イズアルナーギはそれら全てに必要性を感じない。そもそも青空教室に興味が無い。


 イズアルナーギは日本で児童が学ぶ大凡おおよその知識を取得済み、その知識を活用する予定は無い。


 だがしかし、『夏休みの宿題【昆虫採集】しよう』には心を動かされた。


 なので、イズアルナーギは昆虫採集をしようと決意した。


 自分の生まれ故郷や地球の昆虫は小さい、それはカッコ良くない、故郷と地球での昆虫採集はテナーギと使徒に任せれば良い。


 そうなると、別の『惑星』で採集が最適解。

 既に『大宇宙』の知識は女神パイエから得ている。


 ちなみに、女神パイエから得た知識には『神域の活用』と言うイズアルナーギには比較的重要なものが有った。


 勇者が持っていた『亜空間袋』や、信者が有する『収納系スキル』は、その収納先が神々の住まう神域内の『貸倉庫』と繋がっていたのだ。


 女神パイエはその貸倉庫経由で不可触神の右手に捕まった、と言う事になる。


 その女神パイエは、先ほどテナーギの許に放り出された。滅ぼされてはいない、イズアルナーギは悪逆非道ではなく無邪気に残酷なだけ、特に敵対したわけでもない女神は『携帯ドリンク』として活用する事にした。酷い。


 下界追放処分となったパイエは『地上は神気が無くて死んでしまいますぅ!!』と叫んでいたが、イズアルナーギは女神の慟哭どうこくを無視。問答無用で東九州に送って差し上げた。


 神々にとって神界を満たす神気は人間にとっての酸素と同義。薄まれば苦しくなり、無ければ滅ぶ。


 だが、パイエは滅ばなかった。


 そもそも、神であるイズアルナーギと肉塊が下界に居る事がオカシイのだ。ただの人間が神域に住むのも異常。これは彼が持つ空間支配の権能がす神の御業みわざ


 本能を優先する肉塊が母の胎内から外の世界へ出た瞬間から、神域にわの神気を常に自分の周囲へ供給していた。


 それは亜神となった使徒や神域に招いた人間も同じ、肉塊が彼らの周囲に神気や酸素を供給している。


 そんな荒業を披露された女神パイエは開いた口が塞がらなかった。


 しかも、何故かイズアルナーギの眷属神となっている。


 体調は良好、神格も上がっている、何より、イズアルナーギの幼い姿をしっかりと確認出来た事が、パイエにとって最も重要なポイントだ。


 その眠たそうな幼神の美貌は、豊穣神の母性を見事に射抜いた。


 豊穣神の乙女心は北条政子のそれより純粋だ。


 16ビートを刻む心臓、潤う股間。

 豊穣を司る処女神は、恋に落ちる音を聞いた。


 既に両の乳首は捧げている、もう結婚するしかない。


 女神はイズアルナーギに結婚を申し込んだ。オナシャス。


 女官カーリヤと白騎士ウルダイがパイエを挟撃。

 そのうち、何故か三つ巴の戦いに発展。


 砂場を荒らされたイズアルナーギは少しカチンときた。


 争いの発端となったパイエにテナーギと姉イルーサの補佐を命じ、メってした。


 テナーギの許に送られた全裸のパイエは、未来の小姑こじゅうとイルーサに『ハレンチねっ!!』とシバかれ、しばらくはイルーサの召使として扱われる事になった。


 初恋と恋敵と悲恋と嫁イビリを一気に経験した女神パイエだが、そんな彼女には姉が居る。


 遠く離れた『宇宙域』の惑星を管理する神界に住む姉。


 イズアルナーギはその惑星の座標を脳裏に浮かべた。


 その時、イズアルナーギの頭がチクリと痛んだ。何かの警鐘か、本能のイタズラか、彼は小首を傾げ、原因を探る。


 下界に居るテナーギが何かを察知。

 東九州から北東の空を見つめた。


 誰かが、何かが、その場所から、自分が行く予定の惑星へ先に向かった。


 少し涙目になるイズアルナーギ。


 渡さない、カッコイイ甲虫は渡さないぞっ!!


 幼神はく、カッコイイ甲虫を求めて。


 

 お供も連れずに幼神は征く。


 主の不在に気付いたモッコスが気絶するのは二秒後。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る