第26話 殺し合いの果てに
グループの拠点を飛び出したレイアは街の中を走り回り、当て所もなくロアの姿を探していた。
彼女は自分が先ほど知り得た情報から、考えられる最悪の予想に思い至ると、居ても立っても居られずグループの拠点を飛び出した。彼女はその信じたくない予想を回避するため、そうでなくても自分の力で止めるために、当事者となるロアのことを探していた。
(こんなことなら、カラナから宿の場所を聞き出しておけばよかった……)
レイアはそう後悔した。知れば必ずロアの元に行くと考えたカラナは、彼女に対しロアの居場所を決して教えなかった。レイアは不満を垂れたが、カラナは決して自分の意見を変えることはしなかった。それでレイアは仕方なく諦めたのだが、今となってはそのときの選択を後悔していた。
(……でも、サラからの連絡には応えなかった。なら今宿にいる可能性は低いはず)
そう予測を立てて、彼が行きそうな場所を、或いは呼び出されそうな場所に当たりをつけて、街の中を駆け回る。
そんなレイアの耳に、遠くから爆発のような大きな音が聞こえてきた。
「おいおい、なんだよあれは?」
すれ違う通行人の一人が顔を上に向け、誰に聞かせるでもなく呟きを発する。それを耳にしたレイアは、音が聞こえてきた方に視線を飛ばしてそちらを見た。その方向には、上空へと煙が立ち上っていた。
「なんだ? どっかの馬鹿が外で火起こしでもしてんのか?」
「どう考えても違うだろ。ありゃ爆発かなんかの煙だ。お前もその音を聞いたろ」
「あー、そういえばさっきもなんか、あっちの方ででかい音がしたな。解体工事でもしてんのか」
「さてね。それかどこかの探索者かグループが、抗争でもしてるんじゃねえか? まあどちらにしても、こっちに迷惑がかからんなら好きにやれって感じだな。どうせ都市も最貧区画には興味ないだろ」
そう言って興味なさげに通り過ぎていく通行人を横目に、レイアは未だ煙が上がる方へ足を向けた。その顔は数分前よりも焦燥の色が強く浮かんでいた。間違いであってほしいと思いつつも、その予感が強くなるのをひしひしと感じていた。
「さてと、流石にこれで死んでくれなくても、致命傷であると嬉しいんだがね」
攻撃の手を止めたオルディンは、離れた場所に横たわるロアの姿を確認して、仲間に武器を構えさせたまま上機嫌に笑みをこぼした。
「しかしまあ、あれだけの攻撃をまともに受けてまだ原型があるとはね。本当に中級以上の探索者ってのは化け物じみてるな」
普通の人間ならバラバラになる筈の攻撃を受けたのに、未だに五体が揃ってるように見えるロアの姿に、オルディンは喜悦の色を強くして苦笑した。今までは自身らとって大きな障害と言える中級の壁を忌々しく感じていたが、そのための力はもうすぐそこに転がっている状態だ。あとはその力を自分のものとするだけで、自分のグループは一気に都市屈指のグループへと成長する。
輝かしい未来を想像したオルディンは、念願叶う喜びを抑え切れないでいた。
「そうは言ってもこれで決着はついたろ。肉体の欠損はなくても、内部に受けた負傷は本物だ。あれを食らって無事でいられるわけがない」
「確かにその通りだな」
オルディンの用意した奥の手とは、対防御用貫通術式が刻み込まれた特殊装填弾だ。変質魔術により弾丸の硬度と貫通力を高めたこれは、機械型の装甲であっても容易く突き抜けるのを可能とする。相手が魔力による強化でいくら防御力を高めようと、この一撃を防げる筈はない。
オルディンは相手が魔力を使うと判断した時から、この奥の手とも言うべき殺傷手段をしっかりと用意していた。用意した切り札を、オルディンは切り時を間違えずに使用した。相手の魔力感知の外に配置した仲間に、ヨルグとの決闘の最中に狙撃させた。オルディンは元々の作戦から、用心としてこの備えを怠っていなかった。相手の感知能力の程度は知らなかったが、魔術に関する攻撃は感知内だと事前に気取られる可能性が高いと判断した。よって想定が外れた場合に備えて、範囲外から必殺の攻撃を撃ち込もうと考えていた。そして思惑通り、この一撃が戦いの趨勢を決定付けた。
「持つべき者はいいお友達だねぇ」
この特殊装填弾であるが、これは中規模グループのリーダーであるオルディンだろうと、本来なら手に入れられる物ではなかった。特殊装填弾は都市や協会から入手に関して制限が課されており、DDDランク以上の探索者にしか購入が許可されていない。そのためDランクの探索者しか所属しないオルディンのグループでは、到底入手は不可能な代物だった。それをオルディンは例外的な方法で手に入れていた。
その方法こそが他グループとの交渉である。実際に中級探索者を所属させているグループに、購入を代替してもらったのだ。普通なら自分のグループにとって脅威となるものを、他所に譲り渡すことはしない。だがオルディンは持ち前の交渉能力と用意した見返りによって、それを手に入れることに成功していた。その用意が、今回は強く効果を発揮した。
「とはいえそうそう使えるもんじゃないがな。なんせ一発200万だ。こんなのを当たり前に使ってる連中ってのは、一体どれだけ稼いでんのかね」
特殊装填弾はその威力もさることながら、価格もそれ相応に高い。これは言うなれば魔術符の弾丸版だ。小さな銃弾に魔力と魔術をまとめて込めているため、その価値は非常に高くなっている。魔術符との主な違いは、それを打ち出すための専用銃が必要となることと、それが必要とされるランク帯だ。専用銃はそれなりに高価な上、魔導装備や近接武器を主とする者たちには使われない。誰でも手軽に使え、持ち運びが容易な魔術符とはそこが異なっている。それと装填弾は銃弾としての容積がある分、魔術符よりも込められる魔術が強力になる。基本的に低ランク向けとされている魔術符と違い、装填弾は主に高ランク帯で使われている。
特殊装填弾に購入制限が課されているのは、それが都市に対して使われた場合に脅威となるためだ。特殊装填弾は、都市の保有する魔力活性者にも有効となる。そのため探索者ランクによる制限だけなく、必要な対価を払っても手に入る量は限られている。上のランクになれば制限もなくなるが、その場合それが必要とされる遺跡近辺の都市以外では購入が不可能となる。中には反体制派などに横流しして稼ぐ者もいるが、連合や六大統轄を敵に回そうとする上級探索者は非常に少ない。それ故の制限撤廃である。
「まあそれはいいや。ヨルグ、怪我の状態はどうだ?」
「見た通りだ。傷口は治療薬で塞いだが、痛みはまだ感じてる。鎮静作用が微妙だな。それと丸々失ったせいで、左右のバランスが悪くて歩きにくい」
「そうか」
オルディンは腕を失っても平気そうな仲間の姿に、短く応じて苦笑した。
「今回勝てたのはお前のおかげだ。終わったらすぐに……は無理だが、これで稼ぎが増えたら再生治療も受けさせてやる。それまでは義手かなんかで我慢してくれ」
「ふっ、案外その頃には、その義手に慣れきってるかもな」
「それは言わんでくれよ」
仲間と談笑していたオルディンは、一通り笑うと表情から笑みを消した。
「それじゃあ、戦利品の獲得に入るとするか」
オルディンと仲間たちが表情を真剣なものに変え、横たわるロアの方へと近寄る。大きな負傷を負って倒れていても、相手は規格外の戦闘力を見せた人外の者だ。包囲陣形を敷きながら慎重に近づき、反撃の兆しを確認したなら即座に攻撃の姿勢を取れるように武器を構えた。その場合戦利品の破損が心配されるが、そこは許容範囲と定める。彼らは決して慢心も侮りもしていなかった。
しかし、それこそが油断であると示すように。彼らが近づいた瞬間、ロアの装備が青白く発光を始めた。
魔術による爆風に吹き飛ばされ、その身を地面に投げ出されたロアは、自分の身に何が起きたのか把握することができなかった。
『派手にやられましたね』
耳も目もまともに働かない状態で、その声だけが頭の中に響いた。
『……俺は、死んだのか?』
『まだ死んでませんが、このままだとそうなるかもしれませんね。なのでさっさと起きてください』
自分を急かす声に、ロアはようやく意識を少し取り戻す。
『……なんで俺は無事なんだ? 絶対に死んだって思ったのに』
『それは私がどうにかしたのです。直撃した銃弾は魔力圧を高めて守り、魔術の方は分解して取り込みました。流石に周囲に着弾して現象化したものまでは無理でしたので、それで起きた爆風で吹き飛ばされた形ですね』
よく分からないことを言うペロだったが、今のロアはそれを気にしなかった。気にするだけの余裕がなかった。
『そうか……俺はまた、お前に助けられたのか』
少し前に助けた探索者たちの凶弾から守られた時のように、今回もペロの力によって自分が助かったことをロアは理解した。そしてそれを理解した瞬間、色濃い失意と後悔の波に襲われた。自分の不甲斐のなさに堪らなく心が苦しくなった。
ロアは自分の選択を後悔していた。オルディンを少しでも信じたせいで、彼に罠に嵌められた。オルディンを正面から倒そうなどと、自分の力に驕ったせいで、こうして窮地に陥った。自分が逃げなかったから、戦うことを選んだから、全てこうなった。それなのに、今も自分はペロに助けられて生きている。無様に生き残っている。そのことが、情けなくて仕方なかった。
強くなったと思っていた。借り物の力ではあったけれど、それでも自分は強くなったのだと。強くなって、モンスターを倒せて、探索者としてのランクも上がって。だからもう今までの自分とは違うのだと、望む生き方を実践していけるのだと、そう思っていた。
しかし、そんなことはなかった。もうこれで三度目だった。強くなって腕試しに強力なモンスターと戦ったとき。無謀にも強力なモンスターに挑んで他人を助けたとき。そして今回、相手の思惑に考えが到りつつそこへ踏み込んだとき。その何れにおいても、ペロの助けが無ければ自分は死んでいた。そしてその何れも、自分が強くなったと慢心してから起きたことだった。たったの三日で、三度も自分は死にかけた。
ロアはそれで己の愚かさを自覚した。所詮借り物の力でしかないのに、たまたま得た力でしかないのに、その力は自分の力ではないと、そう意識するようにしていたのに。結局それを自分の力と勘違いして、無茶をして、死にかける。自分はその程度なのだと突きつけられた。自分の生き方は間違っているのだと、無理であると思い知らされた。
自身への嘲りと失望で起き上がれないロアを、ペロが呆れた様子で叱咤する。
『後悔は後、反省も後。今は生き残るのが先決でしょう。何をウジウジしているんですか』
その声を聞いて、少しだけロアの体に力が戻る。急に命が惜しくなったわけではない。自分が死ねば、この頭の中の相棒も消えてしまう。それを思い出したのだ。
『……悪いな。……お前を、こんな俺に付き合わせちまって』
『何が悪いものですか。あなたのやり方を容認したのは私です。それで謝る必要は何もありません』
その言葉で、少しだけ心が軽くなる。でもそれは、ロアにとって都合のいい弁護だった。罵倒されたいわけではないが、無意味に慰めるような言葉は欲しくなかった。
『なんで、俺を責めないんだよ……』
『そういうのは後と言ったでしょう。今は状況の打開が先です』
それでも言葉は止まらなかった。今この場で、相棒からの本音を引き出しておきたかった。自分の行動を、生き方を、本音では否定しているのなら、それを聞いておかねばならなかった。そうやって一度、完全に否定されなければ、立ち上がれる気がしなかった。戦える気がしなかった。他でもないペロの口から、その言葉を聞いておきたかった。
『俺が、こんな生き方を選んだせいで、それで』
『無謀を自覚してもいいです。無茶を責めてもいいです。でも、あなたはその生き方を選んだのでしょう。そうしたいと思ったのでしょう。だったらやりたいようにやって、生きたいように生きてください。後悔はしても、悔いは残さないでください』
『……』
『馬鹿なあなたも、愚かなあなたも、そんなあなたを私は受け入れています。過ちから自分を省みるのはいいです。この先の行動を改めてもいいです。しかし、私を気遣って自分を変える必要はありません。私はそれを望みません』
何を思えばいいのか分からなかった。どう感じればいいか分からなかった。
ロアは自分を否定して欲しかった。間違っていると言われたかった。理想など捨てろと、そう思われていたかった。しかし、その言葉は貰えなかった。相棒はどこまでいっても自分の味方で、どこまでいっても自分を肯定した。生きたいように生きていいのだと、やりたいようにやっていいのだと、そう認めてくれた。
それは欲しかった言葉ではないけれど、望んでいた言葉ではあった。自らの生き方を是認してくれるものだった。
その言葉を、本心からの想いを聞けて、ロアの身体に力が戻っていく。
『全く世話がやける相棒ですね。──さあ、やりますよ。油断も容赦も惜しみも、今さらそんな弱気を見せはしませんよね?』
『……ああ、全力でやる。本気の全力で。──だからペロ、思いっきりやってくれ』
『ええ、任されました。コード:リミットブレイク起動。モード限界突破です』
ロアの左手にある収束砲が青白く発光する。臨界点を超えた装備は、自らの存在を燃やし尽くすような発光現象を伴って、使い手の意思により大量の魔力を供給される。
限界突破によって、通常よりも早く魔力が注ぎ込まれるのを感じながら、ロアは素早く身を起こした。起き上がると同時に、収束砲を前方に向けて放った。
ロアの異変を察知したオルディンたちは、すぐさま反撃に転じようとする。しかし、トリガーを引くと同時に前へ飛び出したロアにその攻撃は当たらない。銃弾や魔術が届くよりも、一瞬だけ早くそこを離れていた。
相手より先に放った魔力弾が、避け損なった一人に当たる。限界突破によって本来の数倍に跳ね上がった威力は、その者の体を跡形もなく爆散させる。飛び散る血肉を浴びるのも気にせず、ロアは敵の中を突き進む。そして攻撃の余波を受けてよろける近くの者に、右手のブレードを振るった。
上腕から首元へと刃が抜け、遅れて鮮血が撒き散らされる。刃を振り抜いたロアは、致命傷を負った相手の死も見届けないまま、殺した二人の間を走り抜けた。そして、その先にいるオルディンへと狙いを定めた。
振り抜いたブレードを素早く手元に戻し、地を蹴る勢いを利用して突きの構えを取る。そのまま走る勢いを緩めず、目を見開くオルディンに向けて、必殺のブレードを突き入れた。突き出された刃が人体を容易く貫通した。
しかし、ロアの目の前にいたのはオルディンではなかった。
「ヤルダン!!」
オルディンの叫声が響く。オルディンを庇うようにして前に出たヤルダンは、ブレードで胸部を深く貫かれた。狙いの人物を仕留め損なったロアは、横に向かって無理やり刃を振り抜いて目の前にいる人物を蹴り飛ばした。人間離れした脚力で蹴られたヤルダンは、腹部に強い衝撃を受けて後方へと飛び、そこにいるオルディンとぶつかった。
二人がもつれながら倒れるのを確認したロアは、溜まった収束砲のエネルギーを左側に向かって解放する。そこにいた三人の男たちは、展開の早さに付いていけず、慌ててロアへ攻撃を仕掛けようとしていた。しかしあと一秒後には行えたそれは、強制的にキャンセルさせられることになる。初撃よりも多くの魔力を込められた攻撃は、真ん中の一人にあたると、余波で他の二人もまとめて殺傷した。
三人を一度に殺したロアは、自分もその衝撃を浴びながら、今度は右側にいる者たちへ攻撃を仕掛けた。強化された身体能力にとって、十数メートルなど一瞬の距離である。初速から二歩で距離を詰めると、最も近くにいた者を瞬時に殺害した。更に先にいた二人を、自分に向かって放たれる銃弾を交わしながら、数秒かからず殺し尽くした。
短時間で八人を殺したロアの元に、怪我で後方に下がっていたヨルグが追いついた。激しい雄叫びを上げた彼は、強化服の出力を全開にして、片手で魔力衝撃棍を振り下ろす。その攻撃を冷静に見切ったロアは、今度こそ完璧に回避すると、相手の背中に向けてブレードを振った。強化服の防御力が多少の抵抗を発揮するが、上回った攻撃力は問題なく胴体を通り抜けた。ヨルグの体は二つに分かたれながら崩れ落ちた。
巨漢の胴体両断を成功させたロアは、再び限界を超えてチャージされた収束砲をある方向に向けて撃った。そこには崩壊した建物を見下ろせる最後の建物があった。オルディンたちが近くにいたため、 唯一排除できなかったその者たちを、ロアは逃さず狙い撃ちにした。下で起きている一方的な殺し合いに、介入することもできず呆けていたその者たちは、威力が本来の数倍にまで高まった魔力収束砲の一撃を受けて、まとめて吹き飛ぶことになった。限界突破した魔力弾の威力により、撃ち込まれた階から建物は崩れ始めた。
建物の崩壊を目にして、ロアはその場から軽く横に飛んだ。ロアが一秒前までいた地面が、遠距離からの射撃により軽く爆ぜた。ロアは銃弾が飛んできた方向に顔を向け、その先にいる、二度自身を狙った狙撃手を見据えた。
収束砲を持った左腕を持ち上げる。ペロのサポートを受けて広かった存在感知で、遠距離にいる相手の居場所を正確に捕捉する。砲口に魔力が溜められていく。元々は球体だった魔力弾が、ペロの干渉を受けて形を変えていく。そして長距離の飛翔に適した形に変成されると、収束砲のトリガーを引いた。実弾と遜色ない速度で飛翔する魔力弾は、空気の抵抗など関係なく真っ直ぐに進み、百メートル以上先の標的を正確に撃ち抜いた。ロアは広がった存在感知により、対象が確実に死亡したのを確認した。
自分を殺そうとした者たちのほとんどを殺害せしめたロアは、最後に残る人物へと身体を向けた。
そこには、仲間の遺体のそばで力なく地面に座り込む、オルディンの姿があった。
「……まさか、ここに来て、まだそんな力を隠していたとはな。……本当に誤算だった」
仲間の血で半身を濡らし、その場に座り込むオルディンが、手に持った拳銃を地面に投げ出して弱々しく呟いた。
「はぁ〜……それだけの力がありゃ、俺たちはきっと、この都市だって支配できただろうに……」
精魂尽き果てた男に向かって、ロアは静かな足取りで近づいていく。
「お前、今からでも……って、それはお互い無理だよなぁ……。くそっ……本当に、どこで間違えたんだか」
数メートル手前まで来たロアは、視線を地面に下げたまま尻を付く男に、落ち着いた表情と口調で語りかける。
「お前のおかげで、自分の弱さに気づけた。望む生き方の再確認もできた。……それだけは礼を言っとく」
「ハッ……お前に言われちゃ世話ねえよ……」
がっくしと肩を落として顔を下げるオルディンへ、ロアは限界が間近に迫っている収束砲の口を向ける。
「じゃあな」
「──ロア!!」
自分がこれから殺す相手へ、手短に別れを告げるロアの耳に、自分の名を呼ぶ聞き慣れた声が届いた。
「……レイア?」
警戒を緩めたロアが、声の聞こえた方へ顔を向ける。その動きを察したオルディンが、手元の銃を素早く拾おうとする。しかしそれを存在感知で把握していたロアは、すぐに視線を戻すと、すかさずトリガーを引いた。
発射された魔力弾により、オルディンの頭部が粉々に吹き飛ばされる。形を失った中身が、彼の後ろへ派手に飛び散る。頭部を失ったオルディンの体は、力なくゆっくりとその場に横たわった。
ドサリと、地面に人の体が倒れる音を聞いて、ロアは収束砲を構えていた腕を下げた。そのタイミングで、役割を終えた魔力収束砲は、空気に溶けるようにして消えていった。
「……ありがとな」
以前ペロに言われた通り、何度も自分を助けたくれた道具に対して、ロアは短く礼を述べた。何も無くなった手のひらの余韻を噛みしめるように、少しの間感傷に浸って見つめた。
やがて手元から視線を上げたロアは、再びそちらへと顔を向けた。そこにはなぜか、自分がよく知る少女の姿があった。
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