2日目 未知との遭遇

 村の入り口まで到着すると、2足歩行で背中に槍を担いだ人型の生物が接近してきた。

 

「ついに未知との遭遇だね。私凄くドキドキしている」

 ジェシカが興奮を隠し切れない様子で息を荒げている。

 

「こんにちは! 初めまして。私たちは怪しいものではありません。2人でこの砂漠を旅してきたのです。宜しければ村に入れてもらえませんか?」

 

 ジェシカがボディランゲージを交えて2人に話しかける。


 その2人は、褐色の肌に緑色の髪の毛、背はジェシカと同じくらい。

 ぱっと見は人にしか見えない。

 異世界の住人といえども俺たちと似通った造形をしているようだ。

 外観から察するに彼らは2人とも男のようで、村に近づく外敵から守る役割を担っているかもしれない。

 

 彼らは、話しかけたジェシカよりも、体のデカい俺を警戒している。

 

 獣の巣で見つけた死骸と近い構造の服を着ている。

 俺から全く目を逸らさずに背中に担いだ槍を手に取り、先端を向けてきた。

 ……俺たちは案の定警戒されている。

 

「やっぱり……言葉は通じないと思ってたけど、コミュニケーションを取ろうとする意志を感じて欲しいな」

「どうする? 襲い掛かってきたら抵抗するべきか?」

「止めておこうか。ここで敵対したら次いつ他の生物に出会えるか分からないよ。私に任せておいて」

 自信を持って言い放った通りに、ジェシカは言葉が通じないことにもへこたれず、次々と話しかける。

 

 傍から見ているとジェシカのコミュニケーション能力は凄い。

 全く言葉の分からない相手にひたすら話しかけ続け、無害をアピールし、相手の何を言っているか分からない言葉に対して相槌を打っている。


 彼ら2人も困惑している様子。

 彼らの言葉は、まるで木が軋むような音を発する。

 表現するならキュイキュイやクィクィ、クークィ、クークーなどで、果たして意味がある言葉なのだろうか。


 俺に向けていた槍先は既に地面に下ろされている。

 ジェシカは掌を広げ両手を上げたり、服をめくって何も持っていないことを伝えたり、砂の上に仰向けで寝転んだまま話しかけたりと。

 無害をあの手この手で表現していた。

 ジェシカの必死のアピールにより危険な存在ではないと認識してもらえたようだ。


 彼らが喋った言葉を真似して、ジェシカもクークーと唸る。

 クークーと言ったり、キュイキュイと言ったり音程を変えたり声量を変えたりと多種多様な方法で話しかけ続ける。


 もう1時間以上立ち話しているが、よく追い払われないものだ。

 女神の美貌は異世界人にも通用するのかもしれない。

 男が綺麗な女に弱いのは世界共通なのだろう。


 そのまましばらく話を続けて、俺から見ていると意思疎通の片鱗が見て取れるようになってきた。

 

「どうだ? 話は通じたか? そろそろ日が落ちてくる。村の中に入れてもらえるか?」

「いやー流石に何言っているか分からないね。この2人は門番の役割っぽいけど、見た目の違う異邦人をすんなり通してくれそうに無いかな……今日の所は諦めるしかないね」


 俺らは一旦引き返して、村が目視で確認できる距離の岩場まで戻った。

 ジェシカは別れ際に、彼ら二人に手を振っていた。彼らも手を振り返してくれた。

 

 既に友好的な関係を築いている。

 目を見張るコミュニケーション能力だ。


 

 岩場に戻った俺らは野営の準備をする。

 昨日と同じく結界を張り、天幕を張る。

 ジェシカは遠見の魔法を発動させた時のように、中空に魔法陣を展開し、ブツブツと何か唱えて操作している。

「何をしているんだ?」

「今日聞いた言葉を解析しているの。相手の声を記録しておいて、こちらから働きかけた時の反応や態度、感情を分析して言葉に当てはめる作業だよ。これで彼らの使う単語や文法が分かれば、明日はもっと円滑にコミュニケーションを取ることが出来る」


 ただ雑談していたわけじゃなかったのか。

 流石サバイバルの女神。

 未知との遭遇も対応出来る訳だな。


 2日目の夜は、昨日と変わらず満天の星空だ。

 砂漠には雨が降らないのか、雲が流れているのを見たことがない。

 おかげで火や明かりを準備することなく、周りを見通すことが出来る。

 

 日が完全に落ちた今になっても、村を目視可能だ。


 ジェシカは昨晩同様、夜のお勤めを始めた。

 6個の小石を自分を取り囲むように置いて、光る石の中央で祈りを捧げる。


 今日は“砂の世界”で生物と出会った事を報告しているだろう。

 

 “楽園”は、どんな反応を見せるのだろうか全く知りえないが。

 ジェシカ以外に”楽園”の神々がこの世界に降りてくることはあるのか?


 俺もジェシカのように何か特殊技能を持っていたのだったのだろうか。

 そもそも俺は人で、ジェシカは女神として同じ世界に存在していた?


 分からない。

 

「今日の報告終了! 明日も頑張ろうね。ハーヴィ気分はどう? 変な気分になってたりしない?」

「気分は悪くない。だが、分からない事が多くて疑問が尽きない。知りたい事が沢山あるんだ」

「なるほどねー……私も貴方に色々教えてあげたいけど、転生の直後に、死ぬ前の事を伝えるのはダメなんだ。もう少し様子見させてくれない?」

「様子見ってのはどれくらいかかるんだ?」

 

「蘇ってから10日間は時間を置きたいかな。10に、問題なさそうだったら、少しずつ昔話をしてあげるよ」


 ジェシカは約束を交わし、天幕の中へ入っていった。

 8日後、疑問が解決することを楽しみにして俺も眠りにつく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る