中二病魔法少女は逃亡する

@watankon

プロローグ

ドロドロした闇が足にまとわりついている。

まるで、父様が昔お土産に買ってきてくれたスライムの玩具のよう。

泣きたいほどここから逃げたいのに、絡め取られた足が持ち上がらない。

かかとを指数本分の高さまで上げるのがやっとで、へばりつく闇がにちゃにちゃと耳障りな音をたてるだけ。


気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。


逃げなきゃいけない。

怖い。嫌だ。

逃げなきゃいけない――


「……――から――」


背後から突然響いた声に、冷水をかけられたように背筋が凍えた。

ごぽっ、と液体が溢れる音がする。

振り返りたくない、逃げなきゃ――


「――から、ここに来たのに?」


振り返らなかったのに。

その声が正面の足元から響いたかと思うと、ドロドロした闇が持ち上がり人の姿をとり始めた。

同時に右からも、左からも、闇がボコボコと山となり形を成していく。


その闇は、見覚えのある少女の顔を作り出す。

右目があるであろう穴から固まりきらない闇をしたたらせる少女に微笑みかけられて、ようやく私は気づいたのだ。


腰まで伸びた髪を2つに編んだ重たいおさげ。

わざとらしく左目を隠す眼帯。

魔術中等院の制服の袖をわざとまくりあげ、見えるように右腕に巻かれた包帯――


これは私。私の形をした闇。

私は私と向かい合う。少女は黒い口をニタリと開く。


「逃げたから、ここに来たのに?」



足が動かないのは、逃げられないのではなく、逃げる必要がなかったから。


ここが、私の逃亡の終着点なのだ――

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