RPG

 最新作RPG≪グリードジャイアント≫。

 この世界はオープンワールドではないもののかなり広い。

 冒険の目的が巨人・大巨人を倒すための物語であるため、巨人との戦闘スペース用に各エリアがかなり広く作られている。

 ここはその世界の西の端だ。

 西を見れば基本的には崖。崖の間にある道も全て大岩で塞がれている。ここから西へ行くことはできない。

 オレの新しい仕事場は西の端の修練場。戦いの基礎を学ぶための場所だった。

 主人公アールがやってくる。アールは爽やかな青年だった。

『俺に戦い方を教えてくれ』

 アールと対比するように、修練所の下級教官はゴツゴツした熱血漢だった。

『よかろう』

 下級教官が地面を指差すと、そこから、土が盛り上がる。5メートルほどの大きさになるまでに人型に形成され、土の巨人が出来上がる。

『まずは剣で攻撃してみろ』

 ここからがオレの仕事だ。

『剣はAボタンに設定されています。Aボタンを押すことで剣で攻撃できます』

 ゲームの設定として、ボタン操作についてはキャラクターに言わせずにシステムとして説明する方針らしい。この方針がなければ下級教官が説明していただろう。

 アールが目の前を切る。土の巨人までは距離があり攻撃は届いていない。

『どこを切っている!? 攻撃の狙いを定めろ!』

『Bボタンを長押しするとカーソルが表示されます。カーソルはスティックで動かすことができます。カーソルを動かしている間はキャラクターを動かすことはできません。まずは、巨人の右足にカーソルを合わせましょう』

 アールが右足に狙いを定める。

『カーソルをロックするためにはLボタンとRボタンを同時押ししてください』

 ガチャという音が鳴る。

『カーソルがロックされた状態で攻撃すると、自動的にロックされた箇所に攻撃を行います。Aボタンを押してみましょう』

 アールが右足に駆け寄り攻撃した。

『ほう。剣で弱点の頭を攻撃しなかったことは褒めてやろう。剣で頭を攻撃するために体をよじ登っていては攻撃してくれと言っているようなものだからな』

 チュートリアルの役割は教官も担っている。ゲーム操作以外の初心者向けの助言は教官も行う。

『次はハンマーだ』

『LボタンかRボタンを押すことでAボタンで使用する武器を変更できます。Rボタンを押してみましょう』

 アールが剣からハンマーに武器を切り替える。

『Aボタンを押すことでハンマーで攻撃できます』

 アールのハンマーが巨人の右足に当たった。

『いいだろう。ハンマーの攻撃は威力は高いが攻撃の速度は落ちる。剣とハンマーのどちらを使うかは状況によって使い分けろ』

 巨人の右足がヒビ割れた。この世界では敵に体力ゲージが表示されず、ダメージは外観に現れる。

『最後は爆弾だ』

『Rボタンを押してみましょう』

 アールがハンマーから爆弾に武器を切り替える。

『爆発に巻き込めれないように、爆弾を投げるときは巨人から距離を取れ』

 アールが巨人から十分に離れた。

『Aボタンを押してみましょう』

 アールが爆弾を投げる。爆弾は右足に向かって飛んで、ぶつかると同時に爆発した。

『爆弾は敵から離れれば離れるほど命中制度が下がる。近くにいても素早い敵であれば避けられる。そのことは肝に銘じておけ』

 巨人の右足が砕けた。バランスを崩した巨人は倒れ込む。起き上がれずに緩慢な動作でもがいている。

『あと一撃で倒せそうだな。爆弾でトドメを刺せ。巨人の頭付近に爆弾を置け』

『Bボタンを表示してカーソルを表示してください。ロックしていた右足が破壊されロックが解除されています。カーソルをロックしていない状態で爆弾を使用すると自分の足元に爆弾を配置します。もしカーソルがロックされている場合は、LボタンとRボタンを同時に押すことでロックを解除できます。巨人に近づいて爆弾を配置しましょう』

 アールが巨人の頭付近に近づく。爆弾を足元に配置する。

『爆発に巻き込まれるな! 自分もダメージを喰らうぞ! 早く離れろ!』

 アールが巨人から離れる。爆発が起こり、巨人は粉々に砕け散った。

『よし。戦い方は分かったな。初心者はまず北に向かえ。間違っても南には向かうな。まあ、南への道は≪暁の大岩≫に塞がれていて向かうことはできないだろうがな』

 アールは修練場を出てつぶやく。

『北か……』

 アールは北へ歩き出した。

 オレはそれを見送った。

 これから何度も見送ることになるだろうが、初めての見送りは新鮮だった。

 綺麗なグラフィックの空は雲一つない。

 旅立ちに相応しい気候だと思った。

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