でも、それは竹の早とちりの勘違いで、笹野くんの話は恋の告白の話ではなかった。それがわかったとき、竹は顔から火が出るくらいに、本当に恥ずかしい思いをした。笹野くんがまったく違う話をしたときに、竹の顔は真っ赤になった。(もちろん、その顔を竹は下を向いて、笹野くんから隠していたのだけど……)


 竹宮神社の伝承


「豊田さん。竹宮神社の伝承のこと、知ってる?」

 と笹野くんは図書委員の仕事の最中に、竹に言った。

「竹宮神社の伝承? ううん。知らない」

 本を本棚の元の場所に戻しながら、竹は言った。

 古い図書室の中には太陽の光が差し込み、そこには小さな埃がまっている。古い木の床は歩くたびにぎいぎいと音がする。

 本棚も古くて、本を戻すたびに、本棚が壊れてしまわないかと、ちょっとだけ心配になった。

 二人は今、本棚を挟むようにして、こちら側と向こう側でそれぞれに、木の籠の中にみんなから返却された本をたくさん入れて、それを元あった本棚の場所に戻す、と言う作業をしていた。

 本のない、空いている隙間から、笹野くんの顔が見える。

 その度に、竹はちょっとだけ、自分の鼓動が高鳴ることを感じた。(笹野くんはやっぱり、すごくかっこよかった。みんなはそんなことないっていうけど……)

「その竹宮神社の伝承がどうかしたの?」

 本の隙間から笹野くんの顔を見て、竹は言った。

 竹宮神社。

 竹と笹野くんの通っている竹宮小学校のある竹宮町の中にある古い歴史のある神社だ。

 この辺りの地域の人たちはみんな、元旦には竹宮神社に初詣にいくし、竹宮小学校の学校行事の中でも、いくつかの行事で竹宮神社にみんなで行ったりとかしたこともあった。(最近だと、絵を描きに行った。竹はその日、竹宮神社にある大きな垂れ桜の木の絵を描いた)

 桜がたくさん咲いていて、入り口の坂道の階段が結構急なことでも、有名だった。

 でも、その竹宮神社に伝承のようなものがあるなんてことは、竹はまったく知らなかった。(ずっと近所に住んでいるのに)

 竹にとって、竹宮神社は竹宮神社であって、そこにその神社があって、当たり前のことだった。

「うん。僕も、この竹宮町に引越しをしてきて、竹宮神社のことを調べてみて、初めて知ったんだけど、結構古い伝承があの神社にはあるんだ」

 と、笹野くんは本当に楽しそうな笑顔でにっこりと笑って、竹に言った。

 わくわくする好奇心と、これからなにかが起こることを期待している冒険心に溢れた、元気いっぱいの男の子の顔。

 それは竹の一番好きな笹野雀くんの、顔だった。(やっぱりかっこいい。みんな本当にわかってない。と竹は思った)

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