親友の誘いでヤリサーと噂されているサークルに入ったら、結婚の約束をしていた幼馴染がいた。

黒猫(ながしょー)

プロローグ

 新生活の季節となった四月。

 三ヶ月前までの過酷な受験シーズンを乗り越えた俺は、今日から晴れて大学生となった。

 高校までは校則でできなかった髪型や今どきの若者感溢れる服装。いわゆる大学デビューを果たした俺には今、憧れだった夢と希望が満ち溢れているキャンパスライフが待っている。


 ――絶対にこの四年間で童貞を卒業してやるッ!


 ……というのはあくまでも最終的な目標。

 この世に生を受けてから十八年。一度たりとも彼女ができたことはない。

 女子といい感じになっても結局は友だち未満に終わり、好きな子に告白したところで「タイプじゃない」とストレートに言われて玉砕。正直、この四年間で彼女ができなかったらもう男として枯れてしまうかもしれない。それくらいの覚悟があった。

 俺という玉城裕たまきゆうそのものがダメなのか、それとも目立った特技や特徴がないのがダメなのか……。少なくともイメチェンをした今なら容姿は問題ないと思っている。人生で初めて行った美容室の人も「め、めちゃくちゃかっこいいですよー。あはははは……」と若干引き攣った笑顔で言ってくれたし、うん、大丈夫! 何も恐れるんじゃない俺!

 とりあえず、彼女を作るための第一工程としてまずは女子と知り合わなくちゃいけないんだが……


「よぉ! 裕……って、お前ここで何してんだ?」


 多くの学生が集う大学の食堂にて、女子を物色している最中声をかけられた。

 振り返ると、そこには中学時代からの親友でもある稲沢健人いなざわけんとが怪訝そうな表情で立っていた。


「ああ、健人か。ちょっとナンパに挑戦してみようと思ってな。大学デビューを果たした今の俺なら絶対にいけると思ったんだけど……」

「ナンパ? お前、自分で気づいているかどうか知らんけど、はたから見たら周りを不審にキョロキョロしたヤバい奴にしか見えなかったからな? ひとまず、ナンパはやめとけ」


 親友の呆れたと言わんばかりの口調と態度が妙に心へと突き刺さる。


「お、おう。お前がそこまで言うんだったら……」

「それより、昼だしこのままメシでも食わないか?」


 健人に誘われ、俺は一緒にメシを食うことにした。

 ここの食堂はメニューが日替わりという変わった仕様をしており、今日は牛丼、うどん、唐揚げ定食などが並んでいる。

 俺と健人はそれぞれ牛丼とうどんを注文すると、適当な席へと移動する。


「それで、お前はたしか彼女が欲しいんだったけか? 良さそうな子は見つかったか?」

「……見つかってないからさっきまで探してたんだろ」


 健人は短いため息を吐くと、うどんを啜る。


「やっぱり裕だよなぁ。変なところで真面目っていうか……適当にバンバンナンパすればいいものの……」

「それはできない! 顔がタイプでない子をナンパするなんて……不誠実極まりないッ!」

「お前、アホだな。勉強はできるくせにアホすぎる。だから、いつまで経っても彼女ができないんだよ」

「う、うるせぇ! このヤリチンがッ!」


 健人は俺とは違って、顔も良くてスタイルもいい。高校まではサッカー部に所属していたということもあって運動神経もいいし、まさに絵に描いたようなイケメン。故にこれまでできた彼女の数は十人を超え、それなりに女子との体験も済ましている。


「あーはいはい。まぁ、言っても無駄だとは思うけど、お前にいいことを教えてやろうか?」

「あん?」

「彼女を作るにはな、まずは出会いがなくては始まらないんだよ。どんな些細なことでもいいし、最初は好きじゃなくてもいい。その子と関わり続けたら好きという感情は自ずと後からでもついてくる。だからたくさんの女の子とまずは知り合え!」

「で、でも、知り合うきっかけがなくちゃ無理だろ……。健人みたいにコミュ力が高いわけでもないんだから……」

「ナンパしようとしてた奴が今更それを言うか……。まぁ、いい。そんな奥手な裕に朗報がある」

「朗報?」

「お前、まだサークルどこにも入ってないだろ?」

「うん……」

「この大学にはヤリサーがあるっていう噂……知ってるか?」

「ヤリサーって、あのヤリサーか!?」

「あのヤリサーしかないだろ。交際関係がない男女がヤる目的で集まっているサークルだよ。お前、興味ないか?」

「いやいやいや! そんなのダメだ! 付き合っていない男女がヤる目的のサークルに入るなんて……!」

「何言ってんだよ。相手も了承の上での行為だから否定もクソもねーだろ。それにさっきも言ったよな? 出会いが肝心だってこと」

「だけど……」

「あー! もういいから、これ食い終わったら見学行くぞ? いいな?」



 食堂でメシを食い終わった後、俺は健人に連れられるがまま、サークル棟へとやってきた。

 ここは教室がある一般棟から少し離れているため、ひと気も少なく、周りはちょっとした雑木林に囲まれている。

 そのためか、春の心地よい風だけが通り、非常に快適な空間へとなっていた。


「で、そのヤリサーとやらはどこにあるんだ?」

「ああ、たしか……三階の一番右端の部屋が部室だったような……」


 俺と健人はサークル棟に入り、一番上の階を目指す。

 建物自体は少し古いせいか、カビ臭いような気がして、エレベーターすら付いていない。

 昼休みということもあり、シーンとした廊下を渡ると、三階の一番奥にそのヤリサーと噂されている部室へと辿りついた。


「不可思議研究会……?」

「ヤリサーの仮の名だな。とりあえず入ってみようぜ」


 健人はドアをノックすると、奥から女性と思しき声が返ってきた。


「失礼します。俺たちサークルの見学を予約していた者です」

「おぉ〜、待っていたよ」


 そこにはボンキュッボンな色気むんむんの女子部員が一人おり、その他には誰もいない。

 室内は特に変わったようなものはなく、長机とホワイトボードのみという質素な感じだった。


「自己紹介しよう。私がこのサークルの部長である大学三年の尾長鈴音おながすずねだ。よろしくな」

「はい、俺は今年入学したばかりの稲沢健人です!」


 健人から肘を突かれ、続けて自己紹介をする。


「え、あ、お、俺は玉城裕です……。健人の同級生です……」

「あらあら、そんなに目線を泳がせちゃって〜。もしかして緊張しちゃってるのかな〜?」


 尾長先輩は俺の前まで近づくと、顎クイをしてきた。


「うふふ。可愛い」

「え、あ、あ……」


 女子からここまで積極的なことをされたのは生まれて初めての経験だったということもあり、心臓が飛び跳ねるくらいにドキドキしていた。


 ――やっぱり健人が言うようにここはヤリサーなのか……?


「ああ、そうそう。君たちの他にあと二人女の子が来るんだけど――」


 その時、ドアの方からノック音が響いた。


「来たみたいね。どうぞ〜」


 ドアがゆっくりと開く。

 サークルの見学ということは俺たちと同じ一年生なのだろうか?

 ここがどんなサークルなのか知って来ているのか、それともただ純粋な気持ちで見学に来ているのかは定かではないが、少しだけ期待に胸を踊らせていた。

 そして、女子二人組が室内に入った瞬間、俺は思わずの光景に目を見開いてしまう。


「「あ……」」


 相手の女子の一人と視線が交わった瞬間、俺に気がついたようで二人同時に素っ頓狂な声をあげてしまう。


「ん? もしかして裕、あの子と知り合いなのか?」

「え、いや、その……」

「なんだよ。急に顔を青くして……体調でも悪いのか?」

「あ……うん。体調悪いかも……あはははは。俺、帰るわ……」


 別な意味で頭が痛い。

 これが現実じゃなければいいのにとすら思いながらも、部屋を出ていこうとした次の瞬間だった。


「ちょっと待ちなさいよ……あなた、玉城裕、だよね?」

「ち、違います……」

「いや、どう見ても裕くんじゃない! てか、なんで裕くんがこんなところにいるの?!」

「え、えーっと……」


 なんか気まずい。いかがわしいことは何一つしていないというのに!


「まさか……ヤリ目?」

「ち、違う! それだけは断じて違う!」

「あん? 何言ってんだよ。ヤリ目だろ」

「健人は黙っとけ!」


 この場に乗じて、なんとなく察したであろう健人はおもしろおかしそうにニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。


「やっぱりそうだったのね……。私という許嫁がいながらヤリサーに入ろうとしていたなんて!」

「だから違うって!」

「何が違うのよ! そんなにヤリたかったら私とヤればいいでしょ! ほ、ほら、私のおっぱい以前と比べてだいぶ大きくなったでしょ!?」


 彼女は俺の手を掴むと、自分の胸に押し当てる。


「おわっ?!」


 ――たしかにやわらけぇ……って、違う!!!


 俺はすぐさま手を振り解く。


「巨乳好きだって言う裕くんとの再会に向けて、バストアップマッサージとか毎日欠かさずやってたんだよ! なのに……な〜の〜に〜!」


 彼女は顔を真っ赤にしながらまるでフグのように頬を膨らませる。


「あああああああ! もうややこしくなるからこっち来い!」


 俺は彼女の腕を掴むと、一緒に部室を後にした。

 なんで昔離ればなれになった幼馴染がこの大学にいんだよ……。



【あとがき】

 HJ文庫用の応募作品として急遽書いた。

 時間がないけど、毎日3000文字くらいは投稿すると思う。


 作品のフォローや☆、レビューなどよろしくお願いします!

 とりあえずは初投稿から1週間で1000人目指します。

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