第35話最後の戦い(2)

 俺が色々な処罰を思考していると、そこにナグモが大急ぎな感じで俺たちに向けて言葉を放つ。


「クロム! 王女様! 大変だ。学園に王家からの遣いが来てる。どうやらクロムのことを探しているみたいなんだ」


 ナグモの言葉を受け、スキル透視化にて学園を確認した。するとかなりの人数が動員され学園中を探している様子だった。おいおい、まじかよ。何なのこの人数、大罪人でも探している規模の人数じゃないか?


 この状況を打破できる打開策は今のところ思い付かない、現状逃避したところでこの遣いの者は俺の実家に押し寄せてくるだろう。はぁ、これは詰んだかな……。


「わかった。一度国王に会ってみるよ」


 早々に諦めをつけ、屋上を後にした俺を見つけた王家からの遣いに見つかり即座に確保された。そう、それはまるで極悪人を捕まえたかのように手に錠をされ魔道具で俺の魔力回路を遮断して魔法の行使を強制停止された。


 そのまま目隠しをされながら何かの乗り物に乗せられながらおそらく王城に連行されているのだろう。シャルルは付き添いを反対されていたが、そこは王族の権力で反対を押し切って俺に付き添ってくれていた。


 どうやら王城に着いたらしく、今も尚手錠をと目隠しをされている俺は護衛に変わりシャルルが俺を導いてくれていた。透視化も使えない俺は歩みがおぼつかない。


 一しきり歩くと一度歩みを止め、護衛の人間が最重要人物をお連れしましたと声を上げていた。それに許しが出たのか、扉の開く音が聞こえてくる。うわー、めちゃくちゃ緊張してきた。なんて言われるんだろうか?


 扉が開かれた後、護衛の人間が俺の手錠と目隠しを外してくれた。魔力回路の強制停止は解かれることは無かった。


 視界が晴れて周囲を見渡すと、床一面に広がる大理石、天井から吊られている大きな無数のシャングリラ。流石は王城だと感想が漏れ出そうだった。その奥に二つの大きな椅子がある。その椅子は国王と女王の物だと即座に理解した。だが、二つの椅子に人影は一つしかなかった。それは何を隠そう今回俺を呼び出した国王陛下の姿がそこにあった。


 国王の俺を見る目はとても冷たくまるで憎い相手を見るかのような視線が注がれている。その視線に臆することなく真っ直ぐに国王を捉えていた。


「貴様が、私の愛娘の恋人であるクロム・ジルキアだな?」


 国王の問いかけに俺は膝を付き、頭を下げて言葉を返した。流石に王族への礼儀は示しておかないと話にならないだろう。


「はい、国王陛下。私の名を呼んでいただき光栄に存じます」


「最低限の礼儀は嗜んでいるようだな。聞いたところ貴様は爵位を持っていないようだな。平民が王族と結ばれると本気で思っているのか?」


「自身が高望みをしていることは重々承知でございます。ですが、私はシャルル王女様と固い絆で結ばれていると自負しております」


「シャルルの話では爵位は無いものの、魔剣学園でも主席を取り、各イベントで優勝を果たすほど武力があると窺っているがそれは真か?」


「はい、その通りでございます」


「私はこの子には相応しい相手と添い遂げてもらいたいと思っている。それは充分な爵位を持つ相手だと思っていたが、シャルルは貴様以外有り得ないと私に断言した。だが私も貴様をそう簡単に認めるわけにはいかない。そこで貴様には一か月後に開催される四か国で開かれる大会に出て優勝を納めたらシャルルとの交際を認めてやる」


「大会ですか……、わかりました。その大会で必ず優勝してみせます」


「期待はせずに見ておこう。では早速だがこれから代表者を決める選考会に貴様にも参加してもらおう」


 そして、国王から補足の説明を受けた。その大会には各国二名の代表者を選出し、トーナメント形式で行われる大会らしい。俺の所属するクシャナス王国は一人だけ代表者が決まっているのだが、最後の一人はこうやって選考会を行い選出するらしい。そして、その選考会が本日の午後十四時に行われるらしく俺は国王の推薦枠として特別に参加する形になった。


 国王と俺の会話をシャルルは押し黙って聞いていた。そして王の間から解放された俺にシャルルがシャツの裾を摘まみながら不安な表情をしながら口を開く。


「ごめんさい、クロム。こんな事になるなんて……、本当にごめんなさい」


「気にするな、国王に認めてもらう最高の機会だ。それに戦いは俺の専売特許だしな。俺の強さはシャルルも知っているだろう?」


「そうですね。クロムが負けるわけないですし、こんな事になりながら虫のいい話になりますが、……必ず優勝してください」


「あぁ、任せろ。取り敢えず今日行われる選考会に勝利しないとな」


 本日は国王の命により俺とシャルルは公欠扱いとされ、学園を欠席する形にした。来たる時刻までシャルルと時間を潰していた。


「いいの? 時間まで修練とかしなくても」


「問題ない。シャルルと二人っきりで居られる機会だしな。それより話し方少し変わったな」


「も、もういきなりそういうこと言うんだから……。え? 話し方変わったかしら?」


「変わったな。前はもう少し堅苦しい話し方だったぞ?」


「そうね、王族である以上話し方にも気を遣っていたから。だけどあなたには必要ないでしょ? パートナーなんだし」


「俺もそっちの方が好きだな」


 俺の言葉にシャルルは顔を赤らめ下を向いてしまった。いや、実際俺もかなり恥ずかしいんだよ? だけど、ほら、ね? 男の子だからそこは頑張らないとじゃん?


 そこから二人で他愛のない会話をしながら時を過ごした。別段特別な何かをしていたわけじゃないのだが、やはりシャルルと居るからだろうか、とても時間の流れが速く感じる。


 気付けば時刻は選考会の十分前になっていた。楽しかった時間も終わりを迎え、俺は気持ちのスイッチを切り替え選考会の舞台に足を運んだ。


「頑張ってください! 応援席で応援してますから!」


 シャルルの言葉に俺は踵を返しながら片手を上げて返事を返した。


 会場に辿り着き、会場内を見渡すと複数の人が居た。かなり大きな会場は第三試験で使われた闘技場の数倍も規模のでかい会場だった。即座にこの場に居る者全員をスキル解析(スキャン)した。ふむ、やはり選考会に足を運ぶだけはあるが正直俺の敵ではないな。十人程度骨のある奴が居るくらいか。


「クロムー! 頑張れー!」


 声のする方に視線を向けるとそこには何故かナグモたちの姿が目に入った。な、なんであいつらがここに居るんだ⁉


「シャルル様から応援に来てくれって言われたからクラス全員で応援に来たよ!」


 ワカツキが元気よく手を振りながら俺の疑問に答えてくれた。


「これより、我が国クシャナス王国の代表選出メンバーの選考会を行います」


 そして、説明を伝え始めた王国側の人間が淡々と言葉を紡ぐ。この選考会はバトルロワイアル形式で最後の一人になるまで戦い続けることがルールだ。それと殺しは禁止。その他に細かいルールは伝えられなかった。これはかなりやりやすいな。


 王国側の人間が開始の合図を送った。その瞬間周囲の人間が戦い始めた。この一つの会場内に二百人ほどの戦士たちが火花を散らし争い合っていた。この人数を相手に取るのは少々面倒だなと思い、第二試験で冒険者が使っていたスキルを拝借した。


 スキル魔力覇気の上位版、魔王覇気を使った。


 影の王になり放った魔王覇気により、俺の周囲から膨大な神力ではなく魔力が放たれた。半神(デミゴッド)である以上魔力と神力を俺は使い分けることができるのだ。その圧力により、開始十秒ほどでほぼ全員を気絶させた。残ったのは俺を含め五人の戦士だった。


 残りの戦士も俺の覇気に当てられてふらふらとしてとてもじゃないが戦闘続行できる状態ではなかった。その一撃を見たナグモたちも口をパクパクしながら見ていた。せっかく応援に来てもらったのに少しだけ申し訳なかったが、シャルルだけは目をキラキラとさせて喜んでいた。応援席の反対側にはもちろん国王の姿があったのだが、流石の国王も驚きを露わにしていた。


 残りの戦士に魔力を帯びた拳で全員気絶させ、この選考会を無事に終わらせた。応援席に視線を送ると、クラスの全員が大喜びで俺の勝利を讃えてくれていた。

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