第29話来訪者(3)

「弓技・魔槍の砲撃(ゲイ・ジャベリン)」


 開始直後弓での攻撃を仕掛けた。だが放たれた弓矢は魔人の魔力障壁により、触れることなく弾かれてしまった。ならば次はと影の王になり、二本の短剣で攻撃を仕掛けるがこの攻撃も奴の体には届くことが無かった。


 一度間を取り、今度は七つの大罪(トリニティセブン)になり炎最上級魔法・クリムゾン・ファイアを十発撃ち込んだ。その攻撃でさえも奴の魔法でかき消されてしまった。


「驚いたな、まさかここまでやっても地面から一歩も動かせないとはな」


「いやいや、人間にしては十分に戦ったよ」


「こんなんじゃお前も戦う気になれないよな?」


 そう口にした俺は、もう一度間を空けて自身に魔力を収縮していた。自身の周りに紫色の光が体を包み込み頭上から雷が落ちてきた。


「モード神威」


 俺の周囲を雷が迸り、影の王とはまた違った紋章が体に浮き上がっている。そして、二つの魔眼を開眼し、俺の愛剣である八咫烏と燐火を背負い、魔人に向けて歩み寄った。


 大地が揺れるほどの魔力を放ちながら、魔人とほぼ零距離で再び相対した。数秒の沈黙を得て、俺は一気に魔力を解放して辺りに魔力波を放ち、第二ラウンドの狼煙を上げた。


 神威のモードは雷による速さを特化したモードだ。そして雷の速さによる攻撃もまた一段と威力を増すことになる。だがこの魔人はその速さであっても対応してきた。神威の速さに転移を混ぜた超高速の攻撃であっても、この魔人には完全に見切られていた。


 超高速での斬り合いは徐々に俺の劣勢で均衡が崩れてきた。未来予知の魔眼もこの速さとなっては、対応ができなくなってきている。更に魔人はスピードを上げていき、次第に俺の体には無数の切り傷が現れ、そこから出血もしていた。くっ、この状態でも傷一つ付けられないとは……。


 劣勢による焦りから、俺はチャンスでもないのに隙が出る連撃技を叩き込んでしまった。


「雷神疾風連撃(ボルテクス・バースト)」


 神威の速さを最大限まで高めた神速の十八連撃、だがこの技を以てしても魔人には通用しなかった。連撃の最後の一撃を薙ぎ払われ、上体が浮いた隙を付かれて魔人の長く強靭な爪が俺の右腕を切り落とした。


「クロム!」


「来るな! これくらい大丈夫だ」


 魔人の攻撃の反動により地面に叩きつけられた俺を見たシャルルが今にもこちらに向かってきそうなので、声を荒げて制止した。


 右腕からは大量の血が流れていたが、すぐさま回復魔法・リストアを使って斬られた右腕を治した。もう駄目なのか? このままでは皆がこいつに殺されてしまう。


「もう十分にお前の力は見させてもらった。これからは絶望の時間だ」


 魔人が言葉を放った後、魔人の背後に大きなゲートが開かれた。そのゲートの中からは魔力探知からの推測によるとおよそ千体以上の魔人がこの地に舞い降りていた。


 その光景に皆声を失いただひたすらに恐怖と絶望に心を侵されていた。


 十傑たちも流石にこの絶大なる魔力には怯んでしまい立つことすらできていなかった。それはシャルルも同様で、ルイネが傍で支えている状態になっていた。


 およそ千体の魔人に対し、俺はたった一人で立ち向かおうとしていた。



「うおおおおおあああ!」

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