第22話最終試験(7)
「見事だ。俺のこの技を攻略した奴はお前が初めてだ。だが、試験はまだ終わっていない」
奥の手を破られたスノウは、単調な攻撃に変わっていた。存外攻略されたのが精神面に影響を与えたのかもしれない。
そのチャンスを逃さないよう一気に畳みかけにいった俺の背後から殺気を感じ後ろを振り返ると、そこには今俺の目の前に居たはずのスノウがいつの間にか背後に周り、氷で造形した剣で俺に斬りかかろうとしていた。
スノウの攻撃を創造で顕現させた二本の短剣で受け止めた。こいつ、さっきより速くなっていないか⁉ その後もスノウの追撃は緩むことが無く、俺は防戦一方になっていた。魔法を上手く扱い、俺の背後に氷の壁を出し、退路を塞いだりこちらが斬りかかれば氷で作り上げた分身で欺いたりと、先の魔法による攻撃もかなり強力ではあったが、むしろ接近戦の方がどうやらこいつは得意なようだ。
このままでは埒が明かないので一度転移して距離を稼ぎ、弓矢にて牽制した。
だが、この近接戦もスノウの作戦らしく、またしてもスノウに大技を打たせてしまった。
「氷創成魔法・ニブルヘイム」
今までのどの魔法よりも強力な一撃を目の当たりにして、俺は自身の最強の防御魔法にて向かい打った。
「ジ・エグゾダス」
俺の右手から七色の魔力を帯びたバリアを展開した。このバリアは全属性に対応できる転生前からの俺だけのオリジナル魔法だ。
ジ・エグゾダスとニブルヘイムがぶつかり合う。スノウの渾身の一撃はかなりの威力を伴っていた。くっ、勇者や魔王の攻撃さえも防いでいた魔法でもこの体では少々押されてしまうのか……、その問題を解決すべく、俺はもう一つの無限(インフィニティ)の魔眼を行使した。
技の競り合いが続き、この競り合いは俺に分があり、ついにスノウの攻撃を掌握した俺は、伸ばしていた右掌をギュッと握り、スノウの魔法を打ち消した。
「な、何⁉ お前本当に入学試験者か?」
「そうだが、まさかこれで終わりじゃないだろうな? 言っておくが、そう簡単にこの試験を終わらせられると思うなよ?」
スノウは俺の言葉に唇を噛み締めながら、またも近接戦を仕掛けてきた。激しい打ち合いの中、俺の短剣が壊されて、それを見たスノウは終わりだ! と叫び剣を振り下ろした。
剣が振り下ろされた時、俺は空間魔法・インベントリにて二本の剣を背中に掛け、抜刀して、スノウの攻撃を受け流した。
「なんだ、その剣は、先程の剣とは別物の様だな」
「この剣は俺のオリジナルだ」
抜刀した二本の剣は、一つは刀身から柄まで全てが黒く染まった太刀。もう一つは刀身から柄までが青色の太刀だった。名を黒刀・八咫烏。青炎剣・燐火。どれも、昔東洋の方で知り合った店も出さず、ただ趣味として刀鍛冶をしていた男に鍛えてもらった二振りだ。
この二振りは本来あまり使う予定の無い剣だった。なぜなら、この二振りは恐ろしい力を持っているからだ。まず、八咫烏は、斬るもの全てを闇に返す。そう、無になるのだ。魔力を持って生まれるものは皆、魂源といって魔力の源があるものなのだ、それが破壊されない限り俺クラスとなれば例え体がなくなろうと今の力では時間はかかるが蘇生はできる。だが、この八咫烏は魂源そのものを斬ってしまうのだ。
そして、燐火は斬るもの全てを燃やす青炎の力を持っている。例え海だろうと、なんだろうとこの刀で斬れば全てが塵と化す。
更にこの二振りに俺独自の改造も施している。それは二本が揃うとき俺の身体能力は向上するように魔力を注いでいた。この二本を顕現させたことで、身体能力だけでいえば俺はこの体でも転生前と同じくらいの身体能力を得た。
スノウは俺の剣に危機感を感じたのか近接戦を止めて、魔法による攻撃に移り変わっていた。
その魔法の攻撃を俺は軽く消し去り、徐々にスノウに近付いて行った。最初からこの剣を使えばよかったのだが、俺は怒りで理性を失っていたわけではない。この剣を抜いたということは、死以外の結果はあり得ないのだ。それをこの観客の目がある中、行っていいのかと暫し悩んでいた。だが、この学園の入試要項の中にある試験中であっても在学中であっても、身に起きる不幸の責任は取らないと、生徒に適用されるなら、教職員にもそれが適用されるはずだ。それを思うと、俺の迷いは綺麗に消え失せた。
どんな攻撃を繰り出しても一瞬で消し去り、燃やし、スノウの全てが俺に通用しなかった。その事態に今までクールを装っていたスノウの顔が恐怖に支配されていた。
「やめろ、来るな! これ以上近付くな!」
「……」
スノウの目の前までやってきて、最後の一振りを下ろそうとしたとき、スノウが不敵な笑みを浮かべた。
「馬鹿が! まんまと近付きやがって、これで終わりだ! ニブルヘイム!」
俺の目の前でスノウが先程の強力な魔法攻撃を至近距離で放ってきた。はぁ、無駄なことを。俺はその攻撃に微動だにせず八咫烏で一閃して消し去った。
「最後に言い残すことはあるか?」
「まさか、俺を殺す気なのか⁉ そんなことをしたらお前もただでは済まないぞ?」
「生徒の生死に責任を取らないと言っている学園が教師が死んだら責任を取らせるなんてあり得ない話だ。ないなら、お前はシャルルを痛めつけた罪で死ね」
俺はスノウに向けて八咫烏と燐火で斬りかかりに行った。
「クロム! やめて下さい! そんなこと私が許しません!」
俺が斬りかかる寸前でシャルルが声を上げていた。その制止の言葉に反応して一度斬りかかるのを止めた。
「何故だ? こいつはお前にあんな酷いことをしようとしたんだぞ? この先も何かしてくるかもしれない、こんな奴は殺してしまった方がいいだろ!」
「ダメです! 確かにこの方は私にも恨みを抱いているのかもしれません、私が危険な目に遭うかもしれません、それでも私にはあなたが居る! 私を必ず守ってくれる心強いパートナーが居ます。それに、私はあなたに人を殺して欲しくありません、このお願いを聞いてもらえないでしょうか?」
全く、シャルルには到底敵わないな、そんなことを言われたら言うことを聞くしかないだろうに。俺もまだまだ甘いな。この時代に転生して少々丸くなってしまったかな。
シャルルのお願いを聞き入れ、剣を収める前に、スノウに忠告をした。
「どうだ? お前の大嫌いな王族様に命を救われた気分は? いいか? 次シャルルに何かしたら問答無用でお前を斬る。覚悟しておけ」
本当であれば契約(カーマ)を使い誓いを立てさせたいのだが、あのスキルは両者が合意をしないと発動できないスキルなのだ。従ってこの男に契約のスキルは使用できない。
忠告を済ませて剣を収めた。そして、踵を返し闘技場を出ようとスノウに背を向けた瞬間、スノウが俺に剣を横薙ぎしてきた。ちっ、馬鹿が。
スノウがそうしてくることも、俺の魔眼にハッキリと映し出されていたことにより、俺はその攻撃を躱し、八咫烏で右腕を切り落とした。
「今は腕の一本で許してやる。次は無いぞ」
そして、今回の試験はどちらかが戦闘不能になるか、降参宣言をしないと決着が付かない。スノウはあの様子で、降参の宣言もしないだろうと思い、俺は自ら降参宣言をして闘技場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます