第20話最終試験(5)

 今も気を失っているシャルルに対してスノウが氷の槍を無数に出し、今にもシャルル目掛けて放とうとしていたのである。



 その光景には周りの皆も声を荒げて抗議をしていたが、スノウは尚も平然として口を開いた。



「こいつはまだ、降参を宣言していない。よって、この試験は継続とする」



 その言葉を最後にスノウは本当に気を失っているシャルルに無数の氷の槍を放ったのだ。



その瞬間俺は我を失いかけるほどの怒りを覚え、周りの目があるのにも関わらず影の王の姿になり、即座に転移してその無数の氷の槍を蹴り飛ばした。



「なんのつもりだ、これは試験だ。妨害したとみなしてお前を不合格にすることも吝かではないぞ」


「黙れ! 何が試験だ。気を失って降参宣言できないのも判断できないほどここの教員はレベルが低いのか? 俺を不合格にする? したければするがいい。だが、お前と戦ってからだ」



 シャルルを抱きかかえ、状態を確認した。魔力欠乏症の症状と、かなり大きな火傷を負っている。それにもしかしたら肺が焼かれてしまい呼吸も出来ていない可能性がある。シャルルが降参扱いにされたのと同時に医療班がシャルルの治療にあたろうとしていたが、処理が遅すぎる、このままでは命に関わるかもしれないと思った俺は医療班を退け、シャルルの体を構成しているデータを解析(スキャン)した。



 解析が終わり、そのデータをもとに復元魔法・リカバリーを使いシャルルの体と魔力を復元した。この魔法は解析により、体の情報を魔方式に置き換えて、演算をし、その置き換えた魔方式を復元する魔法になる。



「……ん? クロム? え、なんでここにクロムが居るのです? まだ試験中では?」



 かなり混乱している様子のシャルルだったが、辺りの闘技場の有り様と自身の居る位置を確認して事の顛末を悟った。



「そうですか、私、負けてしまったんですね。そして、あなたがまた私を助けてくれたのかしら?」


「そんなところだ。全く、なんて無茶な戦いをしているんだ、一歩間違えれば命を落としていたかもしれないんだぞ?」


「そうなる前にあなたが助けてくれるでしょ? それより、クロム、いいの? 多分今かなり目立ってしまっているけど……、しかもその姿」


「あぁ、仕方ない。俺のちっぽけな意地で救える者を救えないなら、そんな意地は捨ててしまった方が良い」



 シャルルの言葉通り、会場内の全員が俺を注視していた。それもそのはず、突如瞬間移動してスノウの氷を蹴り飛ばし、おまけにこの姿だ、誰がどう見ても注目されてしまう。



「クロム……。ありがとうございます。少し目を瞑ってはくれませんか?」


「気にするな。体が勝手に動いただけだ。ん? こうか?」



 指示通り目を瞑ったが、いつもの癖で透視化は行使したままだったので目を瞑っていても外の景色は丸見えだった。俺に指示を送ったシャルルはそのまま俺の頬に綺麗な指先をあてながら、唇を重ねてきた。その瞬間会場内が一気に歓声で湧いていた。



 唇を重ねられた瞬間俺は言うまでもなく大パニックになっていた。全てのスキルを扱うことができなくなり、思考もままならない。え⁉ なにこれ? これがキスってやつ⁉ やばい、やばすぎるぞ、なんなんだこのあり得ないくらいに柔らかい感触は……。



「私なりのあなたへの気持ちとお礼です。ちなみに私の初めてですよ?」



 俺も初めてなんですけど⁉ まずい、まだ試験が残っているのにあの衝撃が大きすぎてふらふらする……。俺がそんな甘い感想を抱いていると、その空気を壊すものが居た。そう、スノウだ。



 スノウは今も俺に抱きかかえられている、シャルルに向けて攻撃を繰り出していた。そのお陰で、俺も我を取り戻し、即座に対処した。



「試験中にいちゃつくとは舐められたものだな。王族だからといって全て許される訳じゃないぞ!」


「シャルル、ありがとう。お前は場外で応援していてくれ。俺が必ずあいつをぶっ飛ばしてくるから」


「はい、頑張ってください!」



 シャルルを抱きかかえたままナグモとワカツキが居る位置まで転移して、二人にシャルルを預けた。これで不必要な心配をすることも無く、本気でこいつをぶっ飛ばせる。久々にキレたよ。ほんとに。



 周囲には俺の実力が露見され、あいつを如何に周囲にバレずに倒そうか考えていたが、どうやらその必要は無くなったらしい。最初から全開でいける。



 スノウと対峙し、試験が開始する前にどうしても聞いておきたいことがあった俺はスノウに向けてその問いを投げかけた。



「お前、やけに王族に対して攻撃的じゃないか? シャルルの時だけ攻撃の威力もパターンも全てが変わっていた。それは何故だ?」


「俺はここの王族によって全てを奪われた。冒険者としての地位も名声も何もかもを奪われた。だからあの女をめちゃくちゃにして、国王の泣きっ面を拝もうとしていたのにお前が邪魔をした!」


「シャルルは関係ないだろ! ハッキリ言ってやる、ここの国王は頭がキレる人だと思う。なぜならお前みたいな危険な奴を冒険者というなんの縛りもない、いわば荒くれ者を教職員という縛りを与えて、尚且つ実力は発揮できる。これが国王の命令なら俺は国王を尊敬するね」


「所詮餓鬼のお前には理解できない話だろう。話は終わりだ。俺の邪魔をした罰として、他の参加者のように簡単に降参できると思うなよ?」


「ふっ、降参だと? そんなもの誰がすると言った? 安心しろ、シャルルを痛めつけた分は百倍にして返してやる」



 少し距離を置き、合図までの僅かな緊張が流れる。周囲の観客も誰一人として、音を出さない。いや、出してはいけないと錯覚させるほどの緊張感がこの闘技場内にはあるのだ。静寂が流れるその空気に一つの音が鳴り響いた。最終試験開始のサイレンだ。その音が鳴り響くのと同時に俺もスノウも動き出していた。

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