第19話いざ、修練!
翌日、朧を連れて、冒険者ギルドにて登録を済ませた。
俺たちは駆け出し冒険者として最低ランクのFランクからのスタートとなった。
冒険者としてランクを上げるには主に三つやり方がある。
一つは同じランクの依頼を十個達成することでランクが上がる。
二つ目は一つ上のランクの依頼を三つ達成すること。
三つ目はギルド勅令の依頼を達成すること。
この三つが基本的なランクのあげ方だ。だがこれはあくまでBランクまでの話でAランクに上がるにはギルドの昇格試験に合格しなければならない。更にその上のSランクに上がるためには、この国の王、つまり国王陛下の公認がなければなれないらしいのだが、この国王が中々辛口だそうだ。
俺たちが目指すはあくまでAランクまでだ。別にSランクになってこの国の英雄になるつもりはない。
俺からすれば何の制約もないAランク冒険者が一番の理想だ。
先は長いがまずは朧を鍛え上げねばならない。この先危険な依頼をこなすとき死なれては困るからな。いや、別に情が出ているわけじゃない。単に新たな奴隷を見つけるのが面倒なだけだ。
取り敢えず朧のレベルは鑑定眼で見るとまだレベル一の状態だ。これではあの時の俺の二の舞になることは自明の理というもので、これでは一向に朧を強くすることは不可能に思えたのだが、ここで吉報を思い出した。
あの奴隷商は確か、奴隷との主従関係は主人が倒した経験値がパーティーメンバーである朧にも入るということだ。
更にレベルは主人の方に多く入るのだがレベルの概念がない俺からすれば全ての経験値が朧に入る。
これはつまり効率よく朧のレベリングができるということだ。
俺たちはまず最初の依頼でこの国が保有している「ダームズ迷宮」の下層でモンスター採取の依頼を受けた。
初の実戦で朧の表情には若干不安が見受けられるが、俺はそれ安心させるために声をかけておいた。
「朧、大丈夫だ。今日はお前に戦わせないよ。今日は、俺の戦いを見て経験値を稼いで少しでもレベルを上げて、その上で実践の訓練とするつもりだ」
その言葉を聞いて朧は胸を撫で下ろしていた。
そんなに不安だったのか。まあ無理もないか。
俺たちは町を出発して、暫く歩みを進めて迷宮に辿り着いた。
よし行くぞと気を引き締めたところで背中から声がかかる。
「あの、ご主人様?」
そういえばと加えながら朧が俺に問いかける。
「どうした?」
「いえ、何故登録のお名前を海斗様ではなく、何故サンソンと名前を偽ったのですか?」
「あぁ、それはだな」
サンソンとは俺が元居た世界の歴史に名を連ねる処刑人の名前を拝借したのだ。俺の目的はあくまで元クラスメイト、元親友たちの処刑だ。
この名前程相応しいものはないだろう?
「いつか話す」
今はまだこのことを朧に話すわけにはいかない。
今回の依頼は単に朧のレベリングだけが目的ではない。もう一つある目的がある。それを確認したら朧を完全に俺の仲間として受け入れようと思う。
今はこの朧であっても完全に信用したとは言えない。
いや、呼べないのだ。俺に根付いたこの憎悪が安易に人を信用させてくれない。それでいい。そうでなければまた失敗する。
人間が人間を完全に理解するなんてことは不可能なのだ。
「行くぞ、朧、準備はいいか?」
「はい!」
迷宮に入ると早速雑魚モンスターが現れた。それを見た朧は恐怖を浮かべた表情になっていた。
俺はそのモンスターをこの前入手した短剣で瞬殺した。
この短剣には固有の能力があって、短剣が二本揃った時筋力と敏捷性が俺のステータス分プラスされるというぶっこわれた能力を持っていた。
おそらくだが、今の攻撃を朧は見ることができなかったのだろう。気付いたらモンスターが倒されている、そんな顔をしていた。
この剣はダメだ。強すぎて朧の為にならない。
次は魔法による攻撃でできるだけゆっくりモンスターを殺した。まずはモンスターが死ぬところを見せて慣れさせる。
今回の依頼は達成したが如何せん金がない。朧を守りながら戦える範囲までは降りるつもりだ。
そこで今はまだ安全な階層に居ることで朧を本当の意味で仲間とみなせるかテストすることにした。
「朧、今から俺が首を縦に振れというから、そしたらお前は首を横に振ってくれ」
そして、朧に告げ俺の指示通り指示を無視した。
──すると。
胸元に刻み込まれた奴隷紋が光を放っていた。
「あああああぁ!」
その途端、朧は、叫び声を上げながら苦しんでいた。
どうやら、奴隷紋の効力は間違いない。つまり朧は俺を裏切ることは無い。いや、できないのだ。朧には少し悪い気はしたが、これは仕方ないことなんだ。
「すまない、だがこれで俺は安心した」
先の反動で、今も座り込んで立てそうにない朧を壁際に寄せ、少しの休憩とした。
休憩も済み、もう一つ下の第三階層に到達したところで朧に目指す職業(クラス)を指示した。
「いいか、よく見ておくんだ。これが今後お前にやってもらう主な戦闘方法だ」
一体のモンスターを前にして、俺は短剣を持ち、スキル隠蔽で姿を隠し、気配遮断のスキルで完全に姿気配をかき消して敵の背後に移動して、首元を一息に切り落とした。
その光景に朧は理解が及んでいなかった。
「これから朧に目指してもらうのは暗殺者だ」
この育成法で正しければ、徐々に朧は暗殺者としてのスキルなども習得するだろう。だがこれが間違いであればその時はまた検討しなければならないが、今はこの方針で行くつもりだ。
こうして俺と朧の修練の日々が幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます