第12話迷宮の外(2)

 それは、一人の女性が鎖を首に巻き付けられ引きずられるように連れ回されている光景だ。おそらくだがあれは奴隷か何かだろうと予測ができる。



 その周囲にも鎖を繋がれた男の上に乗り優雅に移動している者など居た。いやいやいや、あれって、天竜人がやってたあれだよね? うわー、生で見ることになるとは思わなかったよ……。



 その人波を切り抜け、暫く町の中を歩いていると、そこには俺のお目当ての冒険者ギルドが目に入った。おぉ、良かった。これで生活の基盤は立てられそうだ。



 冒険者ギルドと書かれた看板の扉を開くと、何やら一斉に視線が向けられた。見覚えのない顔が現れたから皆不思議そうにしているのか、視線がやや威圧的だ。



 俺はそのままカウンターに居る受付嬢の人に声をかけた。



「すいません、冒険者に登録したいんですけど」


「ひっ、あ、あ、あの……」



 受付嬢の様子が何かおかしい、ん? 一体どうしたというんだ? 今も何かに怯えている受付嬢を庇うように一人の女性が俺の前に立ちはだかる。



「君はその格好で人前に出てくるとは礼儀を知らないのか? 自身の姿を見てみろ」



 その女性に突如手鏡を向けられ、自身の容姿に驚愕した。



 髪は背中辺りまで伸び、髭は生え、当初から身に付けていた制服はボロボロ。端的に言うと浮浪者の様な格好をしていた。それじゃあ受付嬢のお姉さんが怯えるわけだ。



「も、申し訳ない。迷宮に籠っていたので自身の容姿を見ていませんでした……」


「はぁ、まあ君が不審人物でないなら良いのだが、今回は大目に見るが次からは気を付けるんだぞ?」



 そう言い残して、その女性は去って行った。俺はなるべく怯えさせないように声音を気を付けながら受付嬢のお姉さんにもう一度声をかけた。



「先程はすみません。ここから出次第身なりを整えます。ですが冒険者に登録をしたいのです」


「わかりました。ですが、申し訳ありません。冒険者への登録は最低二人以上と規則がありまして……」


「何故です?」


「近頃モンスターたちの行動が活発になっていて、規則が厳しくなりました」



 これは困ったぞ、まさか冒険者にもそのような規則があるなんて……。どうするか、他に何かいい案があるだろうか? このまま考えていても答えはすぐに出そうにない。一度あの迷宮で倒したモンスターを買い取ってもらえないか交渉をしよう。



「一度で直してきます。それはそうと、ここでモンスターの素材を買い取ってもらえたりしますか?」


「あ、はい。可能ですが、見たところ素材をお持ちでないように見えますが……」


「今、出しますね」



 そう言いながら、スキル時空支配にて異空間から俺があの迷宮で倒してきたモンスターの素材を全て取り出した。



「こ、この素材は⁉」


「え? 迷宮内で手に入れた物ですが?」


「少々お待ちください!」



 何やら慌ててその場を後にした受付嬢。え? 何? なんか凄い嫌な予感がするんですけど……。



「お待たせしました!」



 暫く待った後、受付嬢のお姉さんは何やら一人の男を連れて戻ってきていた。



「間違いない。これは未確認のモンスターたちだ。君、一体このモンスターたちをどこで倒した?」


「アンガス地下大迷宮の下層の方だと思います」


「アンガス地下大迷宮? すまない、聞かない迷宮の名だ」



 ほぅ? つまりこの場所はあの場所より遥か遠い場所に転移してしまったという訳か。それならより一層冒険者になる必要があるな。冒険者は色んな場所に赴くことがある、一つの場所に滞在していれば奴らと出くわす機会がほぼないと思われる。であれば俺が自由に移動できるのが好ましい。



「まあそれはどうでもいいです。それで? 買い取っていただけるんですか?」


「それはもちろんだ。今鑑定するから待っていてくれ」



 こうして何とか路銀には困ることなく済みそうだ。後は冒険者に登録するために後誰か一人仲間とは違うが頭数が必要だ。どこかで雇うか? いや、無理だ。信用できない。俺はもう誰も信用しないと決めたのだから。取り敢えず今日は宿に泊まって作戦を立てよう。



「お待たせしました」



 受付嬢のお姉さんは鑑定が終わったのか、かなり巨大な巾着袋を持って現れた。



「これが今回受け取ったモンスターの素材の買い取り代です」



 その袋を開けると大量の金貨がそこにはあった。だがここにきて更なる問題が生じていた。……金貨って日本円でいくらなの? そもそも金貨意外にあるの? これは今後の生活に大きく影響を及ぼすので恥を忍んで受付嬢のお姉さんに聞いてみることにした。



「……あの、すみません」


「はい?」


「……ここのお金の仕組みを教えてもらえませんか?」


「……はい?」



 受付嬢のお姉さんは最初こそ可愛らしく首を傾げていたのだが、今の俺の質問でまるで異常者を見るような顔つきに変わっていた。まあそうなるよね。



「いや、物心付いた時から迷宮の中に居たのでお金とかよくわからなくて……」



 俺の無理矢理な大嘘に怪訝な顔をしていたが、観念してくれたのかお金について話してくれた。



 まずこの世界には銅貨、銀貨、金貨の三種類があるそうだ。まあ大体そうだよな。それぞれ日本円に置き換えると銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が十万円位だと思われる。そう考えるとこの世界物価高くない? 水一本千円とかやばいだろ。



 まあどうにかこの世界の金銭は理解ができた。ついでにお勧めの宿屋も紹介してもらったし今日はそこで寝泊まりして、明日は新しい装備を整えよう。

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