第9話激闘

 物音が鳴り響いた瞬間、両者は動き出した。



 最初から奴が転移で俺の背後を取ってくることも予想していた。その予想通り奴は背後に回り顔を巨大化させて俺に食らいついてきた。それを同じく転移にて躱し、奴の巨大な顔目掛けて全力で攻撃を叩きつけた。



「影魔法・影槍」



 右手を後ろに伸ばし、影を集めて一つの槍のような形状をした影を創り出し、それを奴に目掛けて投げ飛ばした。



 が、奴もそれなりの強者である。その攻撃が当たる寸前で転移にて俺の攻撃を躱していた。奴の攻撃パターンは噛みつきのみだ、それをわかってしまえば後は転移にだけ注意を払っていれば問題はないだろう。



 その後は転移による競り合いが始まった。状況は俺が奴から逃げ回っている状況だ。流石にステータスの差は歴然。俺よりも遥かに敏捷値が高い子犬の方が俺よりも早く転移されてしまう。くそ、このままではじり貧だ。転移であってもそれなりに魔力を消費するのだ。それに形勢逆転できないのであれば、ここで無駄遣いはあまり芳しくない。



 そう思うと俺はそこで転移による攻防を諦め、肉弾戦もとい魔法で戦うことにした。これならこちらにも幾ばくか勝機はある。奴は顔だけ巨大になり体は小さいままだ。そこを上手く叩くことができれば俺の勝利は可能であろう。



 子犬も転移を辞めて俺の正面に向き直る。不意打ちが通用しないと理解しても未だ余裕の表情を見せる子犬に少しばかり不気味さを覚える。



「影魔法・影縛り」



 自身の影を伸ばし。それを奴の影に忍ばせることにより奴の動きを封じ込める魔法だ。膠着しきった場ではかなりの有効打になるはず、だが奴は魔法にかかったにも関わらず、平気な顔をしていた。



 本来なら動くことができない筈なのに、奴の凄まじい力で引っ張り上げられる。その反動で奴のすぐ近くに引き寄せられた瞬間奴の右足は顔と同様巨大化して俺を蹴り上げた。



 その一撃を受けて骨は軋み、内臓が破裂しているのが感覚的に伝わってくる。



 奴の一撃によりかなり遠くの場所まで吹っ飛ばされた。気は失いかけたがなんとか大丈夫なのだが、意識は朦朧とし視界は赤く染め上げられている。まずい、回復しきるまで体が動かない。早く、早く回復してくれ……。



 赤く染まった視界から奴の姿が見えた。のろのろと体を小さくした状態で探してくれたおかげで少し回復ができているが受けたダメージが予想以上に大きかったためか回復が襲い。奴に見つかるのは時間の問題だが、今のままではパラメータ等が上のあいつに勝つ算段が立たない。どうする、どうすれば勝てるんだ? 考えろ、考えるんだ。



 奴に影を巻き付けてもすぐに千切られてしまう。例え貫通しても特段ダメージを負いそうにもない。それなら貫通させる数を増やせば……、いやこれもダメだろう。



 回復がようやく半分くらいと言ったところだろうか、体が少し動くようになり、スキル闇移動にて影の中に潜伏して回復とそして奴との再戦に向けて思案していた。



 普通じゃない攻撃、あの鶏との戦いと同じ戦局に持ち込めればまだ勝てる可能性はある。だがそこまで奴を縛り付けられるか? 否だ。あの鶏と奴では力の強さが桁違いだ。ありとあらゆるパターンを想定しても今一つピンとこない。何をしても奴を食い止めることが可能な策が浮かばない。いや、待てよ。何故食い止める必要性ばかり考えていたんだ? 別に食い止めなくても作戦は幾らでも立てられるのではないだろうか? 俺は自身で視野を狭めていたということか……。



 回復も済んだ。一つ試してみたいことがあるし、そろそろ迎えに行くか。

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