第二話 爆誕!アイドル気取りの微生物

とある日の水槽内

ゴールデンアカヒレとアカヒレは水槽内を好き勝手に泳いでいた。

そんな時、どこからともなく小さな歌声が聞こえてきた。

何事かと辺りを見渡すが、その姿は確認できない。

「なんなんだ?いったい…」

ゴールデンアカヒレ一号は、泳ぐのを止めて呟いた。

「あっ、ゴールデンアカヒレのオスじゃないか、この間はやたら皆を追い回してた奴だよな?あの威勢のよさはどうしたんだ?」

「あぁ、アカヒレのオスか、あれは、なんというか…本能だ」

「俺はアカヒレのオス四号だ、おまえは何号なんだ?」

「オレは、もちろん一号だ!」

「あぁ、なんか、一号って感じの奴だよな、特攻隊みたいな勢いで泳いでたし」

「そうか?でも、オスの本能だぞ?」

「体育会系って感じだな」

「いや、博識な奴でいるつもりなんだが」

「…無理があるな」

「なんだと!」

「それより、どうしたんだ」

「あぁ、なんか、歌?みたいなのが聞こえて…」

「歌?」

一号に言われて、四号も耳をすませると、たしかに微かだが、歌のようなものが聞こえてきた。

「本当だ、変だな、俺ら以外に生き物はいないはずだが」

「…微生物が増えるのは、まだまだ時間がかかるよな?」

「そうだな、俺らが導入されたからといって、そんな早くに微生物が増える事は無いと思うぞ」

「そうだよな、じゃあ、なんなんだ?この声…」

「知らん」

一号と四号は、二人して顔を見合わせたが、音の正体は、分からなかった。




数日後

「微生物がやけに早く増えている気がするの」

そう、言い出したのはアカヒレのメス、五号だ。

「俺も、そう感じるんだが、そんなに早く微生物って増えるのか?」

「分からないけど、あと、なにか声が聞こえるのよ」

「それは、数日前にゴールデンアカヒレのオス、一号が言ってたな、俺もそう言われて耳をすませたら、微かだが、歌みたいなものが聞こえたんだ」

「あなたもなのね」

「五号もか」

「結構、みんな聞いてるみたい」

「そうか」

「ねえ、少し調べてみない?」

「そうだな」

そうして四号と五号は音の聞こえた方へ泳いでいった。




「やっぱり、ほら」

「そうだな、水の流れるこの場所で聞こえる」

耳をすませると、二人の元に微かな声が届いた。

「お魚さん、こんにちは」

「誰だ!」

「微生物です、個体識別名などはありませんが、微生物の者です」

「微生物?もう増えてるのか?」

「あぁ、じつは私達、微生物はお魚さん達が入ってくる前に、こちらの水槽にお家、私達の家はフィルターと呼ばれているものですが、それと一緒にお引越ししてきたんです。」

「えっ?そうなの?」

五号が驚いた声を出し、微生物は一旦ひるんだが、再び話しかけてきた。

「この水槽にお引越しする前、私達は別の水槽にいました、それが、私達の家であるフィルターごと移動させられたのです、それから私達は、増えることは無かったのですが、お魚さん達が入ってきた事で、糞が出て、アンモニアという毒が排出され、それを分解、無害にする為の役割として、私達は増えました、今では数も増えて、お引越しした事をキッカケに、この水槽でアイドル活動でもしようかと、増えた仲間達と一緒に、アイドルグループを作ったんです、私達微生物は目立つ事はありませんが、前にいた水槽で、コリドラスというお魚さんが、探偵という職業をしていたと聞いて、なんかそういうの良いなって思ったんです、だから、新しい水槽に移ったので、今度は私達が目立つような活動出来ないかな?って思ってたんです、私達の歌声、お魚さん達にも届いているでしょうか?」

「えっ、えぇ、聞こえてるわ」

「姿が見えないのに微かに聞こえてきて、君が悪い程度にはな」

「そんな、ひどいです、私達、微生物というイメージ払拭の為、グループ名は『美☆生物』という名前にしたのに。微生物ではなく、美しい、星マーク、生物ですよ?アイドルグループに相応しい名前じゃないですか?」

「すまん、よくわからん」

「それ、良いのかしら?私にはそのセンス、理解出来ないわ」

「そうですか、私達は気に入ってるんですが、デビュー曲もみんなで作ってるし、歌の練習もちゃんとしてるんですよ?ダメですか?」

「勝手にどうぞ、俺らは微生物さんが居ないと困るわけだし、微生物さん達が、増えてくれればそれだけで良いんで、それだけはお願いします。あとは…お好きにどうぞ」

「そうですか、ありがとうございます」

「じゃあ、俺らはこれで」

「はい、今度、ライブを開催したいので、曲を聞きに来てください」

「断る」

「私も」

「アイドルグループの活動として、大事な事なのに!」

「勝手に活動しててくれ」

「活動は、許してくれるんですね、ありがとうございます」

「じゃあな」

「はい」

四号と五号が一緒に泳ぎ始めると、微生物は二匹の姿を見送って、歌の練習に戻っていった。

それからというもの、勝手にアイドルグループとして、活動し始めた微生物達は、増えながらもアイドルグループ『美☆生物』として活動しているようだ。

歌声は微かに水槽内の一部分で水の流れに沿って聞こえてくる。

それを、魚たちがどう思うかは、個人の勝手だが…。

微生物は水槽にとって、重要な役割がある。

魚たちの生活に欠かせないものであるゆえ、微生物達の活動に文句を言う奴はいなかった。


                第二話 終わり

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