第15話 愛してるゲーム3回戦〜自爆攻撃は仲間のいないところでやりましょう〜

 安らかに眠った奏を放置して俺たちは三戦目に移る。なんか可哀想な気がしなくもないがしょうがないよね。


「せんぱ〜い、先攻と後攻どっちが良いですか?」

「……まぁ、先攻と後攻ってより、言う方と言われる方な気がするが……。」


 俺はこいつに言われて耐えられる気しないし、こいつも押しに弱いからな……。


「失礼な!私、先輩程度に言われても照れませんよ!」

「ほ〜ん、なぁメア。」

「何ですか先輩、あらたまって。」

「愛してる。」


 雪が顔を手で覆ってバッ、と顔を背ける。何ともわかりやすい。


「照れたな?」

「……照れてません。」

「ほう?では手の隙間から見えるその真っ赤な顔は何だね?」

「……別に照れてるわけじゃないですし、ただ、怒りが有頂天に達しただけです」

「流石に無理がないか?その言い訳」


 雪は指の隙間からキッ、と睨んでくる。

 はっはー!、完☆全☆勝☆利!


 ・ついにきた!

 ・待ってたぜェ!!この瞬間ときをよぉ!!

 ・たしかに、どうせ2人とも一回目で照れるからその解釈はある

 ・メアちゃん嘘は良くないよ

 ・いきなりw

 ・⁉︎

 ・こーれ照れてます

 ・即落ち二コマw

 ・知ってたw


「むぅ〜、いきなりは反則ですよ!」

「いや、いきなり言わない”愛してる”は愛してるゲームでしかねぇよ。」

「……まぁ、良いでしょう。今回は私が先攻をします。先輩照れさせてあげましょう!」


 雪は自信満々にそう宣言する。どうやら自分が照れたことを認めたことには気づいてないようだ。


「えぇ……、今ので終わりじゃダメなのか?その方がお前も楽だろ」

「私だけが照れるのはダメです!先輩も照れてください!」

「えぇ……」

「何ですか、こんなかわいい後輩の告白を罰ゲームみたいに。」

「ほぼ罰ゲームだろ、こんなの。強制的にやらされてるわけだし。」

「またまた~、そんなこと言って。本当はうれしいんですよね?恥ずかしがらなくて良いですよ?」

「んなわけないだろ。だりぇがそんなことで。」

「嚙んでますよ先輩。」

「……うるせぇ。」


 俺は抗議するように顔を背けるが雪は相変わらずニヤニヤしながら俺の顔を見ている。


 くっ、だったら……。


 俺は先ほどから気づいていた雪の痛いところをつくことにする。


「はぁ、……で?心の準備は整ったか?」


 雪の体が俺のその言葉に反応して一瞬震える。何ともわかりやすいやつだ。


「心の準備?な、なんのことでしょうか?べ、べつに時間稼ぎなんてしてないですし?そもそもいりませんよ?」


 俺から目を逸らしあからさまにとぼける雪。

 早口だし明らかに嘘っぱちなのだが……、まぁ、そっちが否定するのなら別に良い。結局その行動は自分の首を絞めるだけだからな。


「そうか。なら始めようじゃないか。ほら早く早く」

「え?いや、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!早すぎますって!」

「ほら、心の準備とかはいらないんだろ?ならすぐ言えるよなぁ?」


 俺はいつもの鬱憤を晴らすかの勢いで雪を攻め立てる。ふっ、負けず嫌いな性格が裏目に出たな、雪よ。


 しばらくの間こんな問答が続き、ついに痺れを切らした雪が音をあげる。


「う〜〜〜〜〜〜、もうわかりましたよ!そんなに言って欲しいなら言ってあげますよ!それで良いんでしょう⁉︎」


 ……あれ?少しやりすぎたか?これで相当なことしてきたら俺の身がもたないんだけど……。


「ふっ、もうヤケクソです!私を怒らせたことを後悔させてやります!」


 先にやってきたのはお前だろ、と言いたくなったが、それを言うともっとあれになりそうなのでやめておく。


「はぁ、私の存在感と、メンタルが星屑のように消え去りそうだからコールでもやるね。」


 無駄にしゃれた言葉を使い、少し不貞腐れたような声でそんなことを言う奏。


 ………すまん、奏。正直忘れてた。


「じゃあ、3回戦よーいスタート。」


 奏の覇気のないコールでついに始まった3回戦。


 さて、できれば手加減でもして欲しいが……。


「先輩、行きますよ?」


 悪魔のような笑みを浮かべながら近づいてくる雪。


 あ、これまずいやつだ。


 雪は俺の目の前に立つと、俺を笑顔で見つめ腕を大きく広げ、———俺の顔を包み込んだ。


「うぇ?ちょっ、何やっ———!」


 いきなりのことに戸惑う俺の声は顔に回された雪の腕によって遮られる。


 ん?これ愛してるゲームだよな?愛してるゲームってこういうのしていいもんなの⁉︎


 ……というかなんか柔らかいもの当たってるって!まずいって!しかもなんかかなり感触あるし!え?Bってこんなでかいの⁉︎


 俺は床をパンパンと叩きながら必死の抵抗を試みるが全くの意味をなさない。雪は俺の耳元に顔をやると、小悪魔のような笑みをうかべながら、とびっきり甘い声で囁いた。


(ふふっ、かわいいですね。大好きですよ?先輩。)


 ………………。


 うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 俺は雪の手から逃れ、心の中で初号機が暴走した時なみの咆哮を出しながら部屋の床をのたうち回る。


 やばいって!これ俺が言ったわけじゃないのにめっちゃ恥ずかしいんだけど⁉︎なんだよあれ!反則だろ⁉︎あれで照れないやついないし‼︎

無理だって!


 俺が心の中で必死の抗議を上げる。しかし、いくら抗議しても俺の体の熱は収まることはあるはずもない。


……とりあえず水でも飲もう。そうして俺が水を飲んでふと顔を上げると、どこにも雪はいなかった。……アイツどこ行ったんだ?


俺は部屋の中を見回すと、不自然に膨らんだ毛布を見つけた。毛布の中からは「う〜〜〜〜」と唸りごえが聞こえる。


そしてそれに続いて、


「私は貝です。何も何も殻を開かない貝です」


意味不明な言葉が聞こえてくる。


……何やってんだよ。


毛布の近くには奏もいて、「そうですよ、そうですよ。どうせ私は負けヒロインですよ……。ははは……。」と、二次被害を喰らってめんどくさいモードに入っている。


もう、全員が全員ダメな状態であった。


 ……というか雪も恥ずかしくなるならやりすぎるなよ。


 こうして、俺たちのコラボ配信は3人の戦闘不能という形で幕を閉じた。後日この配信はかなりの反響を呼び登録者を大きく伸ばしたが、同時に切り抜きも大量に上がったため3人はそのサムネを見るたびに苦悩の記憶に蝕まれるのであったとさ。


 ————————————————————


面白いと思って頂けたら応援、フォロー、コメント、★お願いします。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る