第5話 初配信2 〜安価は気軽にやるもんじゃない〜

「えーと、じゃあ次はファンマークですかね?となると…私たちは妖精イメージですから🧚とかですね。」

「あぁ、そうだな。もし原始人のマークとかあればそれで良かったんだが…。」

「残念ながら、ありませんね〜」


 ・まぁ、無難よな

 ・メアンデルタールジンに引っ張られすぎやろ!

 ・原始人イラスト、絶対嫌‼︎

 ・みんな断固拒否で草

 ・何も残念じゃないんだが?

 ・わいはそれどころかキーボードくんに感謝しているよ。


 おっと、どうやらみんな流石に原始人のマークは嫌だったらしい。そりゃそうか。


「てことは最後はファンアートタグですか。うーん、先輩なんかありますか?」

「まぁ、そうだな……。うーん。よし。リス…間違えた、メアンデルタールジンのみんな頼んだ!」

「先輩が答えるんじゃないんですね」

「しょうがないね。思いつかないんだから。大事だよ。人を頼ることは」

「物は言いようですね。先輩のそれは世間一般では丸投げと言うんですよ。」

「お前も俺たちに丸投げしてきたろ」

「まぁ、思いつかないですし」

「ぶっ飛ばすぞてめぇ」


 自分も同じ理由のくせにあんなことを言ってくるとは。自分を棚に上げすぎだろ。もう、上げ過ぎて取れなくなっちゃってるよ。


 ・ファンアートか…。めっちゃ描かれそうだな、カップリングで。

 ・ジンくんそれは間違えていないから、お願いだから、お願いだから僕をメアンデルタールジンと呼ばないでくれ。

 ・ガチで嫌がってる人いて草

 ・お前が答えるんじゃないんかい!

 ・ふぅ、やれやれ、わいがいないと何もできないんだな

 ・君、もう帰っていいよ

 ・うーん、思いつかん


 俺たちはコメントを流し読みしていくが、めぼしいものは見つからない。どうやらリスナーも思いついていないようだ。


 どうしたものか、と俺が悩んでいると、中雪が一つのコメントを発見する。


 ・最後だし安価で良くね?


「安価!いいですね、それ!」

「え?マジで言ってんの?お、おいそれやめた方が———」

「大丈夫ですよ。天才の私がそんなひどいもの引くわけないじゃないですか!任してください!」


 ない胸を立派に張ってそう主張する雪。俺の中ではその瞬間、ピンッ、と立ったね。何が立ったかはもちろん言うまでもない。


 ・うぉぉぉ、安価きちゃ!

 ・おい、ジン止めてくれるなよ?これは俺の戦いだ。お前には関係ない。

 ・バリバリ関係あって草

 ・あ、フラグが…

 ・確変きたわ

 ・対戦ありがとうございました


「ふっふっふっ、皆さんそんなこと言ってていいんですか?後悔しますよ?……まぁ、良いでしょう。そう言ってられるのも今のうちです!私のコメントの一つ上にあったコメントの方を採用します。ではいきますよ?」


 ・カップル絵

 ・カップルお絵描き中

 ・カップル写真館

 ・てぇて絵

 ・ジン&メア/↑の人

 ・てぇて絵w

 ・てぇて絵は草

 ・知ってた

 ・でも、まぁまぁまともじゃない?


「てぇて絵……⁉︎」 


 割とシンプルだな…。というか、ちゃんとフラグ回収してんだよな〜。まぁ、カップル関連のよりは全然マシだろう。そこは不幸中の幸いと言うべきか…。そんなことを考えていると隣で雪がバタッと崩れ落ちる。


「そんな…、私は天才なのに……どうして……!」

「まぁ、マシなやつには決まったんじゃないか?そもそも、こんなの運だろ?」

「いいえ!先輩甘いです!私は今、コメントの速さ、遅延を完璧に計算し、なおかつ、先程からまともなことを打ってる人のコメントするタイミングを完璧に見極めたはずなんです!なのに……、なのに……どうして……!」


 あれ?安価ってそんなにガチでやるものだっけ?もっと、身内ネタみたいなノリで面白おかしくやるものじゃないの?


 ・ガチ勢すぎる

 ・あれ?安価ってなんだっけ?

 ・一人で読み合いして、勝手に負けてて草

 ・その人がカップル関連のことをコメントしないとは限らないんだよな〜

 ・よく分からんけど、勝ってたわ

 ・陰キャぼっちである俺、何もしてないのに勝手に相手が倒れていくんだがどういうことだろうか

 ・ホントに何にもしてなくて草


「こほん、まぁ、安価は絶対なので仕方ないです。取り敢えず全て決まったということで残りの時間は質問タイムにします。何か質問ある人はコメントに書き込んでください。」

「あ、付き合ってるか?って質問はなしだからな」


 ・質問タイムきちゃ

 ・ちっ、先回りされたか

 ・聞く必要がないんだよな〜、もう付き合ってるから

 ・白崎ナコミ/付き合ってない‼︎

 ・何でナコたんが答えてんだよw

 ・ちゃんと見てて草

 ・誕生日は?

 ・なんでVtuberになったの?


「お、定番のがきましたね。私の誕生日は12月7日です。で、先輩が………いつでしたっけ?」


 雪がわざとらしく忘れたようなフリをしながら俺に聞く。…お前絶対覚えてるだろ。


「……8月16日だ」


 俺が雪を睨みながらそう言うと雪の顔はいつものニヤニヤ顔へと変わっていく。


「あれ?先輩拗ねてるんですか?ふふっ、安心してください、ちゃんと覚えてますから。なんなら、どこの病院で何時に生まれたかまで知ってますよ。」

「それならちゃんと答えろや。……って、おい!ちょっと待て。なんでお前そんなこと知ってんだよ!」

「ふっふっふっ、乙女に隠し事は付き物なんですよ?先輩。」


 つまり、言えない、と。俺の個人情報が俺の知らないところで出回ってるのも怖いのだが、よりにもよって生まれた時間と病院という、マイナーなところを知られてるということがさらに怖い。


 まぁ、言わないのなら無理に聞く必要はない、か。そこまで重要なものでもないし。


「んで、あとはなった理由か……。んー、と言ってもそんなたいそうな理由があるわけじゃないんだよな。ただメアに誘われただけだし。」


「そうですよね~。私もただ興味があっただけですし、そんな理由はないんですよね。」


 ・当然のように誕生日は知っているというね

 ・なんでそんなこと知ってんだよw

 ・ジンくんも把握してなくて草

 ・興味あるという理由だけで始める行動力よ


 どうやらメアンデルタールジンの目から見てもこいつの行動力は異常であるらしい。そりゃそうだ。こいつは頭がおかしい。良い意味でも悪い意味でも。


「それじゃあ、次の質問行きますか」

「ああ。んじゃあ、どんどん質問書いてくれ。あと二つくらい答えるから。」


 俺がそう言うと、またコメント欄が加速し始める。さてさて、この配信はいつまで続くのやら。俺はそんなことを思いながら次の質問を選んでいくのであった。



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