第2話 人気Vtuberな元カノ〜現実逃避はあとからキツくなる〜

「んで、やるのはいいが、これからの予定はどうするんだ?」


「んー、予定ですか……まぁ、とりあえず体とかはもらってるんで、あとは設定とか考えていきます?あ、あと宣伝とかですかね?」


「あー、そっか、その辺も決めなきゃいけないのか。設定はまぁ、後でも良いとして宣伝ってどうするんだ?広告とか出すにしてもお金かかるだろうし」


「ん?そんなの簡単じゃないですか。登録者の多い人に宣伝してもらえばよいじゃないですか。」


「は?そんな新人Vtuberを宣伝してくれるような都合の良い人なんているわけないだろ。」


「いや、いるじゃないですか。先輩の知り合いに1人」

「は?そんな人いな……いや、いたわ」

「でしょう?」


 自慢げに言う雪が少しうざかったが、俺は先ほど思い浮かんだ人物の名前を動画配信サイト、『We Tube』で調べる。


 丁度サムネの右下に『ライブ』という文字が表示されていたので、その動画をタップする。すると、待機所画面になり、コメントでリスナーが各々好き好きに書き込んでいた。


 どうやら、そろそろ始まるようだ。


『は~い、みんな、こんナコ~。Vファン四期生、白崎ナコミだよ~。今日も来てくれてありがとね~』


 待機所画面が切り替わると笛のように高音で綺麗な声が聞こえてきた。


 白崎ナコミ———Vtuberグループ『バーチャルファンタジア』の四期生で、肩まである真っ白い髪に透き通るような紫色の瞳が特徴の少女だ。チャンネル登録者は現在42万人ほどで、ゲーム配信やASMRで人気を集めている。


 さて、そんな白崎ナコミの中の人の名前は白鳥奏しらとりかなでという。なんで俺がそんなことを知っているのかって?それは、彼女が俺の元カノだからだ。


 まぁ、元カノと言っても別に仲が悪いわけではない。何なら仲がいいと言えるほどだ。月一くらいで一緒に買い物に行くくらいには。


「まあ、たしかに奏に頼んだら心配はなさそうだが……俺たちの方は大丈夫なのか?なんか、こういうのって、炎上したりしない?元カノの人気にあやかるやり方って」


 炎上とアンチが増えそうな方法だよな。


「まぁ、さりげなくお願いね?、って頼んどけば大丈夫でしょう。癪に触りますが、あの人のことなので問題はないはずです。あ、あと先輩、その耳障りな声を早く消してください。汚染されます」

「あいつの声は感染症か何かなのか?……ったく、お前本当にあいつにあたり強いよな」

「あっちが強いから必然的に私のあたりが強くなんですよ」


 どっちもどっちだと思うけどな~。まぁ、それを言ったらまた面倒臭くなりそうなので言わないが。


「それより先輩の方こそ大丈夫なんですか?」

「大丈夫って?」

「ほら、人気女性Vtuberがわざわざ元カレのチャンネルを宣伝するんですよ?ガチ恋勢からの殺害予告とか来ません?」


 確かに普通の女性Vtuberや配信者ならならそうなんだろうけど。ただ、あいつに限っては…、


「大丈夫だろ、というか、元カレの話で言ったら手遅れだろ、もう」


「ああ……。まぁ、それもそうですね」


 雪も気づいたようで、俺に同調する。


 そう、白崎ナコミ———白鳥奏は大丈夫なのだ。少しはあるかもしれないが大方大丈夫なのだ。なぜそんな自信を持って断言できるかって?

 それは—————。


『あ、そういえば昨日ね、元カレとデート行ってきたよ』


 そんなことを平然と言う奏。普通ならそれだけで燃えそうだが、コメントにはそういった様子はなく、それどころか視聴者はその報告を心待ちにしているかの様子だった。


 そう、奏はこういうことを配信で公言しているのだ。それどころか、Vtuberになった理由を初配信で聞かれた時、『彼氏と別れたから、リスナーからの意見でよりを戻す、もしくは仲良くなるため。あ、あとみんなを笑顔にするため。』と答えたのだ。普通第一の理由と第二の理由は逆だろ。いや、第二の理由でそれがあるのもおかしいのだが……。


 話を戻すが、そりゃ最初はめっちゃ炎上してた。ただ、まだ配信当初だったためファンが少なかったのと、バーチャルファンタジア自体がイロモノ集団ということもあって、比較的速く炎上が落ち着くことになった。今では元カレトークは彼女の十八番である。


 まぁ、俺は気恥ずかしくなってくるので、見ないが。それに、その『恋愛相談配信』では次のデートの内容なども相談したりするのだ。ネタバレされた状態で遊びに行くより知らない状態の方がたのしいだろ?


「それで、俺が連絡すればいいのか?」

「いえ、わたしがしときます。立場的にも、性格的にも先輩より私のほうが図々しくできるでしょう?」

「それもそうだな」


 その理由に納得した俺は雪から視線を外し白崎ナコミの配信に目を移そうとする。しかし、そこには配信ではなく、真っ黒な画面に反射した俺の顔しか映されていなかった。


 どうやら、雪が勝手に切ったようだ。音が聞こえないと思っていたらいつの間に……。何という早業。俺でなきゃ見逃しちゃうね☆(まぁ、見逃してるけど)。


 それから数分後、俺は見ることができなかったが、どうやらちゃんと宣伝はしてくれたらしい。良かった。いや、良かった……のか?


 これで人気出ちゃったらどうしよう……。


 ……まぁ、大丈夫、大丈夫。こんなことで出るわけないでしょ!うん、そんな甘くないよ。うん。大丈夫。大丈夫。大丈夫……だよね?


 俺は一抹の不安を抱えつつ、自分にそう言い聞かせるのであった。





 

 –––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––-––––––––––––––––––––––––

 面白いと思って頂けたら♡、フォロー、コメント、★お願いします。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る