第26話 【閑話】 金貨2枚だけ返しますね

私の名前はルビナス、昔に夫を失ってしまった女です。


前の夫は農夫をしていて小さいながら土地を持っていました。


ごく平凡に小さい頃に村で出会い幼馴染になりそのまま結婚しました。


貧しいながらも楽しく暮らして居たのですが、ゴブリンに殺されてしまいました。


小さな村ではよくある事です。


この村では、当番で2人組で夜警をします。


主人ともう一人が夜警をしている時に..複数のゴブリンと遭遇してそのまま殺されました。


それだけの事です。


何処にでも良くある話ですね。


そして、私は未亡人となりました。


これから私は1人で生きて行かなくちゃいけません。


親類も家族も居ないから本当に独りぼっちです。


女一人にこの村は冷たかった。


だれも手伝ってくれないから、畑や田んぼも手が足りないですし


お金が無いと解ると畑や田んぼを二束三文で買い叩かれました。


この村は男女の数は釣り合っています。



だから、未亡人になった私には需要が無いのです。


今の私は、運が良くて後添いに入れれば良い方ですね。


それすら、多分あり得ない事かも知れません。






ある日の事、勇者パーティーがこの村に来ました。


離れた所にあるオークの集落の駆除とついでに近隣のゴブリンを狩ってくれる。


そういう話でした。



勇者だから無料でしてくれるんだから村は大喜び。



ですが、これからが不安で私は眠る事が出来なかった。


村に籍は置いているけど私は独りぼっちなのですから。



その日も、寝付けないから夜風に当たりに外に出ました。



外に出ると まるで王子様か役者の様な綺麗な男性がいました。


寂しかった私が見た幻なのかな?


そう思っていたけど..違っていて、勇者パーティーの剣聖様でした。


剣聖なんてジョブを貰ったら幸せは約束されたような物。


住む世界の違う、物語の主人公の様な人...そんな人が寂しそうに月を眺めていたのです。


私何かと違う、夢の世界の人。


そんな人が寂しそうにしている。


重ねてはいけないけど、まるで今の自分みたいになぜか見えました。


だからなのかつい声を掛けてしまったのです。


村人が剣聖に声を掛ける、普通じゃありえない事。


だけど何故か声に出てしまいました。


「剣聖様、いつも1人でお辛そうですね」



月明りで見た剣聖様は儚げでこのまま消えてしまうんじゃないか?


本当にそう思えたのです。


女の私よりも肌が綺麗で本当に綺麗な男性ってこういう人の事を言うんだと思います。


はしたないけど、気が付くと私から誘っていました。


私には多分未来も無い、そして今の魔王は強い、多分剣聖様にも未来は無いのかも知れません。


只の村娘と剣聖、身分が違い過ぎる。


結ばれるような未来があるのは物語の中だけ...


たった一晩の夢物語。


それで本当に良かったのです。



「僕ちゃん、みたいな男の相手なんて嫌じゃ無かったの?」



この方は何を言っているのかしら? 貴方みたいな綺麗な男性なんて見た事ないのに..



「うふふ、嫌だったら誘いませんよ? それに剣聖様って話し方は変ですけど、お綺麗ですよ! 綺麗な銀髪に女性みたいに白い肌、本当に帝都の役者さんみたいです..寧ろ私みたいな田舎娘で未亡人が相手では勿体ない位です」



剣聖で美少年、そんな人の初めての相手が私なんて寧ろ申し訳ない位だわ。


だけど、これ程綺麗なのに何で自分に自信が持てないのか解りません。



「そんな事ありません、君は凄く可愛いと思うよ!」



嬉しいわ、女として貴方は見てくれるのね。



「本当に? だったら夜は永いですから朝まで一緒にね!」



まだ、私の夢は続くみたいです。


何回も体を重ねた後、急に剣聖様が聴いてきたのです。



「僕ちゃんが剣聖だから相手してくれたの?」



なんで此処まで卑屈なのかしら? こんな美少年村に居たら間違いなく引っ張りだこなのに。



「ソード様位お綺麗な方なら村人でも関係ありませんよ..だけど剣聖様だからという下心もありますね」



村人でも関係は無いけど、更に剣聖様という魅力がプラスなのは事実ですから。



「どうして?」



「だって、剣聖様との間に子供が生まれたら必ず剣術系のジョブがつくんですよ、そんな子供、女だったら欲しいに決まっていますよ」



だって、生まれてくる子は絶対に優秀、それにこれだけ美形なら子供も奇麗な筈です、そんな息子が居たら、ムスコンになっちゃうんじゃないかしら?



「それなら良かった」


「全く、魔王討伐の旅をしていないなら、夫になって貰いたい位です!もう少し剣聖様は自分の魅力に気が付くべきですよ!」


「ありがとう、本当にありがとう」



お礼を言いたいのは私の方。



「嬉しいのは私の方です..それじゃもう少し頑張りますか?」



気が付くと朝まで..こんな経験は初めてです。


これでも私はこういう事には淡白な筈なのです。


「魔王討伐が終わったらもう一度ここに来ても良い?」


「剣聖様が覚えていてくれたら寄って下さい、これからも過酷な旅を続けるんですから忘れても文句言いませんわ、うふふふっ」



これは一夜の夢。


剣聖様が再び此処に来る事は無いと解っています..それでも嬉しかった。



それから暫くして、私は再婚しました。


女一人で生きていく事は出来ないから仕方のない事なのです。



歳は20も離れていて父親にしか見えませんでした。


それでも、貰って貰えるだけありがたい。


そう思って受けるしかなかったのです。


だけど、


「それじゃ、俺は街に行ってくるからよ! お袋を頼むわ」


「街に何をしに行くのですか?」


「酒飲んで女を買うに決まっているだろう?」


「私は妻では無いのですか?」



「一応はな、ただガキ見たいな体じゃ抱きたいとは思わねえよ? それとも抱いて貰いたいのか?」


「馬鹿にしないで下さい!」


「うるせーよ!」


思いっきり顔を殴られた。


「何をするんですか!」


「お前は寝たきりのお袋の看病の為に貰っただけだ、はっきり言えば俺の好みじゃないんだ、好みなら性処理も任せて抱いてやるが、抱きたいともおもわねえんだよ..未亡人のお前をよ貰ってやったんだ、有難く思えよ!」



「そうですか..解りました、なら生涯私は抱かない! それで良いのですね!」


「ああ約束してやるよ、そんな貧相な体じゃ抱きたいなんておもえねーな」


「...」



正直これで良かったのかも知れません。


私だってこんな父親の様な年齢の男の相手などしたくはないのですから。



「ルビナス、ルビナス..熱いのよ」


夜中なのに起こされ一晩中義理のお母様にあおがされた事もありました。


「ルビナス、ルビナス」


オムツを変える等の下の世話も私の仕事です。


殆ど寝る暇も無く看病しています。


《何のために結婚したのか解らない..メイドみたいな物じゃない..》


多分、私は食事だけで使えるメイドみたいな者ね。



「おい、ルビナスなんで畑仕事しないんだ!」


「それは、貴方の仕事なのではないですか?」


「馬鹿やろー、何の為にお前を貰ってやったと思っているんだちゃんとしろよ!」


「解りました」


只でさえ寝ないで看病しているのに更に働けっていうの?


口答え出来ないのが..辛いわ。




ある日の事、畑仕事をして疲れ果てて帰ってくると..


「お前、何しているんだ?」


「言われた通り、畑仕事をしに行ってきました」


近くで、義母さんが泣いていました。


何も言わずにいきなり殴られました。


「お前が居ないから、お袋のおしめが濡れていて気持ち悪がっていたぞ! 俺のお袋を泣かすなよ」


「ですが、畑仕事が」


「口答えするな!」


私の体は一つしかない、二つの事はどんなに頑張ったって出来ません。


流石にこれは無理です。


「だったら、街に遊びに行かなければ良いんじゃですか?」


「馬鹿野郎が、お前に魅力が無いから他の女を抱くしか無いだろうが、魅力が無いお前みたいな女貰ってやったんだ文句言うんじゃねー」



此処からが地獄でした。


「ルビナス、ルビナス」


「何でお前は仕事もお袋の面倒も見れないんだ」


殴られ、怒鳴られ..しかも僅かに残っていた、私の畑や田んぼも気が付いたら男の物になっていました。


「何で私の畑が貴方の物になっているの?」


「うるせーよ」


私が気が付いた時には飲み代や遊ぶお金の為に近所の人に売却された後でした。


《私の最後の持ち物だったのに》



しかも、面倒見ている義母も


「なんであんたみたいな人が嫁なのかしら、もう少しマシなのは居なかったの!」


「仕方ねーだろう、俺もこの歳なんだから」


「だけど、あんな後家なんか、貴方が不憫だわ!」


頑張ってもだれも認めてはくれない..だけど女が生きていくには我慢しかない。


生きる事は辛い事..今の私にはそれしか無いのです。



そんなある日、ギルドが私の近況を聴きに来ました。


剣聖様が勇者になり、その仲間が私の事を知りたがっている、そういう事でした。


《嬉しい、こんな私を気にしてくれていたんだ》



心配させたくないし、こんな見っとも無い話はしたくないから、「結婚した」と伝えて下さい。


そう伝えて伝言を頼んだのです。




あの日は私には夢の様な一日でした、気に掛けて頂き有難うございます。


でも夢は覚める物です。あれは平凡な女と英雄がすれ違った一夜の夢です。


夢から覚めた私は現実世界で生きて行かねばなりません。


頑張って生きていきます。


勇者になられたそうですね、おめでとうございます!


だから勇者様も頑張って生きてください!


それだけをお願いしました。


剣聖様との一夜は、今となっては夢だったような素敵な思い出です。




私の毎日はこれからも変わらない。


地獄は何時までも続く。


今思えば、私に興味が無いのは良かったわ..あの夢の様な1日を忘れないで済みます。






それから暫くして再びギルドの方がみえました。


「すみませんが、ギルド迄来て頂けないでしょうか?」


仕事をしてもしなくても同じ様に殴られる、なら関係ないと思いました。



「お伺いさせて頂きます」


何故か馬車に揺られてギルド迄連れてこられました。


村人にこの待遇は普通は絶対にあり得ません。



「ルビナス様、こちらにご記入をお願いします!」


「これは何でしょうか?」


「これは、貴方へのソード様の想いです」


何が何だか解らない..恥ずかしい話、村人だから文字も読めません。


だけど、ソード様の想い?


剣聖様がする事なら、サインすれば良い、そう思いました。


何より、今より悪くなることは奴隷にでもされない限り無い..下手すれば奴隷の方が幸せかも知れません。


そんな生活なのですから。


さすがに、名前位は書けます。


これを書いたら何かが変わるのかな?


期待しても良い事なんてありませんね。



「有難うございます、これで貴方は冒険者です、ランクは一番下のGですが」


「.....」


冒険者になって何をしろというのかな?


「パーティーは銀嶺の翼、勇者パーティーです」


「あの、何がなんだか解りません」


「つまり、貴方はランクは一番下ですが、勇者パーティーに入った、そういう事です」


何がなんだか解らない。


薬草でも集めて暮らせ..そう言う事なのかしら?



「それで、何かが変わったのでしょうか?」


「変わるも何も、勇者パーティーのメンバーですよ? 凄い出世じゃないですか?」


「出世? 私が..」


「実感が無いでしょうね? そうですね、例えば貴方が王様にムカついてポカリと叩きました..どうなりますか?」


「死刑ですね」


「普通は、当たり前です貴族でも結末は同じです、ですが、貴方は「何をするのじゃ」で済んでしまいます、まぁ勇者様に話はいくでしょうが」



「本当ですか?」


「はい、しかも何かあったら冒険者ギルドまで来てくれれば、全て無料で依頼を受けます、最もそのお金は勇者様が払います」


「はい?」


「あと、そのカードには金貨2000枚、ソード様が振り込んであります、足りなくなったら追加で入れてくると思いますよ」



解らない..簡単に纏めると王様を殴っても許される権力、困った事は全部ギルドが解決、そして遊んで暮らしても無くならないお金もくれた。


そう言う事なの?




「勇者様は、「あの日救って貰ったから今がある、だからその事は忘れない」だそうです 以上です」



何で自分にこんな事をしてくれたかは解らない。


だけど、こんな事をしてくれた人は私の人生の中でソード様しか居ない。


だったら、この恩なのか愛なのかわかりませんが、そのお気持ちに答えなければいけない、そう思いました。



「あの、法律に詳しく力もある冒険者を貸して頂けないでしょうか?」



「ご依頼ですね」


「お願い致します!」





「ルビナス、お前はお袋を置いて何やっていたんだ!」


「本当にお前は人で無しだよ..」



「私だって出かける用事はあります、赤の他人に何で指図されなくちゃいけないんですか?」


「うるさい! 嫁に貰ってやった恩を忘れやがって」


「嫁? 誰がでしょうか?」


「何を言っているんだ..」


顔色が変わった気がします。




後ろから男が入ってきました。


私が雇った冒険者です。



「失礼します」


「お前は何だ?」


「私はトーマス、Bランク冒険者です! 貴方はルビナス様を嫁と呼んでいますが、村にもギルドにも教会にも届をだしていませんね?」


「だから何だ?」


「しかも、ルビナス様の土地を勝手に売ってしまった」


「だから何だ? 俺の勝手だろうが!」


「これは結婚詐欺ですね、大方嫁にしないで財産を奪い、こき使って使い潰すつもりだったのでしょう? だから手続きをしなかったに違いない、しかも日常から暴力を振るっていましたね?」


「出し忘れただけだ..これから出す」


「もう遅い、お前はこれから役人に突き出すからな! 多分10年は出て来れないと思え!」


「なっ、」


「ルビナス、お前からも何か言っておくれ」


「私は嫁ですら無かったみたいですよ? 赤の他人に何を頼むのですか?」




「貰ってやった恩を..」


「いい加減にして下さい! 手続きを忘れた? 人の土地を売り払う手続きはしたくせに? それが本当なら大馬鹿ですね?」


「貴様!」


「嫁の分際で!」



「ですから、手続きしてないから嫁じゃないんですよ! 私は..嫁にしないで貴方の息子は私の財産を奪っただけのゴミです..」


「だから、それは忘れただけなんだ、嘘等言っていない」


「そうよ息子は泥棒なんてしていないわ」



「まぁ良いわ、私の土地がどうして勝手に貴方の物になって売り払われたのか? 何故手続きされなかったのか? それは役人が調べる事ですから、私は知りません」



「まぁ、詐欺を行い、財産をだまし取って、暴力迄振るっていたのだから、10年は出て来れないな、覚悟しておけ!」


「そんな10年も..俺は、こんな事誰もがやっている事だろうが!」


「村に良くいるクズの典型なのは確かだが、悪い事したら法律で裁かれる当たり前の事だ..他にも居るなら言えば良い..最もそれでお前の罪が軽くなる事は無い」


「そんな...」




「ちょっと待って、私はどうなるの? ルビナスさん面倒は見てくれるのよね!」


「厚かましいですよ? なんで赤の他人の面倒を見なくてはいけないのですか?」


「そんな、死んでしまうわ...こんな体で一人で生きて何ていけないわ」


「そのまま死ねば良いじゃないですか?」


「ああああ」



その後、役人が来て連れて行った。


話は直ぐに終わり、簡易裁判で30年間恩赦無しの牢獄送りとなった。


何故ここまで罪が重くなったのかは解らない。


土地はもう売られてしまい別人の物になってしまったから取り返す事は出来ないそうだ。


代わりに、今の家と土地を貰ったが、必要無いのでギルドに任せて売る事にしました。


売れたら、あの婆も追い出されるんじゃないかしら?



そして、



私、何か只の村娘、未亡人..処女ですら無いから奴隷にした所で金貨2枚の価値もない筈です。


なのに..何で金貨2000枚なのか..解りません。


勇者になったのだから女なんて不自由しない筈です?


それに金貨100枚も詰めば、私何かじゃなくてだれが見ても美女の奴隷だって買える筈です?


それなのに、たった一日体を重ねた私になぜあなたは、此処までしてくれるのでしょうか?


だけど、私にこんな価値つけたる人なんて他には絶対に居ません。


女としての自信も取り戻せました。


ソード様にとって、私はそんなにも価値があるのですね。


2000枚の価値をつけたのはソード様だから1998枚はそのまま貰います。


だけど、金貨2枚は私で返します。


多分、それが私の本当の価値です..生涯ソード様のお傍で仕えさせていただきます!


うふふ、金貨2000枚..そこ迄、大切に思ってくれたんだから、拒む事は無いはずですよね?



「さて、冒険者ギルドにお願いしてソード様の傍に行かないと」


こうしてルビナスはソードの元へと旅立っていった。





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