★KAC2023・悪戦苦闘七転八倒の記録
★1題目「この世界には本屋が存在しない」
カクヨムコンが終わって一息ついていたら、あっというまにKACが始まってしまいました。
昨年のKACでは「笑顔のベリーソース https://kakuyomu.jp/works/16816927861260911907 」のサイドストーリーを3作ほど書いたので、今年も同じくラウルとレナートにまつわる話にしよう! と事前に決めておりました。
が、そのおかげで、前半の時点で既に大苦戦しております。
「今年のお題は書きやすい」とも耳にするのですが……確かに一般的には書きやすいお題なのかもしれませんが、「特定文明レベルの異世界ファンタジー縛り」をかけた途端、難易度が無駄に跳ね上がる。
せっかくなので、苦闘の記録をここに書き残しておこうと思います。
【1題目「本屋」:あの世界に本屋はおそらく存在しない】
まず初手から引っかかりました……。
ラウルとレナートが生きるデリツィオーゾ城と周辺世界は、15~6世紀くらいのイタリアをざっくりベースにしています。実際には「技術的に可能であれば」若干時代が下った品物を出したりすることもあるのですが(18世紀頃の発明とされるカスタードプディングを登場させたりしています)、文明レベルが大きく外れる事物は出せません。
で。
「おそらくこの文明レベルだと、印刷された本ってまだ普及してないよね……?」
調べてみると、最初の印刷聖書であるグーテンベルク聖書が刷られたのが1455年。
そこから50~100年程度で、どのくらい印刷書籍が普及したのかは調べられませんでしたが……おそらく今日のような「庶民が気軽に本を買える店」はまだなかったのではないかと推測しました。
Wikipedia「書店」の項 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%B8%E5%BA%97 によると、ローマ時代には「古代ローマで共和制の末期には、人々の間で本を自宅で多数持つことが流行したので、書籍を扱う商人も栄えた。」とあるのですが、時代的に大きくズレるので、これをそのまま持ってくるのも難しそうでした。
というわけで「この世界に本屋はまだ存在しない」という前提で進めることにしました。
そうなると当然「本屋」の現物は出せないわけで。
結局「これだけ本が並んでいると、肉屋や魚屋みたいな『本屋』が開けるかもな」という、仮定の話でなんとか逃げ切りました。
【完成品】
「千の詩句を、費やしたとて」
https://kakuyomu.jp/works/16817330653921828637
ラウルとレナートが「本屋が開けそうなほど」ずらりと並んだ本を前に、それぞれの感慨を抱く話になりました。
【その後】
1題目はなんとか、上記のような方向性で仕上げたのですが。
この記事を書くにあたって、あらためて「書店の歴史」について調べ直してみると、英語版Wikipediaに16世紀頃の書店事情についていろいろ書いてありましたね…… https://en.wikipedia.org/wiki/History_of_bookselling#Modern_bookselling
宗教上での印刷物需要の高まりと、王権との間で色々綱引きやってたっぽい。
日本語版の16世紀の年表を見てみても、エラスムス「愚神礼賛」やマキアヴェリ「君主論」など色々出版されてますね。 https://ja.wikipedia.org/wiki/16%E4%B8%96%E7%B4%80 だとすると、16世紀ぐらいにはもう既に結構出版業って活発だったような気もします……。
これらの情報を期間内に見つけられていたら、もっと違う方向性の話が書けたかも……と若干悔しいです。
とはいえ、それだと収拾がつかなかった可能性もあり。
どちらにしても、作中で「本屋のない世界」として書いてしまった以上は、書いた内容こそが「あの世界」のありよう。
印刷物がまだ普及していない、写本ベースの世界として、デリツィオーゾの解像度が少し上がったように思います。
なにはともあれ。
今年のKACは皆勤を目指していますので、いましばらく七転八倒は続くと思われます。
なまあたたかく見守っていただければ幸いです……。
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