一人称のお悩み相談その後:天啓と改稿結果
前回(もう4ヶ月近くも前ですが……)の「一人称に関する悩みごと」解決編です。
投稿したつもりで下書きのままだったことに、今になって気付きました。なんてこった。
なのでいまさらという感じですが、半端なままにしておくのも気持ちが悪いので改めて公開します……。
【天啓を得たこと】
前回サンプル文の一人称について、何が良くないのか? 違和感があるのか? と、別サイトやTwitterでも意見を募っていたのですが……その結果、主な要因は「状況説明部分が三人称的」であることではないか、という推測に至りました。
特に違和感ない、という意見も多かったので、そのままにするというのも選択肢として大いにありだとは思うのですが……できれば、直せるところは直したい。
状況説明を一人称的にすれば大きく改善しそうな気がしたのですが、ここで新たに発生した悩み。
「一人称的な状況説明ってどんなんなんだ……?」
ここで悩みまくり、一時は「一人称的な状況説明を読ませて!」とかいう自主企画を立てようかとも考えたのですが……思いがけず、別の方向から天啓が降ってきました。
たまたま、非常に読みづらい一人称作品に遭遇しまして。読んでみて抱いた感想が、私の文章にいただいたご意見とほぼ一緒だったのですよ。
・主人公本人の居場所や動作を他人事のように説明している→私の文章でも、主人公くんは戦闘の当事者のはずだったのに、説明はどこか他人ごと感ありましたね……
・主人公から見えていないはずの事物や動作が平気で描写されている→見えてないはずの背後も描写してましたね……
・上記二点のせいで、主人公がどこで何をしているかわからない→別サイトでのコメントで言われました……
これらを解消するにはどうしたらいいのか。
読み比べながら検討してみて、最終的に得た結論は以下の通りです。
「読みやすい状況説明=カメラの流れがわかりやすい文章」
「一人称らしい状況説明=カメラ位置が主人公に固定されている文章」
……あたりまえといえばあたりまえですね。
本当にあたりまえのことなのですが、自分の書いた文と紐づいた実感として気付くのは、なかなか難しいように思います。
自分の文の粗は見えづらいので、今回、実感が得られたのは大きな収穫でした。
【改稿した結果】
細かく説明する前に、上記の気付きを踏まえて改稿してみたサンプル文を掲載します。
現物があった方がわかりやすいと思いますので。
おそらく、前回よりはだいぶ「一人称的」になっているのではないか……と思います。
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山道の半ばで、オレたちは行く手を遮られた。林の間を縫って進む山道は、手を広げた大人二人分ほどの幅しかない。その前方で、薄汚れた革鎧姿の男たちが三人並んでニヤニヤ笑っている。
オレは舌打ちをした。ああ、やっぱりめんどくせえことになりやがった――と口には出さず毒づけば、背後にも何人かの気配が現れた。退路も絶たれたらしい。
手斧、短剣、短槍……こちらに向けられた得物はばらばらだ。まだまだ肌寒い季節、頭巾やマフラーを付けてる連中もいるが、例外なく擦り切れてくたびれている。百人並の貧乏山賊には間違いねえだろう……が。
「金目の物などない」
横でヴァルターが言えば、男たちが一斉に大笑いした。
「いい服着てんじゃねえかよぉ」
「腰の剣もなかなかだぜ?」
値踏みするような視線に鳥肌が立つ。気持ち悪りぃな、昨夜のジークハルトとはまた違った意味で。
オレはヴァルターをちらりと見遣った。策はあるんだろうな、この囲みを抜けなきゃ先へは進めねえんだぞ――と目配せする。
が、その必要もなさそうだった。長剣は既に抜かれていた。青く鋭い目が、前方の三人をぎろりとにらむ。
どうやら手はあるらしい。脅して交渉する気か、それとも――
オレの考えを遮るように、ヴァルターの引き締まった腰が落ちた。
「おぉ? やる気――」
賊の声が、途切れる。
鈍く光る長剣が、目の前の一人を斬り飛ばしていた。
右腕から鮮血が散る。短槍が地面に落ち、大きな身体がゆらりと傾ぐ。残る二人の目が、泳いだ。
遅れてあがる、絶叫。賊どもの目に光が戻る。
「てめえ――やっちまえ!」
賊が飛びかかってきた。うぉぉおぉ、と、痛いほどの雄叫びを前後から響かせながら。
オレはうろたえた。ああすりゃこうなる、そりゃ当然だ。ヴァルター、わかっててやってんのか!? お前だけならともかく、オレもいるんだぞ。正面突破は無茶すぎだ!!
動けないでいるオレの前へ、ヴァルターが素早く踏み出した。迫る短剣を弾き、手斧を逸らすと、賊の体勢があっけなく崩れる。剣の光が一閃し、血しぶきと悲鳴が同時に上がった。
心臓の辺りがすっと冷える。……敵とはいえ、人死にを見るのは気持ちいいもんじゃねえな。
地面に崩れる賊どもを尻目に、ヴァルターは俺の背に回った。得物がぶつかる高い音、濁った叫び声、肉が断たれる鈍い音――聞こえてくる雑多な音の中、ヴァルターの靴音だけが奇妙に規則正しく整っている。
そこでオレは不意に気付いた。目の前で倒れてる連中、傷を負ってるのは肩や腕だけだ。武器を持つのに直接関係ない部位――首や頭、胴体には一切の怪我がねえ。
さっきとは種類の違う寒気が、背筋に走る。こいつはヴァルターの美学なのか情けなのか。どっちにしろ、この人数を相手にしつつ斬り方を選ぶ余裕がある時点で、とてつもねえ。
「終わったぞ」
ヴァルターの声に振り向けば、背後でも状況は同じだった。腕だけを斬られた賊どもが三人、山道に転がってうめいている。
……七年前から、剣技に鈍りはねえようだな。いや、動きのキレはむしろ増してた気がするぞ。
さすが、王国第二の剣士は伊達じゃねえな。すさまじいぜ……。
「何をしている。新手が来る前に行くぞ」
ヴァルターに促され、オレは先を急いだ。
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【具体的に直したところ】
■「他人ごと感」をわかるかぎり排除した
例えば「山道の半ばで、オレたちは前後を塞がれていた。」→「山道の半ばで、オレたちは行く手を遮られた。」のような感じですね。後者の方が、妨害されたイライラ感が出ているように思います。
受身の形で書くとどうしても他人ごと感が出てしまうので、一人称では避けた方がベターですね。なるべく主体的な感じで書くのがよさそうです。
主人公の主観が混ざることで「主人公にカメラがある」感も醸成できそうですし。
■外界|(状況説明)→内面|(思考)へカメラが移る際は、極力予告するようにした
小説のカメラは、実際のカメラと違って「内面の思考」も映せるのが大きな違いだと思います。
とはいえ、両者を前触れなく行き来すると混乱が生じるので、外界→主人公内面に移る際には、それを示す何かを入れるようにしました。
具体的には「~舌打ちをした。」「~鳥肌が立つ。」「~ちらりと見遣った。」「~うろたえた。」のような箇所ですね。感情が入った動作をひとつ挟むようにすると、スムーズに内面に移れる気がします。
(内面部分がごく短い場合は、三点リーダ使用か、あるいは前触れなしで移っている箇所もありますが)
■戦闘シーンのカメラ位置を主人公に固定した
主人公から見えていない場面を、直接書かないようにしました。見えていない背後の場面は、音から推測する形で説明しています。
おそらく、これでだいぶ一人称的な状況説明になったのではないかと思います。たぶん。
【最後に】
改稿後版でもまだ、気付いていない違和感は残っているかもしれません。
ですが、だいぶましにはなったと思います。
話を書く上で、視点・人称問題の優先順位はそれほど高くないのかもしれませんが、それでもやはり、綺麗に視点がコントロールされている文章は「読みやすい」気がします。それを判別できるのは、無意識レベルの微妙な感覚でしかないのかもしれませんが。
人称・視点問題は本当に難しいですが、少しずつでも前に進めていると信じて、試行を繰り返していこうと思います。
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