第47話エスコート




 

「私がパーティーにですか?」

 

 リハヴァイン伯爵家長女のルナ・フォン・リハヴァインは、戸惑いの表情を隠せずにいた。


 なぜなら、今まで家族以外で自分を見た人物の第一声と態度が、誉め言葉であったことなど数えられる程しかなかったからだ。

 否、褒められた事はある。それは人とは違う自分の容姿を見て、戸惑いや困惑の表情を隠して対応できるオトナ達だった。

 しかし、どうしても子供時代のルナにとっては、耐えがたいモノだった。

 今にして考えれば気を使われているのだと分かるが、年端もいかぬルナにはそれが悪意に感じていたからだ。

 今夜のパーティーも両親からは「出て来て欲しい」、「お前の容姿を気にする者などいない」と言われていたが、自分からパーティーに出る事は無かった。


「えぇ。今夜の主役は、ロシルド公爵家の飛び地……前線都市アリテナの管理を任されたイオンお兄さまと、支援を表明してくださったジェラルド・フォン・リハヴァイン夫妻が主役です。当然貴女も私も準主役もです」


 確かにシャオン様の言っている事に間違いはない。


「このまま一人でパーティー会場に戻ってしまえば、兄からの叱責は免れないでしょう……」


 シャオンはスッと手を差し出してこう言った。


「俺と一緒にパーティー会場に戻っていただけませんか?」


 そう言って俺はウィンクをする。


「全く自分勝手な人ですね。私の都合は全部無視ですか……」


 ルナは、口ではそう言いつつも、シャオンの気遣いを心の底では嬉しく思っていた。

 本当は自分も年頃の友人達のように、宝石で煌びやかに着飾ったドレスやアクセサリーを身に纏い、パーティーや催し物をはしごして遊び歩いて見たいと言う気持ちがある事を、このシャオンと言う男は見抜いているのだ。

 そして怒られれば自分のせいにしてもいい。と言う免罪符までくれるのだから……


「その通り、筋書きはこうだ。俺はこの屋敷で迷子になってしまい屋敷内を彷徨っていると、偶然居住スペースに入り込んでしまい更に偶然ルナ様と出会い会場までの案内を頼んだ……いかがだろうか?」


 少し論理に無理があるモノの伯爵夫妻が納得すればいいのだ。パーティーに出たがらない愛娘がパーティーに出てくれる……正直理由なんて何でもいいだろう。


「それは迷惑なご提案ですが……ロシルド家の血を引いておられる方のご命令とあらば、お供するしかありませんね……」


 二人はカラカラと笑って、一緒に屋敷までの道のりを歩いた。




………


……





「探しましたよ! シャオン様!」


 そう言って駆け寄って来たのは、兄が従える若手文官達の一人で、現在は俺の秘書的な仕事をしている。将来有望なロシルド公爵家に代々仕えている。代官一族出身の青年ルーカスだった。

 ルーカスはカジュアルな会場であるのにも関わらず……根っから真面目なせいか、はたまたスーツ以外を持っていないのかは分からないが……連日連夜黒いスーツに明るい色のネクタイを締めている、何というか少し空気の読めないヤツだ。


「すまんルーカス、ワインを飲み過ぎて少し夜風で身体を冷ましていたんだ」


「……そちらのご令嬢は?」


 少しだけ間があったものの、ルーカスも風変わりな貴族を見慣れているため……その身なりで上位貴族の関係者だと理解し、仕事モードに切り替えて冷静な対応をする。


「紹介しよう……リハヴァイン伯爵家長女のルナ・フォン・リハヴァイン嬢だ。私が庭園に居たところ快く案内をしてくれたんだよ」


 俺は当初の作戦を変更した。


「そうでしたか……」


 ルーカスは逡巡するが、こう言葉を続ける。


「……でしたらロシルド公爵家と、リハヴァイン伯爵家の良好な関係をアピールするためにも、お二人でパーティーにお戻りになられては如何でしょう?」


 ルーカスは自分の仮の主であるシャオンの性格を考慮して、恐らくリハヴァイン伯爵家の御令嬢に無理を言っている事は明白だが、シャオンは別に 加虐性愛者サディストではないので、彼なりにリハヴァイン嬢を思っての行動だろう……と思いアシストする事にした。


「ではそうしよう……」


 そう言って俺はルナ嬢の手を取ってエスコートする。


 パーティー会場のドアを開けると、来客の貴族や商人などの有力者の視線が段々と集まって来るのを感じる。

 それはロシルド公爵家の縁者であるシャオンが、連れている女性が気になるのか……はたまたルナ嬢の頭髪の色が珍しい白銀だったからかは分からない。

 俺が思うにルナ嬢を見た事のある人が少なく、その美貌に皆が「溜め息」を付いて呼吸を忘れてしまったからではないだろうか? 

 俺はルナ嬢の手を取ってリハヴァイン伯爵の元に連れて行く……


「リハヴァイン伯爵、ルナ嬢をエスコートして参りました」


 リハヴァイン伯爵は涙を堪えながら言う。


「シャオン騎士爵、ありがとう……」


 俺はパーティーが始まる前に伯爵から頼まれていたルナ嬢をパーティー会場に連れてくると言う約束を守り、俺個人への支援を取り付けた。



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【あとがき】


まずは読んでくださり誠にありがとうございます!


読者の皆様に、大切なお願いがあります。


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「面白そう!」


「続きがきになる!」


「主人公・作者がんばってるな」


そう思っていただけましたら、


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そうぞ、よしくお願い致します。m(__)m

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