第46話庭園の妖精

  



 薔薇バラ鬱金香チューリップが規則正しく花壇に植わっており、先ほどガラス窓から外を見た時には、緑と色とりどりの鮮やかな色彩の花々が、街灯と光虫の仄かな明かりで照らされていて、シンメトリーを基調とした、秩序ある複雑な幾何学模様を作り出していたが、近くによってみると、先ほどまでの人工的な美しさは成りをひそめ、花々の色どりと花の姿がただただ美しかった。 


 暫く隙間なく敷き詰められた赤レンガの上を歩いていると、西洋風東屋……サマーハウスやガゼボなどと呼ばれる、骨組みや柱と屋根だけの簡易的な建物で現代日本人にイメージさせるのなら、貴族の令嬢が庭園でお茶を楽しんでいる日除けの建物だ。


「ガゼボがあるここは、花々が一層美しいな……」


 色とりどりの花々が360度一望できるこの場所で、軽食やお茶を楽しめたのなら、なんと素晴らしい事だろうか……そんな事を考えながら火照ったカラダを夜風で冷やしたためまた会場に戻るために道を引き返す事にした。


 歩いていると自分の物ではないカツカツと言うヒールのかかと部分が、レンガを踏みつけている軽快な音が聞こえる。

 多くのパーティー参加者は、酒や雰囲気に酔ったとしても


 薄暗い庭園あちこちに敷かれたレンガの上を、トコトコとドレス姿の少女が歩いている。

 まだ年相応の幼さを感じが端麗な顔立ちの娘で、体は細身で華奢きゃしゃで儚げな印象を受ける。


 夜空の淡い月明りに照らされて彼女の美しい銀髪は、幻想的で、非現実的で……だけど明らかにこの世のモノで、俺が今まで見て来た全ての色の中で一番美しい光景だった。


「綺麗だ……」


 俺は思わず呟いていた。

 ……その声を聴いて少女は背後を振り向いた。


「――誰?」


 銀髪の少女は冷静な鈴を転がしたような声で、俺向かって呼びかける。瞳は真紅のような赤い瞳で頭髪と瞳の色から、雪兎を連想する。


「お、お初にお目にかかります。一代爵位キャリア・マーキス騎士爵シャオンと申します。非礼をお許しくださいお嬢様」


 俺はうわつった声で自己紹介をする。

 本来なら誰々の息子とか娘と付けたり、親の爵位を名乗ったりするんだが、王国の。だから俺は名乗る際に、庇護者である寄り親や親族の名前を直接名乗る事が出来ないのだ。


「そう……一代騎士爵位が最近授与されたと聞いていたけれど、こんな子供に爵位を授与するなんて、大臣や陛下は馬鹿なのかしら……それとも高位貴族の男妾かしら……」


 確かに俺みたいな半端者が通常爵位を賜る事は難しい。

 今回は、ロシルド公爵家直系男子であるイオンお兄さまと、風刃シャルロット・オースティン、前線都市アリテナの利権と複雑に絡み合った政治的な判断だ。少女の言い分は何もおかしくはない。


「いえ。私が爵位を国陛下より頂いたのは、一重にイオンお兄さまと我が師シャルロットのお陰です……」


 最近言い続けているお決まりの文句で、この場を何とか乗り切ろうとする。


「――――イオン? イオンってもしかしてロシルド公爵家のイオン様?」


 兄の名前に反応し食いついてくる。


「はい。イオン・フォン・ロシルドは腹違いの兄ですが……なにか……」


 俺は美少女に詰め寄られると言う。今までに無い経験によって思わずたじろいでしまう。思ったよりも身長は小さく。150㎝代半ば程であり、モデル体型の多いこの世界ではやや小柄な印象を受ける。


「本当? 私イオン様のご友人のジャン様が大好きなの! ! ごほん。失礼私はリハヴァイン伯爵家長女のルナ・フォン・リハヴァインと申します。現在はリハヴァイン伯爵家からは半ば独立し、月兎げっと商会の会長をしています。以後お見知りおきを……」


「確かリハヴァイン伯爵家って……」


「お察しの通り、ロシルド長男家……つまりはイオン様の家臣一族です。シャオン様が丁寧な言葉を使われる必要はございません。腹違いで閣下に認められてはいないとは言え、あなたもロシルド公の血を引いている事に変わりはありません。先ほどまでの無礼な振る舞いを謝罪いたします」


 先ほどまでの傍若無人な立ち居振る舞いは息をひそめ、伯爵令嬢として正しい立ち居振る舞いをするものだから、俺は驚いてしまい反応が遅れる。


「気にしないでくれ……それに今夜の主催は君のお父上である。リハヴァイン伯爵……ジェラルド・フォン・リハヴァイン卿だ。主催者の娘であるをパーティーで見た記憶がないのだが……」


「私の髪と肌は処女雪のように白く、瞳は血のように真赤で両親や兄弟姉妹の誰とも似ていないのです。占い師様は言いました「呪いだと……」だから誰も私に近づかない。公の場に姿を現す事も出来ないのです。普段は屋敷でパーティーを開く事は少ないので、我慢は出来るのですが……このような不気味な姿をお見せして申し訳ありません」


 距離が開いていれば髪の色も違って見えるだろう。だから強気な態度で人を寄せ付けないように、振る舞ったのだろうと推察する事ができる。

 そのまま立ち去ろうとする彼女の腕をギュッと掴む。


「それは呪いでも何でもない! ただの君の個性だ! 不吉だと言う人もいるかもしれないけど、俺からすれば美しいだけだ 良かったら一緒に会場に行きませんか?」


 気が付けばそんな事を提案していた。



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【あとがき】


まずは読んでくださり誠にありがとうございます!


読者の皆様に、大切なお願いがあります。


少しでも


「面白そう!」


「続きがきになる!」


「主人公・作者がんばってるな」


そう思っていただけましたら、


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そうぞ、よしくお願い致します。m(__)m

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