第92話 獣人の国に伝わる伝説②

「みんなから記憶が消えた時が本当に死んだ時だと、俺たち獣人族はみんな信じている。伝説にでてくる狐族は絶滅している。狐の皮装備は禁忌の対象で装備したら呪われると昔から語り継がれてきた」


父親は悔しそうに嘆く。


「けれども今はいない狐族がもし生きていれば、良い知恵をだしてくれたのではないかと俺は悔やんでも悔やみきれない」


と話す。


「生贄をださないときは祟りのウサギの怒りで凶事がおこった。生贄の子とさらに多くの子供がいなくなるとか、生贄の子と家族がそろっていなくなるとか、ろくでもないことが起きたんだ」


「ん――。じゃぁ、僕が生贄になりましょう」


と、僕は提案した。


「いや、だがしかし大丈夫なのか?」


とカガリ先輩は心配するけど


「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』って言いますしね。生贄になることで見えてくるものがあるかもしれません。護衛は頼みますよ! みんなを信頼してますからね!」


と、僕は答えたのだった。



 そして数日後、生贄の儀式は始まる。恭しく獣王がお辞儀をして生き字引のウサギさんが生贄をまつる。箱の中からでは何も見えないけれど儀式が進行しているのは分かる。


 あとは息をひそめてそのたたりのウサギを待つのみだ。


 ところが、ひたすら待つことになった。見張りがいると祟りのウサギはこないのだろうか? そんな不安がよぎる。


 もう少しで夜明けがきてしまう。作戦を練り直す必要があるかなと僕は思っていた。でもそうなると祟りが起きてしまうのだろうか? と、もやもやしていると箱を持ち上げて移動しようとしているようだ。どうやらウサギの祟りは罠にかかってくれたらしい。


 このまま元凶に連れて行ってくれるなら万々歳だけど……と思いながらも様子を見守る。箱の中からは外の様子が見えない。どこにいるかも分からないけど、みんなついて来てくれているはずだ。


 そしてどこかについたのか話し声が聞こえてと思ったらバン! と音がして放り出された。僕は箱の中で腰をしたたかにぶつけて涙目になる。


 すると箱が開けられてそこには6人の覆面姿の敵がいた。その6人に無詠唱で土魔法と風魔法を発動する。魔法で倒れる2人。まずは倒した覆面姿の敵の方に素早く移動して箱を盾に隠れる。それを見て箱の反対側で警戒する残りの4人。


 そこへ弓での攻撃が入る。カガリ先輩だ。残りは3人。僕は無詠唱で土魔法を操って壁を作り時間を稼ぐ。


 パニックになる相手。さらにそこへシャルリエーテ様とナルメシアさんが斬りかかる。それをみて僕も残り1人の覆面姿の敵に斬りかかる。そして全ての覆面の男たちを捕まえることに成功したのだった。


 1人を叩き起こして僕は話を聞こうとした。そして覆面をはぐ。生贄の現場に来たのは祟りのウサギではなく人間だった。


「あなたがウサギの祟りってことでいいんです?」


と僕は問い答えないなら殺すぞとアピールするため、剣を首筋に近づけて皮1枚切って血をださせて焦らせる。


「わ、分かった。全て話す。だから命だけは助けてくれ!」


わめく男。


「生贄の儀式は何の目的でしているんです?」


「奴隷として売りさばくためだ。俺はそう聞いた」


「獣人族の子供たちをさらっているのはあたなたちですか?」


「俺たちだけじゃない。獣人族の子供は金になる。買い手は色々だ。貴族もあれば、富豪の商人、王族が買う場合もある」


「じゃぁ、もう一つ。あなたたちの雇い主は誰です?」


とカラドボルグをもう一度、首筋にあてなおす。


「そ、それは……ゴリフラード商会だ」

 

 そこまで聞いて僕はこの男を気絶させ、6人全員を獣人族へ引き渡した。徹底的に取り調べるとのことだった。



 今回の生贄騒動で分かった手がかりはウサギの祟りに人族が現れたという事実とゴリフラード商会という組織。


「どう思います?」と僕の問いにシャルリエーテ様は


「生贄の件はなんとかしないといけませんわね」


 シリス先輩はため息をつきながら


「奴隷は家族が生きために仕方なくって場合もあるから。それを反故ほごにすると奴隷の契約を元に返せって言われる場合もあるのよね」


カガリ先輩も


「私も奴隷の売買自体は仕方ないと思っている。けれど生贄は話が別だ。助けるべきだ」


「なるほど」


とみんなの意見を聞いて僕は頷く。僕たちは相談の結果、ゴリフラード商会から生贄を奴隷として売っていた証拠と、囚われている子たちを奪還することに決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る