第88話 交易都市ミッシュザルダント①

 オーガたちを殲滅せんめつした僕たちは喜び合う。


「あんなところに隠れているとはな」


「見ただけじゃちょっと分からなかったですわね」


「お姉さんはオリタルト君が見つけるって信じてたよ!」


 「えへへ」と僕は照れる。ほんとにあんなところに隠れているとは思わなかった。これからは油断できないなぁと思った。



 ナルメシアさんと村長さんにオーガチーフ1体とオーガメイジ2体、オーガ4体を殲滅したと報告する。


「オーガの上位種が3体もいたの!?」


と驚くナルメシアさんだ。頷く僕たちは


「ゴブリンメイジの時よりは安全に倒せました。でも今回はオーガが壁の中で隠れてたんですよ」


と話をする。


「そんなことをするの? オーガが?」


と、ナルメシアさんも信じられないという顔をする。そしてちょっと考え込んだ。


「やっぱり万が一を考えて、私も近くにいた方がよさそうね」


と僕たちを心配してくれるのだった。


◇ 


 オーガは倒した。いつもの日々に戻る。時間を無駄にしたくないのでみんなの訓練を見て、僕は考えて頭の中でシミュレーションを繰り返し魔力操作の訓練をひたすら続ける。


 そして世界の交易都市ミッシュザルダントに着く。ここは世界の中心地。まさにここから世界のどこにでも行くことができるという交通の最重要拠点だ。


 ゆえにこの交易都市ミッシュザルダントに何かがあると、商売の流通ルートや人の流れが止まり物品が手に入らなくなる事態が起こりえる。


 そんな場所だからこそ色んなものが世界から集まり、そして世界各地へまた出荷されていく。


 僕たちは今夜の宿を予約した。ワクワクしながら早速街を見て回る。お店を冷やかし強化した目でまたしても装備品をみてまわる。


 ふらっと立ち寄った装備品のお店で僕は店員さんにまずは空を飛べるエンチャント装備品を見せられる。そして


「空を飛べたら便利ですよ! 人族の夢です。人はついにこの貴重すぎる青い風蜥蜴の装備品で空の旅を手に入れるのです!」


と、どれだけ便利かレクチャーしてくる。説明を適当に聞きながら場所を移動してもその店員さんはついてきた。


「お客様。では、この黒い火牡鹿の皮装備はいかがですか? 絶滅しかけてて滅多に市場にでてこない皮装備。今しか手に入りません!」


と勧められてそのうえ店員さんが滅茶苦茶推してくる。


「お客様、ぜひ触ってみてくださいよ。この手触り、最高でしょ?」


と店員さんの激推しは続く。


「僕はこっちの手触りの装備が好きですよ? と普通のウサギの皮装備を見せる」


店員さんは苦々しい顔をして


「そうですね。手触りは確かにいい。う――ん、でもね、お客様。こっちのレアすぎる両手装備は重いものも持ち上げられるようになる上に、徐々に体力が回復する特別なエンチャントがついてる白銀の光翼竜の装備品なんです。お勧めですよ!」


と店員さんもウサギの皮装備の方が手触りが良いと思ったんだろう。両手装備に話をずらしてきた。延々とセールストークを続けるけれど、高い装備品をなんとか売りつけようとしてる魂胆こんたんが見え見えだ。僕は店員さんの商魂たくましい売り文句を、のらりくらりと聞き流し店からでるのだった。



 そしてこの土地の一番の観光地は世界樹だろうとみんなで話し合い、世界樹に見学に行くことにした。


 世界樹の木はこの世界ができた時からずっと存在していたと言い伝えられる大木だ。そして今も生きたまま存在している伝説の木なのだ。


 樹齢は分からない。世界ができた時には既にあった木だと言われている。直径をみれば確かにと納得してしまうくらいだ。そして世界樹の木を眺めてこの世界の過去に想いをせる。それもまた世界樹の楽しみ方だ。


 この交易都市ミッシュザルダントでは獣人族もエルフもドワーフも少ないけれどもちょいちょい見かける。犬耳猫耳が動いているのだ! これが落ち着いてみることができようか。いやできない!


「あんまり興奮してると大丈夫か? と思われますわよ」


とシャルリエーテ様に心配される。ぼくはコホンと咳払いをして


「犬耳と猫耳と尻尾は人類の夢です。ですがご忠告はごもっとも。気を付けます」


と言って反省した。


「獣人の国に行ったらどうなってしまうか心配ね」


と呟きつつもナルメシアさんは微笑むのだった。


 僕たちは今日の食事処を見つける。『本日のシェフのお任せ料理』というのがあったので僕はそれを注文した。運ばれてきたのはお肉。さらには野菜も選り取り見取りで、さらに果物までもでてきた。


 ウマいウマいと僕たちはお任せ料理を満喫するのだった。交易都市の食事は色とりどりでさすがと言わざるを得ない。各地から様々なものが集まるのだから見たことがない食べ物や飲み物で一杯だ。


 本当に目の前を通る人々を、ただ見ているだけでも装備が、服、動物、種族、乗り物、全てが僕を楽しませる。そんな都市だった。

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