第3章 第二王女護衛編

第63話 小悪魔令嬢様からの特別ミッション

 僕は魔滅まめつ御印みしるしから新しい力を得た。それは『無属性の攻撃ができる』ようになるというもののようだ。


 まったく今まで使い物にならなかった魔滅の御印。それが四天王を倒した瞬間、新しいスキルが使えるようになった。


 色々、試してみて分かったことは効果時間は20分くらいということと、効果は実感できないということが分かった。


 恐らく効果時間がある時は右手が光っている。効果がなくなれば光が消える。このスキルを使って攻撃しても使わずに攻撃しても、結果は何も変わらないということが分かった。


 役立たずな魔滅の御印のスキルめ! と思ったんだけども、今まで魔滅の御印に頼ってこなかったのだ。僕にとっては今までと変わらないということだと考えた。


 でも落ち着いて考えれば考えるほど、魔王が本当に復活するんじゃないかと僕は思った。そして魔滅の御印の記録は残っていない。そもそもその時代の記録が残っていない。だからこそ暗黒時代と呼ばれている。


 それはあながち外れていなかったのではないか? と僕は思ったのだった。



 とはいえ今の僕にできることは何もない。魔法学校対抗戦が終わり、いつも通りの訓練と日常を送っていた。みんなの成長を喜び、新学年の2ヶ月後からすぐに始まるクラス別対抗戦に向けて頑張っていた。


 そんな時だ。シャルリエーテ様から


「ちょっとお時間あるかしら?」


と聞かれた。シャルリエーテ様からこんなことを聞いてくるのは珍しい。僕は興味津々で話を聞くことにした。すると


「わたくしの幼馴染を助けてほしいんですの!」


と言われた。何があったんだろうと思ったので


「何があったか話してくれませんか?」


と僕はシャルリエーテ様の話を聞くのだった。


「わたくしの幼馴染はサーラ・レゼルデン・ミットマイヤーと申しますの」


と言われ、なんだか聞き覚えのあるような、ないような名前だなと思った。ちょっと、なんだったかなと考えて、ハッと僕は凍り付く。


「もしかして、国王陛下のご家族だったり?」


「そうですわ。第二王女サーラ様ですわよ。わたくしの幼馴染は」


とあっさり答えるシャルリエーテ様。なんで第二王女とつながりが。


「一体どういう話なんです?」


と聞くとシャルリエーテ様はため息をつき


「南の防衛都市、サウザンストの国王の病死がきっかけですの」


と話し出す。


「現国王が病死したから次の王は誰だということになりましたの。そこが問題の一番最初でしたわ。けれどそれは血みどろの内戦が勃発ぼっぱつするきっかけでしかなかったんですの」


「次の王位継承者がいなかったんですか?」


と、僕は思ったことを聞いてみた。


「いえ。いたんですのよ、第一王子が。けれどもこの第一王子は放蕩ほうとう息子で遊んでばかりだったんですの。けれど第二王子は真面目で礼儀正しく品行方正、第二王子の方が国王にふさわしいのではないかという議論になりましたの」


「はぁ、それでどちらが国王にふさわしいか血で血を洗う内戦に発展ですか?」


と僕は流れから納得してしまう。


「そうなんですの。そして第二王女サーラ様はわたくしの無二の親友。コーダが亡くなった後、王宮に行った時に初めて知り合ってそれ以降仲良くしてたんですの」


「なるほど。でも、このゼルニシティ王国の第二王女のサーラ様がなんで南のサウザンストの国の内戦と関係があるんです?」


シャルリエーテ様はため息をつき


「ゼルニシティ王国の王位継承権は第一王子にあるんです。そもそも第二王女のサーラ様は王位を争う気はないのです。けれどサーラ様を求心力にして王位争いに名乗りをあげたい貴族はたくさんいましたの」


「上を目指すのは悪くはないんでしょうけど、厄介な話ですね」


と僕は相槌あいづちをうつ。


「そういう貴族に利用されないために留学という形でサウザンストに逃げてましたの。けれども、サウザンストの2人の王子はサーラ様との婚約を勝ち取れば、このゼルニシティ王国を味方にできる。それはぜルニシティ王国を後ろ盾にでき王位争いに大きくリードできるチャンスだと考えたみたいなんですのよね」


「なるほど。逃げた先で王位争いに巻き込まれたと」


 逃げても逃げなくてもどっちにしても巻き込まれたって話なのかな? これは。


「サーラ様とはよく話をしましたの。国を守り民を守る。目指すところは同じ。国土をさらに広めようと戦争するつもりもない」


とのことでそこは僕も同意だった。戦闘は好きだけど命のやりとりをしたいかと言われれば話は別だ。死にたい訳でも殺し合いをしたい訳でもない。平和にのんびり暮らしたい。母さんには戦争でひもじい思いはしてほしくない。


 娯楽と現実は違うのだ。


「ですから一緒にサウザンストに来てほしいんですの」


と思いつめたように話すのだった。 


 サウザンストに一緒に来てほしいというシャルリエーテ様だったけれど、それは現状だとなかなかに難しい。僕はまず奨学生。留年ということになったら学費が発生してしまうかもしれない。せこいというなかれ。お金は貴重なのだ。


 日々頑張った成果としてお金をもらう。母さんに今更、学費が必要になってしまったとは、あれだけ喜んでくれていただけに言いにくい。と素直にシャルリエーテ様に相談した。


「一緒にきてくれるならオリタルトの学費くらいお父様と交渉しますわ。」


とのこと。むむむ。ムムム。それなら問題は多くないかもと思っているとシャルリエーテ様は


「旅費ももちろんこちらで負担します。成功すれば成功報酬も出しますわ。オリタルトはまだ正式に冒険者になったわけじゃないですから、これはわたくしから依頼する特別ミッションです」


とニヤリとしてみせる小悪魔令嬢様。「おおせのままに」と僕は冒険者の真似事もしてみたかったし、この特別ミッションに参加することを決意したのだった。



 さてこれからの予定を立ててみた。僕とシャルエーテ様はサウザンストへ第二王女のサーラ様を護衛しに行く。いつ帰ってこれるかは分からない。けれど、「長くても1年くらいを予定しておけばいいのではないかしら」とシャルリエーテ様のご返事だった。

 

 エルバラン魔法学校は3年生にカガリ先輩が進級する。魔法学校対抗戦の行事はカガリ先輩に任せようと思った。頑張って優勝してください!


 3年生だったシリス先輩はエルバラン魔法学校を卒業して王国騎士団へ就職が内定している。完全に回復役として期待されている。


 王国騎士団の信頼を築くのも、あの回復能力ならすぐだろう。また武闘派集団の先輩方もシリス先輩を追いかけるように王国騎士団に所属予定だ。徹底的にしごかれるだろうけど、並大抵のことじゃ負けないだろうしきっと平気だ。


 で、僕はどうなるかという話だけど旅支度は終わった。母さんの説得にも成功した。あとは旅にシャルリエーテ様と一緒にいくだけ。護衛団に守られながらの気楽な観光旅行だと思っていた。


 ところがだ。あと出発まで数日後というところでこの旅にはシャルリエーテ様と護衛1人と僕だけの3人旅ということが判明した。


 こんな扱いでいいのか第二王女サーラ様。


 護衛の人はナルメシアさんという女性の人だった。会ってみた第一印象は屈強な剣士でも騎士でもなく、赤い長髪赤い瞳で透き通るような白い肌。健康的でボリューミーなそれでいて綺麗なお姉さんだった。


 正直、大丈夫なのかなと思ったのだけどたたずまいや脚運びに無駄がない。ついでにいうなら気配を消しすぎ。後ろに突然立っていられるのはとても心臓に悪い。


 暗殺者としては恐らく超一流とみた。シャルリエーテ様の選んだ護衛なんだから信頼はできるだろう。だったら僕はせっかくなのでその技術を学ぼうと考えた。


◇ 


 そして旅立ちの日。カガリ先輩とシリス先輩が見送りに来てくれた。カガリ先輩は


「努力をみてもらえるということがこんなにも嬉しいものなのかと、この魔法学校対抗戦で私はお前から学んだ。私が今度は後輩のみんなの努力を見守る番だと思っている。」


と誇らしげに言っていた。


「期待していますし、心配もしてないです。魔法学校対抗戦は絶対優勝してくださいね!」


とカガリ先輩に言葉を返す。シリス先輩は


「お父さんのトラウマからオリタルト君は私を救ってくれた。お父さんに文句も言ってくれたし、ザルノタールを倒して私のお父さんのかたきも取ってくれた。この恩はいつか必ず返すからね」


と泣きながら笑ってみせた。


「シリス先輩はやっぱり強いですね。それでも泣きたくなったらいつでも言ってください」


と僕はトントンと自分の胸を叩いてみせて「泣きたくなったらいつでも貸しますよ?」とシリス先輩に言葉を返す。


「もう……馬鹿ねっ」


と泣き笑いで応えるシリス先輩。


 いよいよ出発となった時「私もホントはついていきたかった」とぽつりとシリス先輩が言葉をつむいだ。カガリ先輩も「私もだ」と寂しそうにつぶやいた。


 僕はそれを嬉しく思い、照れながらも


「死んでお別れする訳じゃないんです。みんなそれぞれやらないといけないことがあると思います。それをしなければ困る人だって大勢でちゃいます。僕は第二王女のサーラ様を護衛して最短最速で帰ってきますから!」


と説得して「また会いましょう!」と告げ、馬車で旅に出るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る