第54話 ガザとの約束を守るジルニー

 いよいよ僕たちは総合優勝を決める戦いに駒を進める。


 次の対戦校は前回優勝校のヴォラス魔法学校だった。ヴォラス魔法学校って確か闇属性得意の魔法学校だったかなぁと思いだしリーダーはタービさんという男性で闇得意の3年生だった。


「どんな作戦を使ってくるんでしょうか?」


と聞いてみると


「攻撃していると相手のメンバー全員が血まみれになったんだ。」


「そうそう。それを見てあとちょっとで勝てると思って攻撃したんだけど、倒しても倒してもゾンビみたいに復活していってさ。」


「そうね。しかも攻撃力がおかしなくらい強くなっててね。お姉さん、回復頑張ったんだけど回復が追い付かなくてね。」


「こちらは何が起こったのか分からないまま攻撃を受けたら2~3回、下手したらワンパンで行動不能になってバッジを奪われて負けた感じ。」


と悔しそうにしつつも、気味が悪いから戦いたくない相手だと僕に話す。


 なにそのホラーな話。その状況を解決しない限り負け確定な相手じゃないか? と僕は考え込む。「他に何か気づいた点はないです?」と聞いてみる。


「気づいたことって言われても特には……って、そういえばほぼ全員で攻撃しに来てたよ。たぶん旗を守るのが数人で他全員が来てた」


「その情報を得て旗を取りに別動隊をだそうって思った時には、こちらは壊滅的な打撃を受けてて、なすすべなく負けたんだ。」


 なるほどとうなずいてはみるけど、う――ん。わかんない。とため息をつく。なにか特殊なユニークスキルだろうか。その可能性が高そうだけどなぁと、一人でぽやぽやと考える。


 そんな時、クスララ魔法学校のリーダーで弱体魔法が得意なジルニーさんが僕を訪ねてきた。


「いきなりどうしたんです? ジルニーさん?」


と僕は尋ねる。


 対戦相手だった学校の生徒が集まる建物に、護衛を連れているとはいえ貴族様がふらふらやってきていいのだろうか?と思ったんだけど。


「我は君に忠告に来たんだよ。最弱のエルバラン魔法学校が史上最強のヴォラス魔法学校と優勝争いをすると聞いて。」


 ジルニーさんは「ガザとも約束もあったしな」とつぶやいた。


「ん? ガザさんとの約束ですか?」


 疑問の声をあげたんだけどそこは無視され


「君に助言しに来たんだ。」


「助言? というとえーとつまり?」


 要領を得ないやりとりが続いてしまう。


「史上最強のヴォラス魔法学校が君たちエルバラン魔法学校に勝つのは当然の流れだ。しかしそうなってしまうと、君たちに負けた我らは最弱に負けたというレッテルを貼られたままだ。」


咳払いをするジルニーさん。


「だがここでもし仮に、君たち最弱が史上最強のヴォラス魔法学校に勝つことができればどうなる? あの史上最強といわれたヴォラス魔法学校が負けたのだ。我らの負けは仕方ないとなる。そして我らの名誉は守られる。そういう訳だ」


「どういう訳なんです? そのよく分からない理論」


 目が点になる。そこにジルニーさんの護衛が通訳をする。


「オリタルトさんたちが気に入ったから力を貸したいそうです。」


「僕たちが何かしましたっけ?」


「いえ、弱体魔法をああいう形で攻略してきたのは、オリタルトさんたちが初めてだったんですよ。」


 にこにこしながら話をする護衛さん。


「今まではディスペルガードやマウントやエンチャント系の装備品を、お金に任せてたくさん集めて挑んでくるチームばかりだったんですよね。そんな中、考えもしなかった方法で攻略してきた気概きがいをジルニー様が気に入にいったんですよ」


 クスクスとジルニーさんを見ながら笑う護衛さん。


「でもこの方はひねくれてるから、ああいう言い方しかできないんですよね。ほんとに困った方ですよね。ははは」


と小声で話す。


 幸いジルニーさんには聞こえてないようだ。ほんとにジルニーさんに聞こえてたら首が飛ぶんじゃないの? 物理的に!?


 ちょっとびっくりした僕は気をつけて。と護衛さんに小声で話す。すると護衛さんは頭をかきながら


「そこまでジルニー様は救いようのないふところの狭い偏屈へんくつな方ではないんですよ?」


と微笑んだ。この護衛さんの態度や発言をみて、ジルニーさんは、なんか不器用だけど悪い人ではないのかもしれないと僕は思った。


 僕はジルニーさんに向き直り話をきいてみることにした。


「うむ! ヴォラス魔法学校のタービだが奇妙なスキルを使う。対戦中の奴らの話を聞いていた内容から察するに『背水の陣』というのがキーワードのようだった。」


「それって何なんです?」


「『排水の陣!』と声が聞こえた後、血まみれになった奴らをみて好機と思い、攻撃を仕掛けたがヴォラス魔法学校のメンバーの強さが何倍にもなっているようだった。攻撃力が段違いだ。」


とため息をつく。


「そしてディスペルしても効果がなかった。ディスペルが効けば頭に閃くというか強化魔法を解除したというな手ごたえがある。」


 ジルニーさんは頭をかしげつつ


「それが普通なのだが奴らからは効果がなかった。逆にいえばレジストされたという手ごたえすらなかった。」


 そしてあごに手をあて


「そう、何もなかったのだ。奴らに強化魔法は一切かかってない。それにもかかわらず圧倒的な強さを急に身につけていた。」


 お化けでも見たかのような顔をして


「そして奴らを倒したのにも関わらず、倒したはずの相手がまた目の前にいるのだ……だが何故か、そいつは血も流しておらず圧倒的な攻撃力もなかった。」


 そこも謎なのだとジルニーさんは不思議そうな顔をした。さらに


「そして自然と立場が逆転してしまうのだ。危機的状況をあえて生み出し、火事場の馬鹿力で乗り越えていくという過去の文献にあった『背水の陣』のように。」


と言いたいことは終えたとばかりに


「オリタルト。お前はどう思う? この話を。」


と質問を投げかけ僕の返事を待つジルニーさん。


「『背水の陣』が原因なんだろうとは思います。でも強化魔法はかかってないって確信がジルニーさんにはあるんでしょう?」


 僕は腕を組み考えをめぐらす。


「そうなるとユニークスキルかエンチャント系の装備品の効果って考えるのが一番ありえそうな気はします。しかも効果は敵全員にある。そんな規格外のことができそうなのはそれしか思いつかないですね。」


 それを聞いてジルニーさんは


「うむ。我もそう思う。だがこのタービの操る『背水の陣』。これを何とかしない限りお前たちに勝ち目はない。」


と僕に忠告する。


「その圧倒的な強さはずっと続いたんです? あとは例えば二度目に見た相手が攻撃力や血を流してなかったのは間違いなかったんです?」


「恐らく間違いはない。あとは相手の攻撃を気にしない強引な攻撃が多かった。防御を考えてないような。」


「なるほど。背水の陣が始まってどれくらいジルニーさんたちは戦えたんです?」


「我らは背水の陣と思われる血まみれになった奴らをみてから5分で決着がついた。」


 悔しそうに話すジルニーさん。


「我が最前線にいたからな。バッジを奪われて終了だ。」


「その5分で何か変化はなかったんです?」


「変化か? 無我夢中だったから確かなことは言えないが、血まみれの時のやつらが一番強かったような記憶はある。だがしかしだ、そんなことがありえるのか我にはいまいち分からん」


 なるほどと僕は納得した。本気でジルニーさんは助言しに来てくれたのだ。


 この情報をもらっても何も解決しないかもしれないけど、何もわからない状態で解決できるものなど存在しない。


 だから僕はジルニーさんに。


「助言をありがとうございました。できる限りこの助言を無駄にしないように頑張ります。見ててください」


とお礼を言った。


「うむ。そうだな。期待しているぞ。ヴォラス魔法学校に目にものみせてやれ。ふははは」


ジルニーさんは満足そうな顔をして笑って帰っていた。


 僕がこの助言を活かせるかどうかに勝負はかかっている。僕はジルニーさんと護衛さんが帰った後で、『背水の陣』ってどういう能力なんだろうと考えるのだった。

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