魔法空間師見習いソラ ~お城で始める見習い生活!?~

ぼっち猫@書籍発売中!

第1話 友達いなくなったら呪ってやる!

 13歳になった年の2月のある日。

 わたし――間中空まなかそらは、ついにお母さんから”あること”を告げられた。


「空も13歳だし、4月からついに修行が始まるわね。修行中は長期休暇中しか帰ってこられないから、お母さん寂しいわ」


 間中家は、表向きはごくごく普通の家庭。

 でも実は、とっても大事な役目があるの。

 それは、【魔法空間師まほうくうかんし】として特別な空間を操って、悩める人々【なやみびと】を救うこと。


 ちなみにお父さんは普通の一般人で、力を持っているのはお母さんの一族。

 お父さんは、間中家に「婿養子」として迎えられたんだって。

 間中家の力のことは家族以外に言っちゃいけない決まりがあって、お父さんの両親や親戚も誰もそのことを知らないみたい。


「お父さんも、初めてお母さん――とおると出会ったのはその《魔法空間まほうくうかん》の中だったなあ。まるで狐につままれたような、不思議な出来事だったよ」

「うふふ、こうったら。懐かしいわね~」


 仲良く笑い合うお母さんとお父さん。

 でもわたしは、本当はそんな修行なんてしたくない。


「ねえ、やっぱりどうしても行かなきゃだめ?」

「だめよ。これは力を与えられた間中家の宿命なの。大丈夫、空もきっとすぐにこの力が好きになるわ」

「修行ってどういうことするの? どんな場所?」

「それは行ってからのお楽しみ♪ そうそう、【魔法空間師協会まほうくうかんしきょうかい】から、入学にあたってのしおりが届いてたわ。机に置いといたから行く前に読んでおきなさいね」


 わたしは思わず、頬を膨らませる。


「それじゃあせめて、お母さんの《魔法空間》を見せてよ。どんなものかも分からない状態で修行しろなんて、そんなの勝手すぎ!」

「だから、この力は【悩み人】にしか使っちゃだめなのよ。いつも言ってるでしょ」


 お母さんは、困ったようにそう笑う。

 まあ知ってたけどさっ!


 お父さんいわく、お母さんの《魔法空間》は美しいハーブ園のような場所らしい。

 でもわたしは、そのハーブ園を一度も見たことがない。

 1回くらい見せてくれたっていいのに! ケチ!

 今まさに、こんなに悩んでるのに!


 だって、友達とも離れ離れになっちゃうんだよ?

 わたしだって本当は、友達と一緒に普通の中学に通いたいよ!

 こっちに帰ってきても、話が合わないって仲間はずれにされちゃうかも。

 わたしだけそんなリスクを負って、しかも見知らぬ土地で修行しなきゃいけないなんて、そんなの不公平だよ……。

 こわーい山奥とかだったらどうしよう……。

 

 夕飯を食べ終えて、わたしは自分の部屋へと向かった。

 机には、言われた通り分厚めの封筒が置かれている。

 けっこう読むの大変そう……。


 封筒の中には、「【魔法空間師見習い】になる人へ」と書かれたB5サイズの冊子、「【魔法空間師見習い】証明書」と書かれたカード、それから簡単な挨拶文が書かれた手紙が入っていた。


 【魔法空間師見習い】――か。

 幼いころからお母さんやおばあちゃんに話を聞かされてたし、憧れてた時期もたしかにあった。

 でも13歳になったわたしには、もうちゃんとわたしの世界があるんだよ。

 どうせなら、もっと小さなときにその修行が始まってくれればよかったのに。

 そしたらきっと、わたしはそこで友達を作って、楽しくやっていけたのに。


 4月まであと少し、か。

 それまでに、入学準備をしておかなくちゃ……。


 ◆◆◆


 時は少し流れて、4月1日。

 ついに入学の日がやってきた。


「忘れ物はない? そろそろゲートが開くはずよ。冊子やカードも持った?」

「大丈夫、と思う」


 冊子とカード、着替え、ハンカチ、ティッシュ、スマホ、お財布、筆記用具、お気に入りのぬいぐるみ、お菓子、ええとそれから――

 わたしは荷物を改めて確認し、必要なものが入っているかチェックする。


 そしてゲートが現れるらしい玄関に立つ。

 9時ジャストになると、足元に魔法陣のようなものが現れた。

 すごっ! 魔法って本当にあるんだ……。

 友達と離れるのは嫌だけど、この魔法陣にはちょっとワクワクしてしまう。

 わたしは胸の鼓動が高鳴るのを感じた。

 正直言うと不安はある。でも、不思議と怖さは感じなかった。

 お母さんからいつも話を聞かされてたからかな。


「それじゃあ空、気をつけてね。いってらっしゃい」

「はーい、いってきます!」


 ――これでしばらく友達にも、お母さんにもお父さんにも会えないのか。

 こうしてわたしは魔法陣に飲み込まれ――気づくと大きなお城の前に立っていた。


 ――って待って。え、お城?

 わたし【魔法空間師見習い】として修行するんだったよね?

 魔法陣さん、これ場所間違ってない?


 わたしは大きな門の先にあるお城を見上げる。

 どうしよう、関係ない人のお城だったら大変だよね。

 不法侵入になっちゃう。

 そう思ったその時。


 ギギギギギギ……


 金属がこすれる音とともに、大きな門が勝手に開いた。

 えっと……これは入っていいってこと?

 誰かに聞きたいけど、辺りには誰もいない。

 わたしは仕方なく門をくぐり、お城の扉の前まで歩くことにした。


 門の中には広い庭が広がっていて、色とりどりの花が咲き乱れている。

 わたしは修行のために来たことを忘れて、その美しい庭に見入ってしまった。


 しばらく庭の花を眺めていると、突然後ろから声をかけられる。


「あの、もしかしてマナカ・ソラ様でしょうか?」


 振り返ると、そこにはメイド服を着たとてもきれいな女の人が立っていた。

 すごい、本物のメイドさんなんて初めて見た……。


 歳は近所のお姉さんくらいに見えるから、たぶん18歳くらい。

 金髪が太陽の光でキラキラと輝いていて、まるで天使みたいだ。


「あ、えっと、勝手に入ってごめんなさい! わたし【魔法空間師見習い】として修行に来たんですけど、気づいたらこのお城の前にいて、門が開いて、それで」

「いえそんな! こちらこそ気づくのが遅くなり申し訳ありません。私はメイドのリアと申します。ここは空間を司る神スペース様のお城であり、【魔法空間師見習い】様の修行場所です」

「……え? ここが修行場所!?」


 えええええええええええええ!?

 修行ってもっとこう、山奥、もしくは学校みたいな場所でするんじゃないの!?


「あの、寮生活だって聞いたんですけど」

「はい。城内に修行中の宿泊用のお部屋が用意してあります。これからご案内いたしますね」


 リアはそう、わたしをお城の中へと招き入れた。

 じゃあ、わたしこれからしばらくお城に住むってこと?

 だ、大丈夫かな。変なことしちゃわないかな。

 お城に住めるなんてちょっとワクワクするけど、でも緊張で変な汗が出てきちゃった……。

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