お前の話は電車ばかり

山口 実徳

私小説だけはやめておけ!

 山口 実徳みのりと申します、物書きの端くれです。

 とある私鉄で13年、車掌として勤めて参りました。そんなわけで、小説で鉄道描くときは現業目線ばっかりです。


 どこに勤めていたかって?

 ご存知ですか? 退職後も守秘義務というのがあるんですよ? 業務上知り得た情報は墓場まで持っていかないといけないのです。なので、前の会社にまつわる批判的なツイートを目にしても

「それは、これこれこういう理由だから、仕方のないことなんですよ。それが最良の選択ですよ」

というフォローも、一切出来ません。ごめんね。


 13年の間に色々な経験を致しました。夢物語のような話ではございますが、転職活動の一環として小説を書きました。

 馬鹿ですね。本1冊出しただけで、専業作家になれるわけがないのに。


 書いた小説は、私鉄の車掌がSNSを通じてうつ病を患っている女性と出会って結婚し、会社や家庭で悲喜こもごも色々あるうち、彼にも体調の変化が生じ……。

 といった、実体験を元にした暗い内容です。


『守秘義務違反じゃないか!!』

「いいや、これは小説だ!! 鉄道の描写は会社が公表した内容と、観察していればわかることしか書いていない!!」

『職場内のことを書いているじゃないか!!』

「だから、これは小説だ!! それとも、こんなことが本当にあったのか!?」


 ……ここに、凄い気を遣いました……。


 更に私小説はガリガリと身を削って心を削って書くものです。文芸やってるぅ! 気になりますが、大体ヤバい内容か、自己満足の自慢、どちらかに偏ります。お勧めしません。


 じゃあ、エッセイなんか書くなよ。

 いや、本当に。仰るとおりです。


 その当時はうつ本が定期的に刊行されて、鉄道ブームが盛り上がりを見せた頃だから、出版社の目に止まるだろう、という姑息な目論見もありました。

 公募に出しました。

 落ちました。

 転職した頃「共同出版しませんか?」と出版社から電話がありました。

 断りました。

 またしばらくしたら、同じ電話がありました。今度は文庫サイズでのお誘いです。

「退職金のうち〇〇円は好きに使っていいよ」

と、退職した折に妻が言ってくれていました。


 そうして刊行されたのが『海行き電車』です。

 つまり私は、課金勢です。

※リンクは営利目的にあたる可能性があるとご指摘を頂戴したので、削除致しましたm(_ _)m

 ご指摘ありがとうございましたm(_ _)m


 いくら積んだかは答えられません。お教え出来ても、契約ごとに金額を決めているので、参考になりません。


 本はタイムカプセルです、私たちの時間は永遠のものになりました。

 売れない本で、実際に売れていないのですが、本の作り方の勉強になりました。

 引き換えに、お金がなくなりました。コツコツ貯めています。

 前の会社からは、総スカンです。まぁ、そうでしょうね。

 内容が内容のため、刊行したことは家族や妻にも秘密にしています。バレて縁を切られるのも、覚悟の上で出版しました。

 ちなみに執筆中は「委員会の仕事」と言って、誤魔化していました。

 ……自宅に会社の仕事を持ち帰っていたのか? その分のお金は出ていたのか?

 すみません、守秘義務に違反しますので、これ以上は……。


 あんまり語るとヤバいので「海行き電車」の話は、この辺にしておきます。

 本当に、私小説だけはお勧めしません。

 でも、いずれまた書くと思います。

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