第二章 旅立ち

第87話 どうすんの?【1】






「ゼン、これは?」

「それは大丈夫。食べられる」



 俺がリッシュ領を出てから、今日で三日目になる昼前。

 旅は今のところ順調に進み、俺とゼンは、森の中で今日の昼飯の食料調達をしていた。


 ある程度日持ちする食糧は持っているが、これも勉強の一つということで、森の中でゼンが食べれる食材をいろいろと教えてくれる。

 まぁ、マジックバッグに入れとけば、その時点で保存魔法で腐ったりはしないというファンタジーな便利道具があるから食糧には困ってないんだが。いつ食糧が底をついてもいいように果物やキノコなど、食べれる食材を少しでも追加で集めておく必要はある。


 カリスタは、こういう飯時になったら自分で狩りに行くのでそこまで食糧の心配はしてないが。俺達が何か食べてると、デザートに果物などを食べたがるのでその分はなるべく追加で補充しとかなければ。あの子は結構食べるから。




 旅は、ずっとカリスタに乗って移動するのかと思ったらそうではなく。

 カリスタが俺達二人を乗せて一度に移動できるのは約二時間ほど。

 そりゃあ、あの子も生き物だから体力の限界があるし、そんなカリスタが疲れすぎないように半日に二時間だけカリスタに乗っている。

 特に、険しい道のりや、人じゃ乗り越えられない場所などそういう時にカリスタにはお世話になっている。

 その他カリスタは、少し休んだら歩いている俺達を追いかけて飛んできては休んでと、それを繰り返している。


 でも、どうやって俺達の居場所が分かるか気になるだろ?

 なんか、ゼンに聞いたらカリスタとゼンは魔法で主従契約を施しているらしく、それで居場所がお互い分かるようだ。

 たまに人の飛竜を盗む奴もいるみたいだし、防犯などにもなるとの事。



「なぁ、ゼン」

「しっ、リンタロウ……静かに」



 急に俺の言葉を遮ったと思ったら、どこかを向いて耳を澄ませている様子のゼン。

 俺もそれに倣って耳を澄ませてみるが、風の音や木々のざわめきが聞こえるだけでよく分からない。



「…………リンタロウ、ここに居てくれ。森の奥がどうやら騒がしい、様子を見てくる」

「え、俺、何も聞こえなかったけど」

「ふっ、耳も良いものでね」



 ゼンはそう言うと、もう一度念を押して俺にこの場にいるようにと言い、物凄いスピードでどこかへ向かって言った。



「…………はや」



 この場で待てとは言われたものの、突然放置されてこの場を動くなと言われたら何もすることが無くて逆に困る。

 どうしたものかと、ひとりその場で摘める木苺などを摘んで暇をつぶそうかしたその時。



「ん?…………なんか、騒がしい?」



 ゼンが言っていた通り、何やら騒がしいというか、何かが暴れているというか、走っているというか。

 それに交じって悲鳴のような声が聞こえる気がする。


 …………もしかして、音、近づいて来てる?











………………ズドドドドドドドドドドドド!!!

だぁああれかぁあああああ!!!!












「もしかしなくても、近づいて来てるよな!?」



 ゼンにはこの場に居ろって言われたけど、どうする!?

 逃げる!? それとも近くを通り過ぎるのに賭けるか!?



「――――ぅぁぁぁぁああああああああ!」



 バサァッ!!!!!



 凄い音が近づいているのを分かりつつ、どう行動したものかと考えていた矢先、近くの茂みから誰かが飛び出してきた!



「えぇ!? 何!?」



 しかもその誰かは近くにいた俺の手を握って、走るスピードを落とさずにそのまま走り出すじゃないか!



「はぁああ!?」



 何が何だかわからず、引っ張られている手をそのまま俺も走りだし、凄い音で近づいて来る何かから逃げる俺ともう一人。

 普通に魔力を使わずに走っているだけなので、凄い音で近づいて来る何かとの距離はどんどんと縮まっていっていて。

 バキィッ!!! という激しい音を出しながら木をへし折って出てきた凄い音の何かの正体に俺は目を見開いた。



「なんじゃこいつぅぅぅううううううううう!!!!!!!!」



 凄い音を出して俺達? というか、元はおそらく俺の手を引っ張っている奴を追いかけていたであろう何かは、豚なのか猪なのかサイなのかよくわからないでかい動物であった。

 しかも、三頭もいる!!!











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