第83話 HOME SWEET HOME【3】
「「ない!!!」」
「ないんです! 母上!」
「え! どうしたっていうの! ベルトランまで!」
「俺達が用意した!」
「リンへのプレゼントが!」
「ないんです!」
「えっ?あれはリン君にバレないようにってキッチンに隠しておいたはずでしょう?」
双子お兄ちゃんズだけでなく、普段慌てたりする所を見たことがないベルトラン君まで、戻ってきたと思った瞬間叫んだ理由は、どうやら三人も俺へのプレゼントを用意していたようで、それがなくなったとの事。
「それが、奥様。わたくしめもご一緒にお探ししましたが、どこにも見当たらず…………」
「ぇ……、そんな。ひとりでに歩いていくわけでもあるまいし。あそこに置いていたの知っているのはお前達と私くらいだろう?」
「「……………………っは!プティだ!!」」
「ぇっ?」
「あの時プティもいた!」
「きっとプティが持ってったんだ!」
決定的な証拠もないのに核心を持って言う双子お兄ちゃんズは、そう言うと、一目散にプティ君の部屋へと駆けていくではないか。
「あ! こら! お前達! 待て!」
「パルフェット様、俺、追いかけます!」
「あ! リン君!」
そんな双子お兄ちゃんズを追いかけるベルトラン君。
その後ろをすぐに追いかける俺。
なんでかわからないけど、その時俺は、こうしなきゃいけないって思ったんだ。
ベルトラン君を追いかけた先では、既にプティ君の部屋が開かれて、何やら言い争っている声がする。
「プティ! それを返せ!」
「やあ!!」
「返すんだ! プティ!」
「やぁああだぁあああ!!」
「お前達! 何をやっている! 止めるんだ!」
部屋の中へと入ってみると、灯りもついていない部屋の中のベッドの傍で、プティ君と双子が何やら言い争いながら揉み合っており、ベルトラン君がその争いを止めようとする所であった。
「シャルル! サロモン! とりあえずプティから離れるんだ!」
「「でも!! プティが!!」」
「離れなさい!」
プティ君に何やら掴みかかっていた双子に、ベルトラン君の鋭い叱責が入ったことにより、しぶしぶだが、双子はプティ君から離れた。
「いったい、どうしたんだい。プティ」
「なんで隠したりしたんだ!」
「それは、俺達兄弟四人とセリューでリンにあげるプレゼントだぞ!」
なんと、プティ君がその小さな身体を丸めて必死に誰にも渡さないようにしていた物は、俺へのプレゼントだという。
しかもベルトラン君、シャルル君、サロモン君、プティ君、セリューさんの五人からの。
でも、プティ君以外の皆は、それを渡そうとしてくれて、プティ君はそれを隠そうとしていて。一体全体、何がどういう理由でこうなったのだろう。
気になった俺は、プティ君に問いかけてみることにした。
「プティ君…………いったいどうしたの? 何か、嫌なことがあった?」
「………………ぐすっ」
「プティ君…………?」
「だって……これ、わたしちゃうと、リンにいちゃ、遠い所行っちゃう!」
「っ! ………………プティ君」
「ベルにいちゃ!これあげたらリンにいちゃ喜ぶ言った!!! でも、あげたらリンにいちゃバイバイなんてプティ聞いてない!! そんなの嬉しくない!! プティ、リンにいちゃとバイバイいや! ずっとずっと一緒がいい! ふぁああああああんん!!」
プティ君…………………………。
「っ! そんなの俺達だっていやだ! バイバイ嫌なのプティだけじゃない!」
「けど! それは旅に出るリンの無事を願うお守りなんだ!!」
「「だから返せ!!」」
「やああああだああああああ!!!! うぁあああああんん」
「っ! こら! お前達! 喧嘩をするのを止めろ!」
プティ君の叫びを聞いたシャルル君、サロモン君は、涙声になりながら再び叫んでプティ君に掴みかかる。
そんな三人を止めようとする、ベルトラン君の声もわずかに震えていて、泣きそうになっているのが離れていても分かる。
そんな……、そういう理由で、プティ君は、プレゼントを隠してたのか。
みんなも、思い思いできっとプレゼントを用意してくれていたに違いない。
……………………長く、ここに滞在しすぎたのかなあ……。
がばっ!!!
「「「「っ!!!」」」」
俺は涙でぐずぐずになりながらも、喧嘩をしてるプティ君、シャルル君、サロモン君。そして涙を流すのを我慢しながらそれを止めようとするベルトラン君の四人をできるだけ大きく限界まで腕を開いて抱き寄せた。
「ごめん!! みんな!!!」
「ふぇ…………リンにいちゃぁ。遠くへいっちゃやだあ!」
「ごめんね、プティ君。でも、俺、行きたいんだ。外の世界へ」
「っ!! プティの言うとおりだぞ! まだ、リンには教えてない事いっぱいあるんだぞ!」
「シャルル君。また教えてほしい事あったら手紙を書くよ。そしたらその時、お返事くれるかなあ」
「まだ、まだ、リンと一緒にやりたい事あるんだぞ!」
「うん。うん。サロモン君、明日で俺いなくなっちゃうけど、また会える日までそのやりたい事待っててくれるかなあ」
「……………………私だって、私だって! まだ、リンタロウ様に兄さんと呼んでいいか、聞いていないんです」
「ベルトラン君……………………」
「俺も、俺もね、一個やり残してることがあるんだ…………
俺、この家の子に、君たちのお兄ちゃんに、なってもいいかなあ………………!!!」
その瞬間、俺達の後ろから、更に覆いかぶさるように二つの温もりが、俺達を包んでくれた。
それは、パルフェット様と、ドゥース様であった。
「もちろん、もちろんだよ。リン君」
「君はもう、私達の家族だ。リンタロウ」
「っぐす!リンタロウ兄さん、どうか、どうか、道中ご無事でいてください!」
「ふぇ、怪我すんなよお、リン兄!」
「すんなよお! リン兄! ぅっく」
「リンにいちゃあ、いっちゃやだよぉ」
「みんな、みんな……………………
ありがとう、ございます……!!」
その日の夜は、子供達と一緒に毛布を持ちよって、お互い気づかないうちに寝てしまうくらいたくさん話をしてすごしたんだ。
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