第11話  可愛い人は肝っ玉母さん【1】




 あー……情報過多で頭がぽやぽやする。

 上手くまとまらない。



「…………おーい、リンタロウ? 大丈夫か」

「ちょっと……追いつけない」

「ははは、まあそうなるな」



『一気に話してしまった』と、イケメンは長い脚を組みなおしてクスクスと笑っている。

 ほんと、こいつってなんでも様になるんだなあ。

 ついついその仕草を目で追ってしまうほど。


 俺は遠慮なくジロジロと見ていたのだが、イケメンの視線がふいに俺に向いたことでバチっと合った目を俺は思わず逸らしてしまった。

 何やってんだ俺。



「…………初めに戻るけど、そもそもなんであんた日本語なの。最初変な言葉だったじゃん」

「あぁ、それはだな。最初リンタロウが聞こえていた変な言葉ってやつは本来の俺たちの世界の言葉だよ。

 君は前の世界の言葉が脳に馴染んでしまっているだろ? そのままだと不便だから俺が君の脳に魔力を注いで君の馴染みのある言葉、それに聞こえるように変えたんだよ」

「まりょく…………」

「ついでに、不自由がないように君が話す言葉や文字とかも基本的にはこちらの世界の言語に自然となるように変更しておいた」



 なんと、魔力とな。

 便利すぎるだろ。

 さすがファンタジー。

 魔力ということは魔法があるという事だろうか。

 ちょっと見たい。









 ――――コンコン。









「せっかくお話が進んでいるとこ申し訳ないけど。お邪魔してもいいかな」



 扉を控えめにノックし入室してきたのは、先ほどの可愛い人と天使ちゃんのセットであった。

 イケメンと二人きりであった部屋に、その可愛いセットが入室してきたことで部屋の雰囲気が一気に華やかな癒し空間になる。


 おぉ、可愛いセットのマイナスイオン的な癒しパワーが半端ない。



「あぁ、パルフェット様。どうぞ、ご遠慮なさらないでください」

「ありがとうゼン君。実は彼のためにお風呂を沸かしてきたんだ。お湯が冷えないうちにゆっくりと入ってもらおうかなと思って。お話も大事だし進めたいところだろうけど、彼も病み上がりだから今はその辺にしたらどうかな?」



 可愛いセットとイケメンが俺の目の前で話をしている光景は、それはそれはもう眼福です。


 なんだ。

 俺は異世界に来たのではなく天国に来てしまったのか。


 と、勘違いしてしまうほどのとてつもない光景だ。

 今生に悔いなし。

 …………なんちって。



「――――ンタ……君。リンタロウ君?」

「…………っは! はい!」



 しまった。

 つい、目の前の天上の光景に浸り、精神がどこかに飛んでしまっていた。



「ゼン君から聞いたけど貴方、リンタロウ君っていうんだねぇ。自己紹介が遅くなってごめんね、私の名前はパルフェット。この地を治める領主の妻をしているよ」



 おっと! これまた新たな情報が!

 この可愛い人は領主様の妻だという。

 妻って、この人男だよな……?


 少し前のイケメンの話では、この世界には男しかいないって言ってたからこの人が男なのは確かだろうけど。妻という単語が出るくらいだからこの世界では、男同士で結婚して夫婦になることができるのか。

 前の世界でも同性婚はない話ではなかったけど、日本ではあまり馴染みのなかったものだった。



「そして、この子は私の五番目の息子のプティ。リンタロウ君って名前ちょっと言いにくいからリン君でもいいかなぁ?」

「あ、はい!俺のことはどうぞお好きに呼んでください」



 というよりか、天使ちゃんは可愛い人の息子なの!? 男の子なの!? どうやって産んだの!?



 多い情報量に再び精神がどこかに飛びかけたが、俺はパルフェット様に礼儀を尽くしていないことに気が付いたので慌てて精神を引き戻した。

 とてもかわいい見た目に騙されてはいけない! 領主の妻ということは、俺より身分の高い方なんじゃないか!



「あの! 領主様の奥方様……この呼び方合っているんでしょうか。

 とにかく、身分の高い方にお世話していただいた上に、知らなかったとはいえ良いとは言えない態度で接してしまい申し訳ございませんでした。あまり作法などは存じ上げないためご不快な思いをおかけして……」

「いやいやいや! ぜーんぜん気にしないで! 私のことは気軽に名前で呼んで。私たちは一応この領地を収める立場にいるけど、堅苦しいのが嫌いでね。もっと楽に接してくれて大丈夫だから」

「でも…………」



 楽に接してと言われても、それはやってもいいものなのだろうか?

 そういう上流階級の作法も知らなければ、この世界の常識も知らない俺は、そういう行動が正しいのか判断できず、素直に頷くことができなかった。

 何事も初めが肝心というし…………。



「俺、この世界に来たばっかりで常識無いから……」

「もう! そんなこと言う子はほっぺぷにぷにの刑にしちゃうんだから!」

「ぅおっ! ぷふ!」



 可愛い人は俺の頬を暖かい掌で包むともにもに、ぷにぷにと揉みくちゃにしてきた。

 人にこんな風に触れられたことがない俺は、戸惑い固まる。



「ぁ、ぁにょ。おきゅがひゃひゃま」

「パルフェット!」

「……おきゅ」

「パ・ル・フェ・ッ・ト」



 どうやら俺が改心するまでこのほっぺぷにぷにの刑は継続らしい。

 怒った顔も可愛い奥方様、いや、パルフェット様。



「ぱ、ぱるふぇっと様…………」

「ふむ、まぁ、よろしいでしょう」

「ふふ。さすがはパルフェット様」



 むぱむん! と最後に一揉みしてパルフェット様は俺の頬から掌を離した。

 傍で見ていたイケメンはクスクスと楽しそうに笑って拍手していた。他人事のように。

 …………まあ、他人事なんだが。



「さあ! お風呂にしよう! 案内するよ。ついておいで」

「行っておいでリンタロウ。話はまだ続きもあるけど、また今度にしよう」

「さあさあ、行くよー」



 パルフェット様は俺の手を優しく引き寄せ部屋の外へと促し、イケメンはそんな俺に手を振り暖かく見送った。

 もちろん天使ちゃんは俺たちと一緒だ。


 ちょっと話の続きも気になるところだったが、頭が混乱してて一度落ち着いて整理もしたい気持ちもあったので、俺は素直に従うことにした。

















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