第6話 目覚め 【1】




 あははは!


 わーい!こっちにおーいでー!


 まてー!!!


 きゃはははは!










 ………………こどものこえ?

 いったいどこから……。


 遠くから子供の声が聞こえてくる。

 とても楽しく遊ぶ子供の声。

 俺は子供が遊ぶようなところにいたっけ? と気怠い頭で思い返してみると、ゆっくりと思いだした最後の記憶は森の中で超絶イケメンに湖で溺れかけた所を助けられたという記憶だ。


 そうだよ。

 俺はあの鬱蒼とした森の中にいたはずで、子供がきゃっきゃした声を上げて遊べるような場所にいなかったはずなのだ。


 どういう事か確認しなくては。


 その考えに行き着いた俺は、自分の状況を確認しようと閉じていたらしい瞼をゆっくりと開く。

 すると、チカッと瞳に入ってきた光が眩しくてもう一度目を閉じそうになるが、掌で目の周りを覆い光を軽減しつつ、瞼を震わせながら開くとそこに見えたのは見たことない天井だった。








 …………………………何処だ。 ここは。


 どうやら俺はベッドの上に横たわっているらしい。

 深く沈み込んでいる身体から感じる肌触りのいいシーツにフカフカの枕とベッドの感触がとても気持ちが良く、うっかりもう一度瞼を閉じてしまいそうだ……。


 …………っじゃない!

 何処だここは!


 がばり! と身体を起こして見渡すと、俺がいるのはそこそこ広い西洋風のデザインの部屋で。

 横たわっているベッドのすぐ近くには天井近くから床までの大きな窓があり、そこから燦々と明るい日差しが部屋の中を照らしている。

 そしてそこから、聞こえてくる子供たちの楽しそうな声。

 先ほどから聞こえていた声はこれだったのか。


 次に俺は自分のことを確認してみると、最後の記憶にある自分の服装ではないパジャマに着替えさせられていた。


 ぇ、誰が着替えさせたんだろう。


 正直、誰かわからない人物に着替えさせられたという事実に少し恐怖が湧く。


 思わず、着替え以外何か変なことをされてやいないか、と青ざめながら自分の身体を細かくみていくが。縛られてもいないし怪我もしてないみたいだし、体調も不調どころかぐっすりと眠っていたからか、とてつもなく快調っぽい。


 一応不審な点は見当たらなかったので、大丈夫ではないのだろうか……。

 誰かこの状況を説明してくれ。








 ――――ガチャ



「…………ん?おやおや!良かった!お目覚めのようだねぇ」



 状況説明を欲した瞬間、タイミング良く部屋の扉が開き誰かが入ってきた。

 はっとして扉の方を見ると、そこから見えた人の姿に再びはっとした。

 というより、ぎょっとしたといった方が正しいか。


 なんと、姿を見せた人物の髪がピンクだったのだ。

 そう、ピンクである。

 大事なことなのでもう一度言おう。


 だ。


 ど派手なピンクではなく、桜の花弁のような白っぽい淡いピンクなのだが、人間にはありえないその色に二度見どころか三度見、四度見くらいしても足りない。

 そして、こちらを見てくる瞳は美味しそうなレモンイエローのキャンディーのよう。


 他にもいくつかぎょっとした理由があるのだが、まずはその容貌だ。

 柔らかい大きな垂れ目に慎ましいピンク色の唇。

 卵型の小さなフェイスはとてつもなく可愛くて、守ってあげたくなる雰囲気である。

 ゆったりとウェーブした長い髪を項近くで大きなリボンで一つに結んでいるのも可愛さにつながっている。

 俺はその人物の顔を見た瞬間、見たことがない可愛らしい女性だと思った。


 だが、そうではなかった。


 次にぎょっとしたもう一つ理由。




 声が……男性の声だったのだ。


 その声は男性にしては高い方だとは思うが、明らかに女性と言い張るには無理がある。

 それに、その女性かと思ったその人は、今にも腕を握ったら簡単に折れてしまいそうなくらい女性に近い細身だが。良く見ると女性にしては身長が高いし、何よりあれだ。 失礼なことだとは分かっているが、女性にあるはずの胸がない。


 嘘だろ…………、こんな可愛い人が男なのか?


 これは所謂、女装コスプレというやつなのだろうか?

 目の前の人物を不躾にもじっくり観察してみても、カツラにしてはつなぎ目が見えないし、瞳もカラコンの不自然な色ではないような……。


 驚愕し、考え込んで一言も話さない俺に、その辺の女性より女性らしい顔立ちの、おそらく男性である人物が可愛く首をこてんと傾げる様子も様になっていて可愛らしい。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る