第2話 これまでの俺 【2】




 じゃあそれ以外の周りの人間はどうなのかというと、俺は見た目が良かったので小さい頃から女子にも男子にも、それはそれは良くモテた。

 これを聞くと、それは人に恵まれていないとは言えないのではないか。と思われるであろうが、そうではないと言っておく。


 好かれると言っても、いい事ばかりではない。

 例えば俺が小さな子供の頃、同年代の子供達は俺をめぐって言い争いを始め、挙句の果てには手や足を出してしまう事がしょっちゅうであった。

 幼稚園の先生は、そんな子供達を毎回宥めるのが大変であったであろう。

 そんな中心にいる俺を先生たちは腫物のように扱い、子供達の親はそんな異常な光景をみて自分の子供達をできるだけ俺に近づけないようにしていた。


 俺自身もそんな周りに辟易し、なるべく周りと関わらないようにと、子供の頃から周りから孤立していくのは仕方の無い事で。




 だが、それがいけなかった。






「――君、ひとり?」


「え?」






 それは幼稚園での遠足の時の話。

 普通なら全員が楽しむ遠足だ。

 本当ならば仲良く皆で和気あいあいとするはずだが、お昼のお弁当の時間になると俺と食べたいと、普段俺に近づかないように注意してくる親の目がない子供達は、俺を取り合って争い始めてしまった。


 俺は、そんな周りの変貌ぶりが怖くて嫌で、その場から走って逃げ出したのだ。


 先生が離れないように注意する声が聞こえたが、俺は言うことを聞かずに全速力で走り、息が切れてきたところで足を止めると知らない男から声をかけられた。






「……う、うん。みんなが怖くて」


「そうなんだね」






 じゃあおじさんの所においで。


 男はそういうと、にやりと気味の悪い笑みを浮かべて俺の手を握り、引っ張りながらどこかへ歩きだしたのだ。

 俺は、その男の笑みや触れられている手が気持ちが悪くてゾッとしたのを今でも覚えている。

 無理やり強めの力で引っ張られて歩くので、足がもつれて何度もこけそうになるし。明らかに幼稚園の皆と違う方向に向かうその男に恐怖した俺は、大泣きし激しく抵抗した。



「ぅ、うわぁぁあああん!!!!」

「ちっ!大人しくしろ!」

「凛太郎くん!!」

「くそ!」



 激しく暴れる俺と、見知らぬ不審な男を見つけた幼稚園の先生は大慌てで駆け付けてくれて。

 不審男は俺の手を離すと一人走って逃げていき、幼稚園の先生は俺を保護したあと、すぐに警察に電話してくれた。


 その後、すぐには不審男は捕まらなかったが、またしばらくして再び俺の周りをうろちょろしているところを捜査をしていた警察に捕まったのだ。


 どうやらそいつは小さな男の子が好きな気色の悪い奴だったらしく、前から俺のことをずっと狙っていたらしい。

 普段俺は幼稚園から家まで母の送り迎えがあったし、一人で出かけることもしなければ友達という友達もいないし家から出ることもしなかったので攫う機会をずっと窺っていたというのだ。


 今思っても気持ち悪いにもほどがある。


 それからというもの、俺は何かと攫われそうになったり襲われそうになったりするので。その頃はまだ少なからず心配してくれていた母が、護衛兼送り迎えの専属運転手を付けたので一人になることはなくなり、事件に合う回数は減ったのだ。








 だが、俺が人に恵まれない度合いはこれだけにとどまらず。

 やはり小学生に上がってからも男女とわずモテていたのは変わらなかったが、今度は妬み嫉みが入り混じった欲望をぶつけられることが多くなってしまったのだ。


 その時期からが、虐めと言う名の暴力の始まりで。

 それはもう色々とやられましたとも。

 説明するのがめんどくさくなるくらい。


 虐めが鬱陶しくて、男女の妬み嫉みはもう、うんざりと思った俺は、男子校に通えば女子がいなくなる分、半分くらいは負担が減るかと思い中学高校と男子校に通ったがその選択は考えが甘かった。


 男子校に通ってもモテることは変わらなかったのだ。

 しかもたちが悪いのが、成長して思春期に入り余計な知識をつけた男達は、俺のことをあわよくば抱こうと邪な目で狙ってきたのだ。





「す、好きです!付き合ってくれ!」

「ごめんけど、俺は君のことを知らないし付き合わない」

「でも、これから知ってもらえれば!」

「知って俺に得するとは思えない」





「君なら僕に相応しいと思うんだ。ぜひとも僕の隣にいてくれないだろうか」

「相応しいも何も俺が先輩の隣にいて何が相応しいのか意味が解らないのでお断りします」

「はは、恥ずかしがっているんだね。恥ずかしがらなくてもいいよ」

「恥ずかしい?そちらの勘違いの方がよっぽど恥ずかしいと思いますけど。用がこれだけならこれで失礼します」





 同級生から告白されるのも、上級生から告白されるのも、後輩から告白されるのも、嫌なことに慣れてしまってきてはいたが。





「はあ、はあ、ねえ解っているんだよ僕は。君が僕のことを熱く見つめていることを」

「気のせいです先生。気持ち悪いです。帰りますね」





 まさかの教師まで言い寄ってくるのは、心底気持ちが悪かった。


 もちろん、その教師は教育委員会に報告させてもらった。


 俺のせいで中学高校の教師は何人か変わったことがあるし、言い寄ってくる生徒はことごとく冷たくあしらったし。手を出そうとしてきた奴には、持ち前の運動神経で逃げたり今までの経験で護身術を習っていたので、それを活かして正当防衛をさせてもらいましたとも。


 そんな俺についたあだ名は『氷の薔薇』。


 一人孤立して誰に対しても冷たく、美しいのに薔薇のように棘を持っており瞳の色も氷のようだということでこのあだ名らしい。

 全くもって気に食わないあだ名である。






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