妖怪退治は喫茶店の店長のお仕事です。

@zarusoba1234

第1話 満身創痍の来客

 「誰もきませんねぇ~……」


 古びた木製のカウンター席で腕を組みその上に顎を乗せながら駿河桜するが さくらは大きな欠伸をした。


 「毎回思うんですけど、お店開く意味あります?誰も来ないなら店閉めましょうよ」


 「おいおい……店長の前でそれ言うか普通?泣いちゃうよ?」


 カウンター席の内側でガラスのコップの水分をタオルで拭きながら相葉直政あいば なおまさは目元に手をやり泣く仕草をした。


 「だってそうじゃないですか。今月に入って5人しかお客さん来てないんですよ?どんな場末の店だってもう少し客足が多いですよ」


 「別にいいんだよ。趣味でやってる訳だし。それにで十分稼いでるから」


 「ま、接客する必要もほぼないから楽なんですけどね。お給料が高くなかったらとっとと辞めてますよ」

 

「そろそろ本当に泣くぜ?」


 直政が経営している喫茶店『NAOMASA』は京都市内の出町柳駅の近くにある富士商店街の中にひっそりと建っている。直政が自ら海外に出向き厳選したコーヒー豆を取り扱っているのだが、商店街の隅っこに位置している事や正面や隣が空き店舗になっている為この場所までわざわざ客が出向くことはほとんどない。アーケードの入り口に食品店が集中しているから尚更だ。


 「それにしても熱すぎません?エアコンちゃんと効いてないでしょ」


 「仕方ないだろ。業者に新しいものを注文したら一ヵ月後くらいになるって言われたんだから」


 6月に入ったばかりの京都市内は盆地という地形のせいか他府県より更に気温が高くなっている。先週の京都市内で最高気温を38度記録した程異常に熱さが全国を覆っていた。


 「はぁ、早く秋にならないかな―――」


 桜が溜息をつくのと同時に入口の扉が大きく軋みながら空いた。


 「あ、いらっしゃ―――」


 と言いかけて桜は口をそのまま固めた。入口に立っているのは桜より少し背の低い少年だった。黒いズボンと半袖の白いカッターシャツに身を包んでいる。


 いや、それよりも目に付くものがあった。それは彼の右肩から大量に血が流れだしている。それは右手の指先まで伝い床に小さな血だまりを作っている。


 「あ、あの……、た、助けてください……!」


 ふらふらと店内に入ってきた少年はそこで力尽きたのかふらふらと左右に揺れながら前へと倒れていった。


 「っと」


 桜の横にいた直政は俊二にカウンター席を跨ぐと顔面を地面にぶつける寸前に少年を抱きとめた。


 「……お、鬼に……こ、殺される……」


 息も絶え絶えの状況で譫言のように呟き少年は意識を失った。


 「……死んじゃいました?その子」


 先程のだらけた表情が嘘のように変わり緊張を含んだ真剣な面持ちで桜は直政に問いかけた。


 「いや、気を失っているだけだ。それより―――」


 直政は少年を抱きかかえながら桜に指示を出した。


 「今日はもう閉店にしよう。どうやらあやかしの仕業だ」



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