第29話 結婚式

 翌日、筋肉痛の体にムチ打ち、生徒会室に男四人で集合した。


「なんだ三人とも。あれくらいで筋肉痛かよ」


 踊らなくてすんだセオドアがカラカラと笑っていた。


「それで? バージルの目眩があったということはコンラッドはパティリアーナ嬢に惹かれたのですか?」


 ウォルはセオドアを無視した。


「いや、惹かれはしなかったよ。でも、バージルに教えてもらったセリフは言われた」


『わたくしたちの繋がりが国と国との繋がりになりますのよ』


 これはそのままの意味でだからこれからも同世代として仲良くしようという話だったようだ。


「『王様でしたら側室を持つこともゆるされますでしょう』でも、マーシャ様を大切にしないとどこからでも飛んできて怒ります」


 コンラッドはパティリアーナ嬢のマネをしたのだろうが全く似ていない。


「だから『僕は王様にならないよ』と言ったんだよ。そうしたらな『王族には何があるかわからないのです』だって」


 あまり知られていない話だそうだ。もちろん僕達も知らなかった。

 パティリアーナ王女殿下には本当は兄が二人いて一人は小さい頃に毒殺されたそうだ。だからこそパティリアーナ嬢の兄はいつも国王陛下と王妃殿下の近くにいたらしい。毒見役など、そうたくさんはいるものではない。


「万が一の時には『あなたが王になるのですよ』公爵になった後でも、外での食事などには気を配らなければなりませんよ」と王族としての心構えの話だったようだ。


「僕よりよほど王族としての心構えをご存知の方だったよ」


 コンラッドは本気で感心していた。


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 新年の王城での舞踏会には今まで浮いた話が何もなかった公爵家の跡取りと辺境伯の跡取りが揃って美しい女性を伴っていたと大ニュースになった。その女性の正体がまさか学生さらに留学生だと思わなかったようで、一ヶ月以上、謎の美女たちと言われていた。大人びた化粧も技術の一つなのだろう。本当に女性は怖い。


 コンラッドは成人したので今年からこの舞踏会に王子としてマーシャとともに参加したのだった。セオドアは専属護衛として脇にいたそうだ。

 ゼンディールさんのお相手がコレッティーヌ嬢の化粧変えとマーシャから聞き二人とも口が閉まらなかったとマーシャが笑って教えてくれた。


〰️ 〰️ 〰️


 二月、ディリックさんの結婚式に僕たちは家族で招待された。その際、ティナはウォルを僕はクララを婚約者として同伴した。

 ディリックさんのお嫁さんは、侯爵家のご令嬢で去年の卒業とともにすでにディリックさんと伯爵領へ行き花嫁修業という名の領地経営をしているそうだ。


「全く! 兄上が待て待てと言うから結局年を越してしまったよ!」


 ディリックさんはゼンディールさんに怒っていたがその理由がゼンディールさんがコレッティーヌ嬢に求婚したくて足掻いていたからだと知り溜飲を下げていた。なんやかんやと相手のいなかった兄を心配していたのだろう。

 コレッティーヌ嬢を紹介され納得した表情をしていた。コレッティーヌ嬢は今日は素顔の美人化粧だ。


「何度見てもすごいね」


 ウォルは感心していたし初めて見たティナはジロジロと舐めるように見ていた。ティナはコレッティーヌ嬢の不細工化粧しか知らなかったのだ。とはいえ、最近は随分と素顔に近くなっているそうだが。……いやいやいや。


 エイムズ公爵邸で行われた披露宴なのでパティリアーナ嬢も参加していた。お相手の辺境伯様はカッコいいが強面で近寄りがたい。と、思っていたら、パティリアーナ嬢を見る目がデレデレでクララが嬉しそうに笑っていた。


「コレット様から教えていただいたのですけどダリライト様はパティ様が王女殿下であることをご存知なのですって。その上でご一緒なのですもの素敵な方ね」


 つま先を一生懸命にあげて僕の耳元で内緒話をするクララの腰を支える。クララの甘い香りが僕を気持ちよくクラクラさせる。本人はそんなこともにも気が付かず無邪気に喜んで報告してくれる。

 来年の今頃は僕たちも夫婦になっている予定だが僕はそこまで我慢ができるのだろうか。


 クララの腰に回した手に力を入れてクララの方を向けば耳元にあった柔らかいものに僕の唇が当たる。わざとだけど。

 クララがその場に膝を崩した。僕は支える腕をそのままに心配するような仕草で椅子へと連れて行った。キスをするのは初めてではないのにいつも可愛らしく反応してくれることに嬉しくなってしまう。

 落ち着いた頃のクララに怒られることになるのだが、その仕草も可愛らしいので怒られることなどなんてことはないのだ。


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 ディリック様の結婚式です。披露宴も随分と盛り上がった頃、いつの間にか、女四人でお茶をしておりました。


「マーシャ様は今日はお一人ですのね」


 わたくしはキョロキョロとしました。今日、ウォルバック様とボブバージル様とはご挨拶いたしましたが、コンラッド王子殿下にはご挨拶していなかったので気になったのです。


「まだ王子殿下ですから、式にお呼びするわけにはまいりませんでしたの。本人は悔しがっておりましたわ。オホホホ」


「あ、だから、マーシャ様はディリック様としか踊られないのですね」


 パティ様も気にしていらっしゃったようですわね。

 花婿様花嫁様へのお祝辞でご本人様と少しずつダンスをする習わしがあるそうですの。曲の途中でクルクルと相手を変えるのです。わたくしは初めての参加でしたのでタイミングが難しかったですわ。なんとかディリック様のお手を取ることができお祝いのダンスに参加できましたの。パティ様も初めてのはずですのに流石にわたくしとはテクニックが違うようですんなりと踊ってらっしゃいました。

 一曲すべてを踊れるのは花嫁のお父上様と花婿のお母上様だけだそうですわ。ステキな習わしですわね。


「そういうパティ様もリックお兄様以外はダリライト様だけですのね。うふふ」


 マーシャ様は一人っ子で小さな頃からお隣に住むエイムズ公爵家の人たちと仲が良かったそうでディリック様のこともゼンディール様のことも『お兄様』と呼ばれます。

 パティ様は顔を赤らめて小さく頷きました。


「ダリライト様もパティ様を大切になさっているように見えますわ。お二人の並んだお姿はとても素敵でしたわよ」


 クララ様は聖母の笑顔で褒めていらっしゃいました。『はるか』は、前世でキリスト教なる宗教の信者であったそうですの。わたくしがクララ様を初めて見た時から好きだったのは、『はるか』の影響があるのでしょう。

 今ではクララ様の全部が好きなので、きっかけなど些末なことでございますわ。


「パティ様。やはりあのお菓子事件がきっかけですの?」


 マーシャ様が身を乗り出してお聞きしております。


「そのお菓子事件って何ですの? わたくし、参加しておりませんから知りませんの」


 わたくしが少し悲しそうに言うとマーシャ様が説明してくださいました。


 初めてダリライト様が『マーシャ様の会』に参加なされた時のことです。一通りお話番が終わり自由な時間となりました。パティ様は給仕係にケーキをよそってもらう際少し余所見をしてしまいケーキを落とされてしまったのです。慌てる給仕係と謝るパティ様。注目される視線。

 そんな中でダリライト様はお皿をぶちまけ大きな声で謝られたそうです。

 「すまないっ!」

 強面のダリライト様がお菓子を落とされて謝る姿を凝視できる者はおらずパティ様への視線もなくなりました。

 ダリライト様が庇おうとしていたのが給仕係なのかパティ様なのかはわかりません。どちらであったとしても庇おうとするその姿勢がステキに見えたそうです。


「それにしましても不器用な庇い方だとは思いませんか? わたくしより不器用な方もいらっしゃるのねと思いなんだかほっこりしてしまいましたの」


 マーシャ様のご説明にパティ様はご自分のお気持ちを付け足されました。それをお話するパティ様はとても美しくまさに恋する乙女でございました。


 マーシャ様のご説明の中の『謝るパティ様』というところでゴクリと息を飲んでしまったことは誰にも秘密です。パティ様の変化はよくわかっておりますがそれでも心配になってしまうのです。そして、その心配が杞憂に終わると後からとても嬉しい気持ちが湧いてまいります。

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