第19話 異国文化交流会
いつものように四人でランチプレートを持って席につきますと、クラスメイトのご令嬢が声をかけてくださいました。
「あのぉ。わたくしたちもランチをご一緒させていただきたいのですけども……」
伯爵家のエイミー・アルフォード様と子爵家のケイトリア・マッコニー様です。わたくしたちはパティ様のお顔を見てしまいました。パティ様がその視線を感じてギョッとします。そして可愛らしくお口を尖らせました。わたくしたちはクスクスと笑ってしまいました。
「もちろん、よろしくてよ」
ここではマーシャ様がお返事をなさいます。マーシャ様が一番高位貴族ということになっておりますので。
どうやらお二人は去年まではマーシャ様やクララ様とご一緒にランチをしてらしたのですが、わたくしたちに気を使って離れていたらしいのです。
「近頃、随分と楽しそうになさっていらっしゃるのですもの。羨ましかったのですわ」
エイミー様は朗らかにおっしゃいました。マーシャ様が『ハッ』とされました。
「そういえば、お二人はご婚約者様はいらっしゃらなかったですわよね」
「はい。父には学園にいる間は自由にしていいと言われておりますの。卒業したらきっとお見合いの日々になりますわ」
ケイトリア様は困った顔をしていらっしゃいます。
「わたくしは侍女でいいと思っておりますの。殿方とは接点がなく苦手ですの。
マーシャ様。公爵家で空きが出たら教えてくださいませね」
エイミー様は両手を前で合わせて首を傾げお願いとしております。可愛らしわ。
わたくしはマーシャ様があのお見合いにお誘いになるおつもりだとわかりました。お二人は次女でいらっしゃるそうです。
わたくしはこのお二人より魅力的に見ていただけるかしら。とても自信をなくしてしまいました。
エイミー様はファッションにご興味がある方でパティ様とドレスのリボンのお話で大変盛り上がっておりました。
ケイトリア様は市井のことをよくご存知で新しくケーキのお店ができたのだとお話してくださいました。ケイトリア様は子爵家でも裕福で王都に屋敷をお持ちだそうです。
ケーキ好きな方というだけで花丸判定確定ですわ! 今度ご一緒にケーキを食べに行きましょうとお約束いたしました。
〰️ 〰️ 〰️
そうしている間にも生徒会のみなさまは、お見合いではなく「異国異文化交流会」の企画を進めていてくださり、十月の下旬に第一回目の異国異文化交流会が行われました。
会場はマーシャ様のお屋敷ホーキンス公爵邸でございます。
男性参加者四名、女性参加者六名と聞いております。女性にはマーシャ様とクララ様が含まれます。お二人のサポートはここまでしてくださることだなんてなんて素晴らしい方々なのでしょうか。
エイミー様がケイト様をお迎えに行きその後寮まで来てくださいました。
馬車ではわたくしどもはワクワクしてしまい、ハイテンションでお話しております。
あら?
「パティ様? いかがいたしましたの?」
エイミー様たちを待つ間は何でもなかったように思われましたが具合でも悪いのでしょうか?
「わ、わたくしっ! やはり、お部屋へ戻りますわっ!」
「「「えっー!」」」
わたくしどもは口に手を当て紙一重で淑女でおりました。
パティ様はなぜか泣きそうなお顔です。
「だって、だって、わたくし、家族以外の殿方とお話したことはございませんもの」
「「「えっー!」」」
ケーバルュ厶王国でも一緒にいたはずのわたくしでさえ衝撃の事実でしたわ。
ポツポツと話されるパティ様のお話ですと、ケーバルュ厶王国でのお茶会は女性だけをご招待しておりましたし、ご学友も誰もお声掛けされず、とうとう今日まで殿方とテーブルをともにしたことがないそうです。
まさか、わたくしより箱入り娘がこんなところにおりましたわ。まあ、ケーバルュ厶王国でお声掛けがなかったことはご本人にも理由があるのですけれど。
ケーバルュ厶王国でのお茶会が王宮ですと言ったらお二人はびっくりなさるのでしょうね。ふふふ。言えませんけど。
「お勉強は一緒にできますのよ。家庭教師も男性が何人かいらっしゃいましたし」
つまり、教科書を解説されるとか、わからないところを説明されるだけで、それはパティ様にとって会話ではないということらしいですわ。
こちらに来てから三ヶ月。あの殿下とのやり取りその後のウォルバック様とのお勉強以外お話はしてないそうです。
「殿下にご挨拶など無理だったのですねぇ」
わたくしは思わず遠い目をして呟いてしまいました。パティ様は慌ててわたくしの口を塞ぎました。エイミー様とケイト様には聞こえなかったようですわ。
こちらに来た当初は自分が殿方と話せないことを忘れてしまうほどパティ様はプレッシャーを感じ余裕がお有りにならなかったのでしょう。本当に高官様はひどいことをなさりますのね。
それからはパティ様のお気を紛らわす作戦です。
「パティ様。大丈夫ですわ。本日はグループでのお茶会ですし」
エイミー様が一生懸命に励まします。
「そうですわ。マーシャ様もクララ様もいらっしゃいますもの。サポートしてくださいますわ」
ケイト様もパティ様のお膝を触り励ましております。きっとお二人も楽しみにしてらしたのでしょうね。
エイミー様はメイドになるとはおっしゃっておりましたが、出会いがあれば話は別なのでしょう。ケイト様も今回のお話は卒業後のお見合いよりは自由恋愛度が高く希望をお持ちのようですわ。
わたくし?
わたくしはもちろんやる気いっぱいですわよ。自信はありませんが……。
一応「異国異文化交流会」ですのでわたくしとパティ様がお話の中心になれるのではないかと自分自身でないところに期待しております。
「わ、わかりましたわ。と、兎に角、わたくしはお話には入れませんわ。ごめんなさい」
わたくしは違う意味で泣きたくなりました。まさかパティ様から『ごめんなさい』が聞けるだなんて! 雛を見つめる親鳥の気分です。
え?親鳥ってそうなんですの?
『はるかの知識』は範囲が広いですわね。
と、いけない、いけない。
「とりあえず、公爵邸でマーシャ様にご相談してみましょう」
エイミー様とケイト様はブンブンと縦に首をお振りになりました。パティ様は上目遣いで私を見て縋るような目で頷きます。
なんですかっ、その可愛らしさはっ!三ヶ月前迄の貴女に教えてあげたいですわっ!
ホーキンス公爵邸に着きますと執事にお願いしてエイミー様とケイト様がパティ様を応接室へとお連れになりました。
わたくしは玄関ホールでマーシャ様とクララ様と急ぎの立ち話です。
お二人もわたくしの説明に呆気にとられておりました。
「まあ、では今日は少人数はやめましょう。みなさんで一つのテーブルにいたしましょう」
使用人の皆様が素早く用意してくださいます。さすがの公爵邸ですわね。
サロンに用意されたテーブルてはパティ様のお隣にはマーシャ様とクララ様がお座りになりサポートなさいますがパティ様はご挨拶以外にはお話ができず、さらにカップを落としましたの。数センチでしたのでカップもお皿もお紅茶もなんともありませんでした。手が震えていたようですの。大事にはなりませんで本当によかったですわ。
わたくしは優雅にお茶を飲まれる姿を何度も見ておりますのでびっくりでしたわ。
でも、パティ様はおかわいそうに。それからはさらに萎縮してしまいお紅茶にも手をつけなくなってしまいましたの。
パティ様以外は和やかにお話も進みました。お三人とも紳士的な殿方でこちらの話もにこやかに聞いてくださいますし、わたくしがケーバルュ厶王国のお話をすれば、パールブライト王国ではこうですよとすぐにお答えいただき、知識の広さも感じられました。さすがにお三人とも侯爵家のご長男様でいらっしゃいます。
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